第一章:エリザベス・ウイルス

第一話:魔法少女たちの学園生活

「――ちょっと北川さん! 聞いてるの!」


 突然女子高生となった佳祐は、昨夜も自分の身体を念入りに研究していて、そのたわわな身体つきを思い出し、ぼーっとしていた。

「女の子の身体ってこんなになってるんだなぁ。柔らかいし、どこ触っても気持ちいいし……」

「おい! 北川ぁ!!」

「あ、はい!」

「あなたは、毎日毎日ぼーっとしてるわね。どうせ自分の身体のことでも思い出してたんでしょ? もうここに来て一週間よ? そろそろ自分の身体に慣れなさい!」


 二十人のクラス中の生徒たちがクスクスと笑っている。

 担任の関谷は何でもお見通しのようにそう言い放ち、眼鏡の縁を右手でカチリと押し上げると、授業を続けた。


「――『エリザベス・ウイルス』は、これが発症すると性別が変異し、しかも十代半ばあたりの若者になってしまう。でもこの効果があるのは、長年の研究の結果、一定の条件を満たした者だけでした。さてその条件とは……、えーっと、和泉さん、分かる?」


 関谷にそう言われて起立した和泉優子(いずみゆうこ)は、いかにもクールビューティーといった出で立ちのルックスをしており、クラスでも一目置かれた存在であり、優等生だった。

 高い身長に黒髪のさらさらロングヘア。さらに性格も温厚でクラスの人気者という、絵に描いたヒロイン属性の女子だった。


「はい。その条件とは、ウイルスは少なくとも生後三ヶ月以内に摂取すること。ウイルスは四世代にわたって日本人のDNAを保有していた場合のみ発症する。そして三十歳になるまで異性との性交渉の経験がない、ということです」

「そうですね。付け加えると、ウイルスが発症した副作用として、元々本人が持っていた資質が大きく向上するという特性が挙げられます。そのおかげでみなさんは魔法のような特殊能力が使えるのです」


【講義ノート:光島の基礎】


 ――今から150年ほど前、日本は深刻な少子化により人口が五千万人を下回った。政府は移民受け入れなど多様な対策を講じたが、いずれも対症療法にとどまり、根本解決には至らなかった。

 そこで政府は少子化対策として『エリザベス・ウイルス』を開発・義務化。発症者は危険な副作用=特殊能力のため隔離された。能力は一見“魔法”のように発動し、発症者は魔法少女と呼ばれた。

 また、発症により年齢が十代半ばへ若返ることから、該当者を全寮制の高校に集めて一括管理する体制が敷かれた。


 佳祐はあの誕生日の朝、あっという間に見ず知らずの町まで連行され、三十歳になったにもかかわらず、全寮制の高校に入学させられていた。エリザベス・ウイルスが発症し、巨乳の可愛い女子高生となってしまったためだ。


 その高校である『光島高校』は、政府が管理する瀬戸内海に浮かぶ三島からなる群島の一つ『光島(ひかりじま)』にあった。

 光島の島民はすべて、ウイルスが発症した元童貞の男性たち(現在は女性)だった。


 群島には光島以外に二島あり、一つは『黒島(くろしま)』、残りが『狭間島(はざまじま)』と呼ばれていた。

 狭間島は、この三つの島々と外界をつなぐ唯一の島で、港と空港があり、毎日のように生活必需品や食料などが送られてきていた。

 他の市街地などは内乱が続く戦場のように荒廃しており、とても人が生活できるような場所ではなかった。

 一方、黒島については謎に包まれていた。判明しているのは、『ブラックフラッグス』と呼ばれる悪党どもが巣食っており、物資を強奪したり、なぜか光島の者を拉致したりしていることだけだった。


――――――――――――


 ケイとなった佳祐は、女子高生の制服や下着――スカートやブラジャーに、まだ馴染めないでいた。

「下半身はスースーするし、胸は締め付けられるし、慣れないな……」


 授業中でも、常に自分の身体が女の子として馴染んでいく変化が気になって仕方がなかった。


 身長は160センチ程度で、明るめのショートカット。顎が少し尖ったようなシャープなフェイスラインの美少女だった。

 全体的に引き締まった身体つきだったが、胸はやたらと大きかった。


 歩くたびに胸が揺れ、意識してしまい、ちょっと変な気分になる。

 それでもケイは日に日に女の子に順応しているのが自分でも驚くほどだった。


 特にお風呂に入ったときに今の姿を映したときは、見えているのが自分の身体なのに恥ずかしいやら嬉しいやら――童貞のまま大人になったケイは、なんだか得をしている気分になった。

「タダで女子高生の裸が見放題なんて。これは嬉しすぎる……!」

「女の子の身体ってこんなふうになってるんだな。不思議だなぁ……」


 自分のたわわな胸を見たり触ったりするたびに複雑な気持ちが交差したが、悪い気分ではなかった。

 この島に来てから、ずっと自分の身体のことが気になって仕方ないケイだった。


――その数日後、ケイは“最初の実技”に叩き込まれる。

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