断章 回想3
「それで、何を買うか決めてるの?」
「全然決めてない……」
「決めてもないのに、一人で回ろうとしてたなんて……。なんで、あんな事言い出したのよ」
「…………」
「言わないなら良いわよ。勝手に付いて行ってその理由を探るから」
とりあえず、二階に向かおうとエスカレーターに乗る。二階に並んでいる店ならば、候補として考えた物が売ってるはずと、向かう事にした。
二階に着き、東側へ。服屋を過ぎ、候補地の一つでもある店、ジュエリーショップに足を運んだ。
「もしかして、アクセサリーを買いにきたの!? 祐にはまだ早いわ! そういうのはもっと大きくなってから……」
「まだ買うか決めてないって。見に来ただけだよ」
店内をぐるりと回る。ブローチやネックレスなど、色とりどりなアクセサリーがあったが、祐的には、どれもしっくりくる物は無くこの店を後にする。
(それにアクセサリーは綺麗だったけど、未来はあんまり興味無さそうだったし)
実際、ショーケース越しにネックレスなどを見ていても、未来は関心を示さず、ただ祐の後を付いて来るだけだった。
ジュエリーショップを出た後は、当てもなくモール内にある店を見て回った。祐が候補として考えていたアクセサリー類は、ピンとくる物がないばかりか、思ったより未来の関心が無かった為、プレゼントに相応しくないだろう。
後ろから文句の一つや二つ、未来から飛んでくるが、それを無視して想いプレゼントに相応しい物を、探し続けた。
そして、ある店の前で足が止まる。そこは、アンティークショップだった。
「何、今度はここに入るの?」
「うん」
「わたし、ちょっとお手洗い行ってくるから、ここから離れるんじゃないわよ」
と、言って、角にあるトイレに向かう未来。
これはチャンスだと思い、祐はアンティークショップに入っていく。中は、雑貨や古道具、ガーデンアイテムなど、庭や部屋をお洒落なインテリアが沢山並んでいた。
どうやら、お客は祐だけで、他には店員と思わしき、お爺さんが一人いるだけ。
祐の来店に気づいた、お爺さんがコチラに来て挨拶をしてくる。
「これはこれは、可愛らしいお子さんだ。いらっしゃい、いきなり話かけてごめんよ。君みたいな小さい子が来るのは珍しくてね、何かお探しかい?」
「え、えっとね。今日、友達の誕生日でプレゼント買いに来たんだ。何かオススメとかありますか? お母さんは、重いプレゼントが良いって言ってたけど……」
「ふむ、重いプレゼントか。プレゼントを渡す相手というのは、さっき外で話してた子なのかな?」
「何で分かったの!?」
「なに、先程店前で話しているのが見えてね。そうだな、女の子に重いプレゼントか……」
お爺さんは祐から離れ、ある商品を手にし戻ってきた。それは古い懐中時計。蓋が付いており、内側には何か英語で書かれている。
「これとかはどうだい? 懐中時計なんだが、ガールフレンドに送る重いプレゼントとしては、ぴったりだと思うんだ」
「あの! この蓋に書いてある文字って、何て読むんですか?」
「ん、これはね。To a happy future 『幸せな未来』って読むんだよ」
「幸せな未来……」
その英語の意味は偶然にも、未来の名前と同じ、みらいという、文字が使われていた。これなら、意味的にも文字的にも、
「これ、これにするよ! いくらしますか?」
「逆に聞こう、いくらぐらいの価値があると思うかい?」
「分かんないよ……」
「ははは。実はね、これは売り物じゃないんだ。おじちゃんの私物でね。昔君のように、プレゼントとして買ったのだが、あの子には渡せなかったんだ……」
昔を懐かしむような目をし、祐を見つめる。
「だからね、君がこの時計の価値を決めても構わない。どんなに低くてもその値段で君に譲ろう」
その懐中時計をお爺さんから受け取り、手に持つ。この時計に価値を決めて良いと言われても、祐には分からない。ただ、重いプレゼント=高い物って認識している祐は、今持っているお金の全てを、答える以外の選択肢はなかった。
「三万円でどうですか?」
「ほう。君にとってそれほどの価値が、この時計にはあるんだね。良いだろう。それでこの時計は、君のものだ」
祐は持っている全てのお金を渡して、懐中時計を受け取った。
「ありがとうございます! おかげでプレゼントが決まりました」
「いや、こちらこそ。眠らせておくには勿体無い時計でね。君に──おや?」
お爺さんが祐の後ろを見て、言葉が途切れた。それに気づき、祐が後ろを向くと、未来が店に入り、こちらに近づいているところだった。
「あ、いた! 待ってなさいって言ったのに、先に入ってるなんて、まったく!」
頬を膨らませ、手を腰に、どうから見ても怒ってる体勢で祐の前に立つ。
「ち、違うんだよ未来。あ、いや違わないけど……」
「それで、その手に持っているのは何? 買ったの?」
しまったとばかりに、祐は手に持ってた時計をポケットにしまう。その行動がますます怪しくなったのか、未来が問い詰めてくる。
「何で隠すのよ! それを出しなさい」
「やだ……」
だが、頑なに祐もポケットに入れた、時計を出す気はない。
喧嘩になりそうな雰囲気だったからか、後ろに控えていたお爺さんが、祐の肩に手を置き、優しい声で言う。
「祐君……だっかな? それは彼女への誕生日プレゼントだろ? せっかくの彼女の誕生日なのに喧嘩になってしまっては、渡せなくなってしまうよ」
「え……」
未来はお爺さんの言葉を聞き、絶句してしまった。次第に嬉しさやら驚きの感情が現れる。
「お爺さん、この事は内緒だったのに!」
「そうだったのか……。それはすまない事をした」
未来の誕生日会で、サプライズとしてプレゼントを出したかったのだが、お爺さんの失言及び祐がそれを裏付ける発言をした為、未来にバレてしまった。
「わたしへのプレゼントを、買ってくれたの?」
「……うん。一番大切な友達の誕生日には、プレゼントをあげるってテレビでやってて、それで……」
「嬉しい!」
「わぁ!?」
大きく声を上げた瞬間、未来が祐に抱きつく。少し勢いがあったのか、祐はよろめきそうになるが、後ろにいたお爺さんが支えてくれる。
「祐からプレゼント貰えるなんて、初めてじゃない? それで何買ったの? さっきはよく見えなくて」
「わ、分かったから少し離れて、苦しいよ……」
そっと、祐から離れると、その小さい手を祐に向けてくる。
「この時計なんだ。蓋に書いてある英語の意味は、幸せな未来って読むんだよ」
「未来ってわたしの名前と同じね! すごい素敵」
懐中時計を受け取った未来は、それを胸の前で抱くように呟く。
「祐君、喜んでもらえて良かったね。やはり、プレゼントというのは渡せる時に渡せた方がいい……」
「うん! ありがとうお爺さん!」
事の経緯を聞いた未来と祐は、お爺さんに感謝を述べ、アンティークショップを後にした。
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