第5話 そして伝説はゴブリンから始まる

俺はゲームから抜け出した。

視界が切り替わり、ダンジョン奥地――あのドラゴンがいた広大な空間に戻る。


……だが、肝心のドラゴンの姿はなかった。


「え、消えた……?」


すぐに思い出す。

ゴブリンが勝利後にカートを指差し、「ギィィ!(もう一回!)」と再戦を要求していたのだ。

このスキルのルールでは、再戦を拒否したら即死亡。


俺がこうして無事でいられるのは、あの時ゴブリンが気まぐれに“引き分け”を提案してくれたからだ。

あの慈悲がなければ、俺はとっくにここにいなかっただろう。


だが――ドラゴンには、その慈悲は与えられなかった。

つまりドラゴンはいまだゴブリンに捕まり、延々とレースを続けさせられているのだ。


「……南無」

俺は手を合わせた。


……と感慨に浸る暇もなく。


ゴゴゴゴゴ……!


床が揺れ、壁が崩れ、通路が勝手に開いていく。


「な、なんだよこれ……!?」


強敵オンパレード


俺はただ必死に出口を探して走った。

右に行けば壁が塞がり、左に行けば床が崩れる。

「どっちが出口なんだよ!? わっかんねぇぇぇ!」


気づけば俺は、ダンジョンに押し流されるように走らされていた。


そして行く先々で出会うのは、即死級のモンスターたち。


「ゴブリンキング!」

「オーガキング!」

「デビルキング!」


「いやいやいや! 出口探してるだけなんですけどぉぉぉ!?」


だがスキルは無情に発動。


【クラッシュサーキット】


全員カートに収まった瞬間――。


「グォォォ!?」(な、なぜこんなものに!?)

「ブオォォ!」(狭すぎる!)

「ククク……」(これも運命か……)


3――2――1――GO!!!!


結果は言うまでもない。

ゴブリンが圧倒的な走りで勝利。


「ギィィ!」(俺が最強!)


「……出口どころか、俺いつの間にボスラッシュしてんだよ……」


最終ボス


そして現れた。


「リッチキング!」


黒いローブを纏った骸骨の王。

“出会ったら死ぬ”と恐れられている最終ボスだ。


【クラッシュサーキット】


リッチキングも強制参加。

これで参加枠は――俺とゴブリン以外は全てモンスター王で埋まり、NPCはいなくなった。


「ギィ!」(勝つぞ!)ゴブリンは燃える。

「生きるためには、あのゴブリンを倒すしかない!」リッチキングが宣言する。


そう、ここから始まるのは――

全モンスター王 vs ゴブリン+俺の最終レース。


最終レース ――総力戦


スタートランプが点滅する。

3――

2――

1――


GO!!!!


轟音とともに全員が飛び出した。


序盤戦


先頭に立ったのはゴブリンキング。

「グォォォ!」(俺が先頭だ!)

巨体を活かし、俺の前に立ちふさがる。


「壁かよ!」

「ギィ!」(こっちだ!)


ゴブリンがドリフトで外から抜け、俺はその背後に滑り込む。

二人でスリップストリームを作り、ゴブリンキングをまとめて追い抜いた。


「やっぱ俺たち、いいコンビだな!」


だが後ろからオーガキングの突撃。

「ブオォォ!」(ぶっ飛べ!)

カートが弾かれ、俺は壁に激突しかける。


「やべっ!」

反射的に赤いボールを投げると、オーガキングに命中!


「ブオオオ!?」(ぐわぁぁ!)

炎を吹き上げてスピンアウト。


「どやぁ! 俺も役に立つだろ!」

「ギィ!」(まぁまぁ!)


中盤戦


その隙にデビルキングが黒いボールを乱射。

「ククク……」(滅びろ!)


「避けらんねぇぇ!」

「ギィ!」(ショートカットだ!)


ゴブリンが隙間に飛び込み、俺も追う。

黒いボールは壁に激突して大爆発。

煙の中を抜け出すと、二人で加速していた。


「すげぇ……本当にタッグみたいじゃん!」


終盤戦


最後の直線、待ち構えていたのはリッチキング。

「カタカタ……!」(ここがお前らの墓場だ!)


奴は光るボールで無敵化し、悠然と走っていた。


「やばい、追いつけねぇ!」

「ギィ!」(まだだ!)


ゴブリンは黒いボールを投げ、前方の障害物を吹き飛ばす。

その破片がリッチキングに直撃し、カートが横転!


「カタカタァァ!?」(ば、馬鹿な……!)


これで全員を抜き去った。

俺とゴブリンが並んでゴールへ向かう。


「やったな! 俺たち二人で勝ちだ!」

胸が熱くなる。これが相棒ってやつだ。


だが――ゴール直前。


「……ギィ!」(じゃあな!)


ゴブリンがドリフトで俺を弾き飛ばし、そのままゴールラインを駆け抜けた。


【最終結果】

1位:ゴブリン

2位:俺

以下:モンスター王たち


「……え?」

「おいィィ!? 今裏切ったよな!? 絶対裏切ったよなぁぁぁ!」

「ギィィ!」(当たり前! これはチーム戦じゃない!)


俺は膝から崩れ落ちた。


永遠の再戦


勝敗が決まった瞬間、ゴブリンはお決まりの動作をした。

カートを指差し、ドヤ顔で――。


「ギィ!」(もう一回!)


モンスター王たちが絶望の叫びを上げる。

拒否すれば即死、生きたいなら再戦しかない。


こうして――。

全モンスター王+俺 vs ゴブリンの、永遠のレースが幕を開けた。




その後、なぜか俺だけはダンジョンコアの間へ辿り着いた。

巨大な結晶が輝き、声が響く。


【勇者よ、ここまで来た褒美に願いを一つ叶えよう】


俺は即答した。


「……なら、俺の代わりにあんたがレースに出てください!」

俺は最後の望みにすがった。


ダンジョンコアは静かに光を放つ。


【あなたの願いを受理しました――“クラッシュサーキットにダンジョンコアが代わりにレースに出る”】


「……よし! これでレース地獄ともおさらばだ!」


俺はガッツポーズを決めた。

大会参加枠は16名で打ち切り。

もう満員となったゲームに呼ばれることはないだろう。

これで新しい冒険が始まる――はずだった。


……が、次の瞬間。


【再戦しますか?】


画面に浮かぶ無慈悲なウィンドウ。


【ドラゴンが“再戦”を拒否しました】

【欠員が発生しました。召喚を開始します】


俺の横で、あのゴブリンがドヤ顔でカートを指さしている。


「ギィィィ!」(もう一回!)


「……いや叶ってねぇぇぇ!!!」


こうして俺の初スキル「クラッシュサーキット」の冒険は――

やっぱり、まだまだ終わらなかった。


完。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

現代ダンジョンでゲームプレイ ヨムヨム @hiroyuki090

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ