刑事達の苦悩
1月12日早朝、
昨日の夜はあまり眠ることができなかった。昼にある事件を捜査していたときに起きたことのせいである。
ただどれだけ眠くても上司からの電話を無視することはできなかった。刑事として歳を重ねていって気づけば、課の職員の半分以上から先輩扱いされる歳になっていた、そんな奴が現場に遅刻すると後輩のお手本にならないと上司からどやされかねない。
無理矢理布団から体を出し、一月の寒い空気に直接触れる。よろよろと歩きながら洗面所へと向かい、顔を洗い何とか意識を保つ。
顔を拭いてキッチンのほうへと向かい、電子レンジの上にある菓子パンを手に取る。袋から取り出し口にくわえた状態で、クローゼットへと行きスーツを取り出す。
服を着替え身なりを整え終えると、家の鍵や荷物を持って、外に出た。口にくわえていた菓子パンはようやく食べ終えることができた。
車に乗っている最中、昨日の昼起きたことが蘇る。何とか忘れようとしてもそのことを忘れることが出来なかった。そのため無理矢理今日行く事件のことについて頭を回すようにして、忘れるように努めた。
しばらく車に乗って現場に辿り着いた。現場は
「おー悪いなこんな朝早くに」
久米を見つけた上司の
その場所には大量の血がついており、ところどころに黄色い液体も付いている。おそらく体液の一部だろう。
原田から聞かされた事件の概要はこうだった。第一発見者はランニングをしていた75歳の男性
「とりあえずお前は防犯カメラ確認してこい、この薬局についてるやつ。多分あそこにいるの店長だろ」
と言いながら指を指した方向には、鑑識と話している男の人がいた。準備をしようと思って来たら、店の周りに警察が沢山いたのだからさぞ驚いたことだろう。昨日の起きたことのせいで防犯カメラを確認するのは気乗りがしなかった。だが上司の命令は絶対だ。
重い足取りでその男の人に近づく。話を聞くと薬局の店長でドンピシャリだった。そのまま防犯カメラを見せて貰えないか聞くと、快くOKを出してくれた。
薬局へは裏口から入り、防犯カメラの映像が送られてくる部屋へと案内された。店長から映像の見方を教えてもらい、一応部屋から出て行ってもらうことにした。大事な資料になりかねないからである。そして部屋には久米一人になった。
教えてもらった方法で1月11日の午後10時から倍速で再生し始める。周りに明かりも少ないため、カメラは暗視モードになり全体が緑がかった状態になった。日付が変わり1月12日の午前2時になったとき、一人の人物が敷地内に入ってきた。恐らく棚橋さんだろう。少しその場でぐるぐる歩いていると、カメラの端から何かが這いずってきた。
「え?」
思わず口から声が漏れ出てしまう。その這いずって来たやつは棚橋さんの腕を掴むと無理矢理引きちぎった。ちぎられた部分から大量の血が吹き出す。まるで人形のような扱いだった。
そいつは棚橋さんを押し倒して背中に馬乗りになり、今度は左手首を掴んで引きちぎった。再び血が吹き出す。どんどん掴んではちぎりを繰り返し、棚橋さんはピクりとも動かなくなった。
最後に背中から手を突っ込み内蔵で遊び始めた。引っ張ったりちぎったり。それに飽きると最後に防犯カメラに顔を向けた。その顔は老人だった。ニコニコしており、下半身がなくそこから内蔵がこぼれていた。その後そいつは這いずりながらその場を離れた。
久米は吐きそうになるのと同時に、全身に鳥肌が止まらなかった。
(なんでここにもあいつが)
昨日の昼。『森井家強盗殺人事件』について捜査しているときのことだった。捜査は森井さん夫妻の血液を中心に調べられることとなった。森井家から外の色んなところに血液が付着していたからだ。そのため警察犬などを導入してその血液が付着した主を探したが、不自然なところで途切れてしまったり、怯えて動かなくなってしまった。
防犯カメラもしらみ潰しで捜査され、久米もその捜査に参加した。ことが起きたのは四津々原市にあるコンビニの防犯カメラを見ていたときのこと。
1月11日午前3時の映像だった。そこには下半身がなく内蔵がこぼれており、顔は老爺でニコニコしていた。恐怖からか事件とは関係ないと決めつけ、久米はこのことを誰にも言わなかった。
だが、言うしかない。確実に棚橋さんを殺している化け物が映っている。
久米は一人部屋の中で頭を抱えた。
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1月12日の早朝、上司から電話がかかってきて現場に召集されたが、加藤は布団の中から出ることができなかった。理由は昨日見た防犯カメラの映像にあった。加藤は久米の後輩であり、同じく防犯カメラを捜査するチームに参加させられた。
確認していたのは『セルバテール四津ケ原』というマンションの防犯カメラだった。そのマンションはエントランスの部分に防犯カメラがあり、自動ドアを捉えている。カメラ自体はかなり古いものであり、夜中の映像などはあまりよくは見えない。
それでもはっきり見えた。1月8日午前二時過ぎ。全速力で走っている男の人を少女が追っている。少女は手を前にして首をガクガク揺らしている。
ほんの一瞬、少女がカメラを見た。その少女の顔を見て加藤は背筋が凍った。鼻から下が削り取られている。そして涙を流している。どう見ても人間ではない。
加藤の頭からこの顔が頭を離れることはなかった。事件には関係して居ないと思い込み、このことを誰かに伝えることはなかった。そしてこんな化け物がいたという事実を認めたくなかった。
そして加藤は布団にもぐりこんだまま、体調が悪いと上司にメールを送った。
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下半身がなく内蔵がこぼれており匍匐前進で進んで来る老爺
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