森井琴音の走馬灯
時刻は12時半過ぎ、冷蔵庫で冷やしていたビールを枝豆と一緒に飲み、スマホゲームもある程度やったので寝ることにした。光賀は先に床についており、寝息を立てている。その横に起こさないように布団に入り眠りについた。
バリンッ
一時間ぐらい経っただろうか、トイレに行きたいと思い、起きようとしたときだった。一階で窓ガラスが割れるような音がした。その瞬間
ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ダ ッ
複数の何かが迫ってくる音が聞こえた。狼狽えているとその何かが部屋の中に入ってきた。最初は人だと思ったが、顔が削れていたり腕がなかったり明らかに人間ではない。悲鳴をあげる間もなく、光賀にそいつらはとびかかった。
バキッ ブシャッ ゴキッ
「ゃあああぅ ああああああいだいいだい」
光賀がうまく出せない声で絶叫する。赤い服を着た女の子が光賀の腕を掴み、棒切れのように折っている。絶叫と化け物達の笑い声が入り混じり地獄絵図だった。助けにいけずただ後ずさりすることしかできない。これが自分の夢だと信じることしかできなかった。
すると突然部屋の中が暗くなった。理由はすぐに分かった。自分の後ろにある寝室からベランダに出るための窓。そこに巨大な何かがいるのだ。
バリンッ バリンっ
その後ろにある窓が割れ、巨大な手出てきた。その手が自分の頭部をプレスするように挟んだ。抜けようと体を動かすがすごい力で全く動けない。そしてそのままつぶそうとしてきた。
「ちょっ!やめて、私が何したっていうのよ!、やめ、お願いやめて!」
自分でも驚くほど情けない声で命乞いをする。
グチュグチュ パキッ
「あ、あ、あ・・・だずけ」
光賀はもう声も上げることができなくなっていた。布団が血に染まり、おぞましくて見ることすら拒まれた。涙が止まらなくなり、股間のあたりに生暖かい液体が広がる。つぶそうとする手もだんだん力が増してきて、頭部に激痛が走る。
「ぁああ、来るな!来るな来るなぁ!」
光賀のほうから下半身のない老人が這いずってきた。顔は血で真っ赤に染まり笑いながらこっちに近づいてくる。
ペキッ
頭のどこかが折れたような気がした。頭をひたすらプレスされ続ける。いよいよ死んでしまうと思うと、走馬灯のようなものを流れ始めた。
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光賀と初めて会ったのは、高校の入学式だった。隣に座っていたのが光賀で、お互い馬があったのかすぐに仲良くなった。最初は真面目に生きていた。なんとなく周りに合わせて、嫌われないようにだけを意識していた。親も特に口出しはしてこなかった。だが高校に入り月日が過ぎていくにつれて、道を外れてみたくなった。
光賀にそれとなく伝えてみると、同じような考えを持っていた。そこからは早かった、なんとなくで一緒に隠れて煙草を吸ったり、たまたま燃えそうな段ボールがあったからという理由でボヤ騒ぎを起こしたりして自由を堪能した。
悪いことを二人で秘密に共有しているのが妙に心地よかった。そういうことを繰り返しているうちに、気づけば恋人のようになっていた。親にこの悪いことがばれていたのかはわからなかない、一度部屋に置いてあった煙草を母親に見られた気がするが何も言われなかった。
お互い離れた学校に通うのは嫌だったため、大学も同じところへ通うことになった。自由な時間がさらに増えると、光賀の部屋で愛を確かめあった。避妊具はつけていたし、気をつけていたはずだった
にも関わらず妊娠した。最初は二人で困惑したが、だんだん二人で育ててみたいと思うようになった。光賀の家がお金を持っていたからこそ可能なことだった。光賀の父親はとても喜んでいたらしい、社長をやっているから跡継ぎが生まれるのは嬉しいことだそうだ。母親の方はあまり聞いていない。うちの親も反対はしなかった。
出産するとなると大学に通い続けることはできない。二人で大学を辞め、光賀は働き琴音は実家で生活することとなった。初めてのつわりはかなりしんどく、親に当たってしまうこともあった。
だが子どもは順調に成長して無事に生まれた。その時にはすでにマイホームが出来ており、そこに三人で引っ越して幸せな生活を送るはずだった。しかし子育ては本当にめんどくさく、そしてしんどかった。
オムツの取り換えは汚くて嫌いだし、何より夜中に泣かれるのがきつかった。光賀もサポートはしてくれるものの、仕事で忙しくて日中は家にいない。お互いの仲は変わらず良かったが、子どものことは好きになれなかった。育てようと考えたことを早速後悔し始めた。
ある夜いつもよりも酷い夜泣きがあった。光賀も寝れないらしく、二人で起きて子どもがいる部屋に行った。子どもは光賀の父親が買ったゆりかごの中で号泣していた。どちらが先に手を出したのかはよく覚えていないが、泣いている子どもの口と鼻を近くにあった枕でふさいだ。
少しすると静かになり、顔から枕を外したときゾッとした。子どもが目を見開きこっちを凝視していた。これが罪悪感から見た幻覚なのか、本当ににらんでいたのかは分からない。だがこの日から何かが明確に変わった気がした。
悪いことなのはわかっていたが、一度暴言や暴行をしてしまうと止められなくなっていく。周りにはバレないようにやっていたし、光賀が釘を刺していたから大丈夫だと思っていた。悪いことを二人で共有するのが心地よかった。
小学校に入ったあたりから、子どものことはあまり覚えていない。不登校になっていつも以上に家事なども手伝ってくれるようになり、そのうち一人でにやってくれるようになった。子どもを作って良かったと思えた最初の瞬間だった。
悪いことなのはわかっていた。だがやめられなかった。なんでかは分からない。お互いがいくならいくというのをひたすら繰り返していた。分からない。本当に分からない。
子どもが生まれてから光賀と話した思い出も残っていない。きっとお互い病気だった。結婚後は表面上で接して、わざと笑っていたような気がする。誰にもうまく言えず、誰にも止めてもらえなかった。
子どもの顔をちゃんと見たのはいつだっただろうか。ごめんなさい、ごめんなさい。分からない。自分が何をしたいのか。なんであんなことをしたのか。もう遅いのに。・・・・思い出した・・・あのとき
あのとき私は
わざと煙草を見せたんだ
─────────────────────
後悔,反省,楽しかったことなどの記憶が激流となって流れ込む。太ももにはかじりついている何かがいるがよくわからない。頭部はどんどん圧迫されていく。そして最後に呟いた。
「お・・・・かあ・・・さん・・・・・・おと」
パンッ
部屋に鮮血が飛び散った。
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