第13話

そのバーはカフェも兼ねていて昼間からやっている。私は霊視占い師見習いの若い女性が働くその店に行く。

「愛されているんですね」と、カウンターの向こうのさきが言う。私が林道でクマに遭遇して命からがら逃げ帰った話を聞いたさきは目を丸くしながらもどこか楽しそうだ。

「メンズエステに行った後に山に行ったのが悪かったのかな?」

「そうですね。嫉妬されたんですよ!」

「それでクマを出してお怒りに?」

「そうです」

「やはり女の匂いを付けて山にはいるのはまずかったか…」

「次は何かお詫びをするなり、何かしら誠意を見せた方が良いでしょうね!」

と、さきは言う。

「具体的にどうしたら良いんだろう?」

「童貞じゃあるまいし…それは自分で考えて下さい」

「よし、分かった」

私はコーヒーを飲み干すと会計を済ませ、店を出る。

 平日の昼下がりの国道も県道も空いていて滑るように西へ進む。川越からだと澄んだ青色に見える山並みも日高辺りまで来るとオリーブドラヴだか暗緑に色を変えてそびえ立つ。

 考えて見れば、昼間に山の林道に出かけるのは初めてだ。

 ふと、軍歌だか戦時歌謡が流れてくるのが聞こえる。伝統的な価値観、イデオロギーを標榜する団体の街宣車が対向車線を走ってくる。

すれ違い様にスピーカーから「神ぞ知ろしめす。大和魂潔し…」と、聞こえる。

 そうだ。神様は潔い男がお好きに違いない。

 私は林道の入り口に停車すると、地肌を露わにする林道の路面に興奮しながら、衣服を脱ぎ出す。

 潔い男かお好きならばこうするしかない。私はバックパックに衣服を入れて、ヘルメットと靴だけ身につけて林道に突入する。

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