第5話
小さい頃、魔法少女のアニメが好きだった。
初めて観た時、フリルのついた可愛い服を着た女の子が魔法を使って悪と戦うというギャップ萌えの内容に心を動かされた。
そしてアニメには必ず、お助けキャラ?敵?という謎の立ち位置の男性が一人いた。
私はそこから自分の理想像が出来上がった。
その男性のキャラクターが私のヒーローであり、なりたい姿そのものだったから。
周りは可愛い魔法少女になりたいと言っていた中、私は男性のキャラクターに夢中になっていた。
でも、それを口にすることはできなかった。
周りから魔法少女なら誰が好き?と聞かれる。子どもながら魔法少女以外を答えてはいけないと感じ取った。
男性のキャラクターは男の子がするものというのが魔法少女ごっこをする中での女の子たちの決まりだ。
女の子が女の子を守るナイトになって何が悪いのだろう。
私にとっては男性のキャラクターが魅力的に見えたのに。
でも、理解されないことを知っているから口に出すことをしない。
それは今も変わらない。
私は今日も親に隠れて自分の好きなコーデをする。
今日は白のチュニックに黒のベストを重ね、カーキ色のパンツを組み合わせたマニッシュコーデ。
基本的に休日や親がいない時はマニッシュコーデかメンズコーデしかしない。
うるはは家でもロリータの格好なんだろうか。
違和感がないからそんな気がする。
「お待たせしました。それじゃあ、どこから行く?れいちゃん」
優しくて心地よい高い声が耳に入り、下を見ていた顔を上げる。
お手洗いから戻ってきたうるはは私の横に座り、どこに行こうかな〜と悩んでいる。
「うるはが行きたいところでいいよ。買い物したいんでしょ?」
私は今日の目的を口にする。
うるはの買いたいものは分からないからついていくしかない。
「ありがとう。私、新しく服を買いたいんだ。それと、れいちゃんが普段着ている服があるお店も見てみたいの」
「うるはが普段着る服と系統が違うけどいいの?」
「うん。れいちゃんの着ている服も興味があるから」
真反対と言ってもいいくらい着るものが違うけど、うるはが気になるのならいいか。
それに、自分が着ているものに興味を持ってくれるのは嬉しい。
「分かった。じゃあまずは、うるはの服を買いに行こうか」
私達は立ち上がり私はうるはの案内でお店まで歩く。
以前も思ったことだけど、歩いていると視線が私達に集まる。
ほとんどの人がうるはを横目に通り過ぎていく。
うるははスタイルも顔も綺麗で着ている服も彼女に合うものだから気になる人が多いのだろう。
ほとんど男の人だけど。
「ここだよ」
うるはが案内してくれたお店はロリータ服専門店だった。
可愛い系からかっこいいものまで色々なロリータ服が置いてあるかなり大きい店だ。
うるはが今着ているワンピース型の甘ロリもこのお店で買ったものなんだろうか。
ショッピングモールに来たのは初めてではないけれど、ここに来たのは初めてだ。
「私、れいちゃんに着てほしい服があるの。こっちだよ」
うるはは私の手をとって私の歩くスピードに合わせて引っ張る。
無理やりじゃないところが彼女らしい。
「これだよ。どうかな?」
うるはが手に取った服は黒を基調としたスラックスタイプの王子ロリータの服だった。
首元の付け襟はリボンとフリルが付いていて、半袖シャツの袖はひらひらした大きな口をしている。
スラックスには装飾ベルトが3点付いていて、腰ひもは後ろで細長いリボンを作っていて可愛らしくかっこいいとも思った。
「これを着てみてほしいの。ダメかな?」
これを私が着る……。
嫌ではないけれど、そう、嫌ではない。
私が服を持って悩んでいると、うるはがもう一着別の服を持ってきた。
「これ、世界観がこの姫ロリとおそろいなの。一緒に着てみたいなと思って……」
恥ずかしいのかうるはは顔を赤くしていく。
うるはは私に合わせて服を選んでくれたのだろう。
おそろいの服まで持ってこられたら断るわけにもいかない。
「いいよ。一緒に着ようか」
「ほんと?ありがとう」
彼女は顔を赤くしたまま優しい笑みで私を見つめる。
嬉しそうだな。それは私もかもしれないけれど。
今まで誰かとおそろいの服なんて着たことも持ったこともないから。
私は試着室を借りようと店員さんに声を掛ける。
「すみません、ただいま空いている試着室が2人用の大きい所しかないのですがそちらでもよろしいでしょうか?」
他の所を見てみると2人用以外は全てカーテンがかかっていた。
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
私が返事をすると店員さんが試着室の説明を軽くして店内に戻っていった。
「交代で着ればいいよね。うるは?」
うるはは少しだけ赤くなっていた顔をさらに赤くして固まっている。
「おーい、着ないの?」
私が目の前で手を振ると気がついたのか顔を上げた。
同時に私は手を掴まれてそのまま試着室に連れて行かれる。
「え、交代で入らないの?」
「2人で着替えた方が早いかなと……」
「時間はあるし、ゆっくりでもいいよ」
「えっと、れいちゃんと並んで着てみたいなぁなんて……」
うるはが顔が赤いのか分からないくらいに服を上にあげて顔を隠す。
確かに交代で着るとおそろいで着ていることにはならないか。
「分かった」
私は持っている服を一度ハンガーフックにかけて、荷物を下ろす。
対面で着替えるとうるはが恥ずかしいだろうからかけた服を見つめながら服を脱いで着替えていく。
私は下着姿になったところでロリータ服を手に取るが、着方が分からないことに気が付く。
今までワンピース型しか着たことがないからこの服の着こなし方が分からない。
「うるは、この服ってどっちから着る、の……」
私がうるはの方を向くと上半身が下着姿のうるはと目が合う。
肩に2つ並んだほくろがあるのが目に入ったがそれ以外は見ないようにすぐに目をそらす。
「ごめん、着替え中だったよね。着替えた後で私の方も手伝ってくれないかな」
「わ、分かった。ちょっと待っててね」
上擦った声が聞こえてくる方をもう一度見ると背中を向けて急いで着替えている彼女が目に入る。
感情が体に出やすいのか耳や首がほんのり赤くなっている。
「あの……」
彼女が気まずそうに赤くなっている顔だけを私に向けてきた。
「え……あ、ごめんね。後ろ向いてるよ」
私は彼女に背を向ける。
どうして見ていたことが分かったのか。
いや、見ていたくて見ていたわけでもないが。
下着姿が見たいとかそんな変態ではない。
ふと横を見ると聞かずとも答えが分かった。
全身鏡があるから私がうるはを見ていたことが分かったんだ。
私は掛けてある服を見ながら大人しく下着姿のまま彼女が着替え終わるのを待つことにした。
ロリータとマニッシュ 翠そら @sora_midori
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