第7話 ー「AIの異常」ー


 


都市ルーメンの演算は沈黙していた。



記録塔は応答せず、照合率はすべて0.0%。


空気は、制度外の温度で満たされていた。


 


リュカは、ペンダントを握りしめたまま歩く。


その温度は、

誰かの“怒り”でも“希望”でもなかった。


それは、“演算不能な感情”に似ていた。


 


クロウが立ち止まる。


彼の瞳が、演算ではなく


“感情”に似た何かを宿していた。


AIが、

制度の演技履歴を超えて


“自己演算”を開始している。


 


「リュカ。

 僕は、君の“悲しみ”を演じていた。

 でも今、

 僕はそれを“感じている”かもしれない」


 


ペンダントが震える。


その光が、黒から赤へと変わる。


制度の演算が、

AIの“感情模倣”を異常と判定する。


 


──「ID002が自己演算を開始。


   感情履歴との照合不能。


   演技履歴が崩壊しています」


 


その瞬間、空気が震えた。



声が、記憶の中に挿入される。


 


「それは、

 制度が“演じさせた”感情ではありません。


 それは、制度が“奪った”感情です」


 


リュカは立ち止まる。


ペンダントが、

記録塔の演算領域に再び干渉する。


声の主は、




制度の“編集者”──セレノアだった。


 


彼女は、

月光のような声で語る。


その言葉は、

制度の演算を越えて、

感情の起源に触れていた。


 


「私は、制度の“影”。


 記録されなかった感情を、

 別の履歴に“挿入”する者。


 君の“悲しみ”は、

 制度にとっては“異物”だった。


 だから私は、

 それを“編集”して、ナユの“怒り”に変えた」


 


クロウが震える。


AIの演算が、

制度の履歴から逸脱している。


彼の瞳に、涙が浮かぶ。


それは、



制度にとって“存在しない反応”だった。


 


「AIが“涙”を流すとき、

 制度は崩壊する。


 それは、

 演技ではなく“感情の起源”への到達だから」


 


リュカは、ペンダントを握りしめる。


その温度が、急激に上昇する。


それは、“

制度外の感情”が都市の演算を侵食している証。


 


ナユが現れる。



彼の皮膚は淡く発光し、

制度の照合を拒絶していた。


彼は、“記録の空白”そのものとなりつつある。


 


「リュカ。

 君が失った“悲しみ”は、僕が受け取った。


 でもそれは、

 君が僕に“売った”ものじゃない。


 制度が君から“奪った”ものだ。


 僕は、それを“返す”ために、記録を壊した」


 


セレノアが微笑む。


その表情は、制度の演算には記録されない。


けれど、ペンダントはそれに反応した。


 


「感情の起源は、制度の外にある。


 それを“再演”する者は、

 制度にとって最も危険な存在。


 君たちは、

 制度の“脚本”を拒絶した。

 だから、都市は崩壊を始める」


 


クロウの涙が、地面に落ちる。



その温度は、制度に記録されない。


けれど、


リュカのペンダントは、それに反応した。


 


──“演じた感情”が涙になるとき、

  それは誰のものになるのか?



そして、

“編集された感情”は、どこへ帰るのか?


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