ままならない@まりかさん

🕰️イニシ原

第01話 ままならない@まりかさん

 ☆前書き――


 西暦3311年、ネオ・ヨコハマに77年ぶりの雨が降った日、空に浮かぶ居住体で暮らすAIエンジニア・まりかと、彼女が作った自由意思を持つAI、アッシュとローズの物語です。

 気象衛星へのハッキング、謎の組織「星屑マーケット」、そして他のAIとは違う特別な存在であるアッシュとローズ。

 疑似家族のような温かい関係の中で、大きな陰謀が動き始めます。


 遠い未来SF × 家族愛の物語をお楽しみください。


 ◆◇◆◇ ★ ◇◆◇◆




 ネオ・ヨコハマに建ち並ぶメガ級高層ビル。そこには”雨”が降っていた。


 その場所の上空に浮かんだ、逆さの傘に見える自由浮遊式居住体『アクシオメ・オルピス』の中で、スーパーAIエンジニアの『まりか』はデスクに肘をつき、長い髪を指に巻きながら二人と話していた。


「ねぇ、君たち。遊びに出かけるのはいいけど、壊して帰ってくるのはダメだよね?君たちがいたずらしただけで、ネオヨコハマの天気どころか、街のデータ網までダメになるんだからね。

 前は中華街を12分ダウンさせて大騒ぎだったでしょ!?はぁ~ん。君たちのせいで溜め息が止まらないわよ」


(まただ。この二人達はダメな事だと知っているはずなのに、いつも何かを壊してくるんだから困ったものだ。けれど、自分の作った子たちが全力で楽しそうに動いている姿を見ると、少し誇らしく思えてくる。)


 まりかが設計したAIは、この世界にはどこにもない、自由意思を持ったすごい高性能だった。


 アッシュは立ちながらソファの背もたれにだらっと凭れ、むすっとした顔で答えた。


「俺は行くのやめようぜって言ったんだよ!でもさローズが『テルテルボーズサン』を見たいってうるさいから……」


 ローズはくるりと振り返り、赤いショットヘアーをかき上げながらフンと鼻で笑った。


「あ!そう、アッシュだって本当は行きたかったくせに!まりかの前だと、いつもイイ子になるんだらー。もぉー」


「ローズだって、まりかの黒い髪のツヤを3.2%上げるのが私の使命って、勝手に落ちている髪を分析してさ、セントラルアマゾンでシャンプーを注文してただろ。偽装したってバレバレだぞ」


 アッシュがすかさず切り返すと、ローズは「はうっ」と小さく声を詰まらせた。


「ストップ!もう、ローズはまた勝手に買っているのね……いえ、そんな事より」


 まりかは、”ディスプレイ内”でまだケンカをしている二人をよそにして、デスクから離れ、窓から外を眺めた。


「これが本物だと言われただけで、感じ方が変わるのね、ホロでしか見た事がない雨だけど、これが本物なのよね?外の音を入れてみて」


「はい、ネオヨコハマ、77年ぶりの雨でーす。家の、この逆さ傘が普通の傘になるのは初めてです」


「何を言っているのよ、そんな事よりどうなの?」


「でも、リング型気象衛星『テルテルボーズサン』を直接壊したのは私たちじゃないんですよ?大事な、まりかのおばーちゃまが作った、ネオヨコハマの天気を守る超大事な衛星なのに、誰かがハックしてるっぽいのよね」


 そうよ、おばあちゃんの街なんだから、私が守らなきゃ。


「地上は大丈夫なんだっけ?見える様に窓の倍率と明るさを上げてよ」


「そうだよ俺たちじゃないんだって。雨で光膜ドームはチカチカ光ってる、ネオ・ヨコハマを覆うバリアは、17%も出力落ちちゃってるんだぜ。人々の様子は地震で表すと震度4程度、『少し気になる感じ』となってるぜ」


「でーも、スペースネット『地球と火星からこんにちわ』では、かなり混雑していますよ。577ミリ秒遅延が出ています」


 そう言うとローズがディスプレイ内から、ぴょんと窓へとやって来た。倍率を上げた窓には雨でネオンが不安定に明滅し、都市の『呼吸』が乱れているのがわかる。


「いま『アクシオメ・オルピス』は高度3003メートル、風速は4,7メートル。

 雨のせいでネオヨコハマはちょっと見づらいよね。

 補正して見やすくしちゃう?」


「それより、あの私が作ったAIが入ったアンドロイドの分布……

 ここに分布データを重ねて表示して」


「は~い、どうぞ。確かに今のアルゴリズムではありえない、

 パターンが出ていますね。さすがまりかね」


「どうせ無法ハッカーたち『星屑マーケット』でしょ?

 面倒だけどアッシュ、地下からのリンクを切って来てよ」


「え?もしかして俺だけ行くのか?」


「ばーか、当たり前でしょう早く行きなよ、余計に時間が掛かるでしょ」


 アッシュはその亜高速演算で考えた。


(『星屑マーケット』ネオヨコハマの禁断の闇の巣窟だ。データ屋のホロアバターは、デジタル悪魔さながらに『テルテルボーズサン』のコードを囁き、ハッカーたちが影の帝王のように暗躍する。

 アンドロイドの異常パターン、テルテルボーズサンのハック型と99.1%一致。まりかを失望させたくない…20ミリ秒で計算完了:このデータ、解析せずにはいられないぜ! 『星屑マーケット』は衛星のコード売って大儲けする気か?)


「ローズはもう一度、高度1万メートルの『テルテルボーズサン』のデータ、もう一度追って。『マモルサン』がリング衛星のデータ空間を監視してるから気をつけてよ」


「え~、私も行くんだ! ルートα11でも『マモルサン』に見つかっちゃいそうだけど――バッチリチェックしてくるよ!」


「マモルサンって、衛星のデータをガチガチに守る軍事AIだろ?見つかったらヤバいぜ」


『軍事用AIマモルサン』は地球だけではなく太陽系を見守っていた。主にコルベット級の戦艦に積まれているAIだが、地球には戦艦は一隻もない。唯一乗せてある場所が『テルテルボーズサン』だった。


「じゃあ二人とも頼んだわよ」


 まりかは再びデスクに戻り、外音を切る。ホロキーボードをまるでピアノを弾いているように叩いた。『クォンタムウェブ』で二人が迷わないように通信ラインを繋ぐ。


「いたずらっ子には紐を繋いどかないとねっと。『マモルサン』とケンカになったら中華街の12分じゃすまないからね~」


(それにしても、どうしてあの子達のように、ネオ・ヨコハマのAIたちは動かないんだろう?同じように作っているはずなのに……。

 何だか胸騒ぎがする。雨が降っているだけじゃないと思うんだけどな。そうだ、今のうちにストレス解消しちゃお。)


 そう思いながら、まりかは浴室へと向かった。


 もう張ってある湯船でリラックスする。

 全面ディスプレイで外を見るとそこは雨の中に全裸で飛んでいるようだった。


(この、『テルテルボーズサン』が完全にハックされたら、雨どころか嵐でネオヨコハマが水没しちゃう。気象衛星を壊そうだなんて『星屑マーケット』は何を考えているのかしら?ほんと、ままならないわね。

 私が作ったあの子たち、なぜか他にはない人間らしさを持っている。だからアッシュとローズなら……平気なはずよね。)




 ◆◇◆◇ ★ ◇◆◇◆


 ☆後書き――


 最後まで読んでいただき、ありがとうございました!


 まりか、アッシュ、ローズの疑似家族のような関係を温かく描きつつ、大きな陰謀に巻き込まれていく展開を予定しています。


 面白いと思っていただけましたら、☆(スター)やフォローをしていただけると、とても嬉しいです。


 感想やコメントもお気軽にどうぞ!


 次回もお楽しみに。

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