内省の語りが丁寧で、感情と言葉の距離感が絶妙な掌編でした。 “泣く/泣かない”を軸に、自分の薄さや関係性の揺らぎを見つめる視線がどこか冷静で、それゆえに静かな痛みが滲みます。兄とのやり取りは淡々としているのに、そこには確かな温度や依存と距離の入り混じった複雑さがあり、最後の「すとん」という音が物語全体をひとつに結び、余韻として残りました。控えめでありながら深い感情を浮かび上がらせる、静かな響きを持つ作品でした。