童貞と魔法少女と処女と悪党
暁月達哉
序章
序章:三十歳の誕生日の朝
「誕生日おめでとう」
「誕生日おめでとう、お兄ちゃん」
「おめでとう、佳祐」
小さい頃は誕生日が来るのが嬉しくて、前の日から何が貰えるのか楽しみで眠れなかった。
ケーキ……
プレゼント……
誕生日前夜、翌日に三十歳の誕生日を迎える北川佳祐(きたがわけいすけ)は、もう誕生日なんて来なければいいとベッドの中で鬱々としていた。
この約三十年。振り返ってみるとほんの一瞬のことだったが、時間として考えれば随分と長い。
「三十年も時間があったのに、どうしてオレはまだ童貞なんだ……」
今年は西暦で言うと2252年。生まれた年は2222年だ。当時は数字の二が並ぶので縁起が良いと世界中で祭りになっていた。
幸か不幸か、佳祐は2月22日生まれのため、「アルティメット・ミレニアム・ベイビー」などと、珍妙な呼び方をされたりした。
佳祐は周囲からとても祝福されたと、これまでに何度も聞かされたし、両親や産婦人科の医師、看護師たちが派手に祝ってくれる出産祝いのビデオを何度も見せられたこともあった。
それらはすべて昔のこと。
これまで一人として彼女ができることもなく、残念で寂しい青春時代を過ごし、佳祐の三十年という長い時間はエッチな動画と妄想で支えられていた。
――男は三十歳まで童貞でいると、魔法使いになれる。
随分昔の話だが、ネット上でこんな噂が冗談めかして拡散していたことを知っているだろうか。
そして、その翌朝。
「う、うーん……」
北川佳祐は目覚めた。
時計を見ると、八時すぎ。
外は晴れているようだ。
今日は佳祐の三十回目の誕生日。
目が覚めて、布団の中で少し寝返りを打ったとき、妙な違和感を覚える。
「ん? 何? これ……」
なにやら胸の周りが重い感じがする。
腕を曲げて触ってみると、妙に胸が柔らかく、ぷにぷにとしている……?
「え? ええええ!?」
佳祐はガバッと起き上がり、自分の胸を見下ろしてみると、寝巻き代わりに着ていたTシャツの胸が前に大きく突き出している。
「――こ、これがオレの……胸? いや、これはおっぱい……だよな……」
佳祐は三十歳になる今日まで童貞だった。
だから物心ついてから本物の女性の胸を見た記憶は、残念ながらない。
もちろん母親の胸なら見たことはあるだろうが、記憶の彼方だ。覚えているわけがなかった。
物心ついてから女性の胸に触れたことのない童貞男子だから、自分の胸とはいえ、俄然興味が湧いてきた。
「――ちょっと触ってみるか……。じ、自分のだし……」
まず、膨らみの下から持ち上げるように自分のおっぱいを両手で支え、持ち上げてみた。
「――おぉ、意外に重みがあるな……」
自分の身体を触っているとはいえ、想像以上の柔らかさに、背徳的で不思議な気持ちになった。
「うーん……、ちょっと……、変な気分……」
なぜ自分の胸が膨らんでいるのかということに考えつく前に、もっと別のことが気になりはじめた。
「――身体が女の子になってる……? それなら下のほうは、ど、どうなってんだろ……」
半ば当然のごとくそこに興味を持ってしまった佳祐は、自分の下着の中に恐る恐る手を伸ばしてみる。
自分のパンツの中に手を突っ込む行為に、こんなに抵抗を感じたのは生まれて初めての経験だった。
寝巻き代わりにしているハーフパンツのゴムと下着とで立ちはだかる二重の城壁を突破したとき――。
――バーンッ!!
突然、部屋のドアが開け放たれ、見慣れない男性が二人、そこに立っていた。
そして、佳祐の部屋に入ってきた男たちが、強い命令口調で言った。
「北川佳祐君。我々は少子化担当省の者だ。今から君を強制連行する。分かっていると思うが君に拒否権はない。すぐに着替え給え!」
―――――――――――――
みなさん、初めまして。
この小説は数年前に書き上げたものですが、今回ブラッシュアップして再投稿しています。
ちょっとえっちで笑って泣ける魔法少女(?)たちの熱い日々を楽しんでもらえたらと思います。
よろしくお願いします!
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