第17話 《魔女の庭》②

 美味しいスイーツショップを聞かれたアルトは、無言で振り返った。


 そして、冷たい表情のままアカリに向けて指をさす。


「その先にある『リスのお茶会』というカフェのチョコケーキが絶品だ」


 アカリが真後ろに振り返ると、突き当たりにカフェがあった。看板には『リスのお茶会』と、可愛らしい文字で。


「ありがとうございます!」


 笑顔で感謝すると、アルトたちは今度こそ去っていき、アカリは手を振って見送った。


「姉さんは見ての通り、甘党なんだ」


「味のねえパサパサ行動食しか食わねえ顔してたけどな」


「やっぱり地元民のオススメは外せないよね。後で行こっか」


「お前、肝が据わりすぎだろ」


「怖い人を挑発してたフレアに言われたくないよ」


 なにはともあれ、まずはノイのために魔法雑貨店だ。


 ドアを開けると、独特なにおいが漂ってきた。乾燥した植物や、薬品が混じったにおいだ。


 中は思ったより広く、棚やテーブルに置かれている品物がよく見渡せた。魔女の本拠地なだけあって、魔法雑貨店は地元のものよりも品揃えがいい。よくある水晶玉から、綺麗な魔法結晶、何に使うのか分からない頭蓋骨まで。


 ノイは慣れた足取りで、とあるテーブルに向かった。


「あった。これだよ」


 示したのは、小さな結晶だった。分解されたシールドドローンの中にも、似たようなものが入っていた気がする。


「これは魔力を溜めておける結晶、通称『魔力バッテリー』だよ」


「へえ、これがそうなんだ。これにあらかじめ魔力を溜めてるから、あんまり魔力使えなくてもあれこれできるんだね」


 ワイバーンに追いかけられていたときに「魔力バッテリー」という単語が出てきたが、まさにこれが魔力バッテリーらしい。


「質がいいものは、やっぱりこういう店でしか手に入らないんだ」


 ノイはそれを六つ手に取り、老魔女のいるレジに持って行った。


 結晶はひとつひとつ丁寧に梱包され、紙袋に入れられて渡された。


「二人も、何か買ってみる? 必要なら僕が全額出すよ」


「いやいや、そこまでしなくていいよ」


 魔力バッテリーとなる結晶の値段をちらりと見たら、なんだか「0」が多い気がして、急いで目を逸らした。ノイが全額出すと言ったとはいえ、いざ高価なものを前にすると、無邪気に喜べない。


 一方でフレアは、店主の魔女に相談していた。


「ばあちゃん、魔力の調整が苦手なんだけど、アタシに向いたもんある?」


「それなら、何もしない方がええ」


「そう言わずにさぁ」


「別に意地悪で言っとるわけじゃない。あんたみたいな子はね、いくら下手でも、無理に手を加えない方がいいんだよ」


「そういうもんなの? まあ、ここにきて急に変なクセがついても困るか」


 相談するフレアを横目に、手持無沙汰なアカリは店を見て回る。


 まるで手が出ない高価なものもあるが、大半はそうでもなかった。かといって、お手頃価格なもので欲しいものがあるわけでもなく……。むしろ高価な品物を見つけて楽しむのがメインになっていた。


 そんな中、アカリはテーブルに陳列された首飾りに目が向いた。


「お、この首飾り、わたしのに似てる」


 渡り鳥の羽根があしらわれた首飾りだ。自分のものは、首に掛けるタイプの羽根飾りだが、同じ鳥の羽根を使っている。


 実はこの羽根に魔法効果が? ……と思ったが、それにしては安い。


「それはただのお守りだよ。魔法じゃなくて、願いが込められてる。安全に飛べるようにってね」


 店主がそう言う。


「そういえば、それずっと首に掛けてるよな。なんか思い入れでもあんのか?」


「うん、昔お世話した渡り鳥の羽根使ってるんだ」


「それが偶然、お守りに使われてるようなもんだったのか」


「なんか、運命感じるなぁ」


 しみじみと羽根を眺めていると、店主がにっこり笑った。


「そういう巡り合いってのは、大事にしなよ。魔法が上手く扱えることなんかより、ずっと大切なもんさ」


 * * *


 その後、カフェ『リスのお茶会』でスイーツを楽しんだアカリ一行は、自由行動をする流れになった。


「宿の目印は、あの大街灯ね」


 ノイが、宿の近くの大きな街灯を指さした。大街灯はいくつかあるが、近くに時計塔もあるので、その二つを目印にすればいい。これで迷子にならないはず。


「先生も言ってたけど、日が暮れる前に帰るように」


 三人は解散し、やりたいことをやる。


 ノイは早速シールドドローンの改良に入りたく、フレアは娯楽施設に入ってみるつもりらしい。


 一方アカリは、町をぶらぶらしていた。


 見たことないものだらけで、町並みを見て回るだけで楽しい。アカリは大きな建物や、魔法関連の設備をスマホで撮っていく。


「帰ったらママとパパに見せよっと」


 そんなことをしていたら、いつの間にか日が傾き始めていた。《魔女の庭》は空高くに浮く島なので、暗くなり方が違う。夕日が島の下から差し込み、ふちが作る影が天にのぼっている。その光景も撮った。


「もうこんな時間か。早く帰らなきゃ」


 大街灯と時計塔を目指し、足早に歩く。


 すると建物だらけの町に、ぽっかりと開けた公園が現れた。公園と言っても、ベンチがいくつかあるだけ。


 そこから、鳥と猫の鳴き声が聞こえてきた。


 覗いてみると、翼で飛ぶ猫が鳥を追いかけていた。


「こらー! 鳥をイジメるなー!」


 アカリは走り出し、ベンチを踏み台にジャンプ。空中で鳥を優しくキャッチして着地した。


 すると猫は、鳥を狙うのをやめ、アカリの足に身体をすりすりし始めた。


「ん? この猫って……」


 翼と角と、鱗の生えた尻尾。猫に似た魔獣。見覚えがある。


「あら、アカリちゃん?」


「おばさま!」


 公園に入口にいたのは、町はずれに住んでいる老魔女だった。


「ごめんなさいね、この子、急に鳥さんのこと追いかけちゃって。いつもはこんなことないのに」


「ほら、謝りなさい」


 手の中の鳥を見せると、猫は「にゃーん」と鳥に頬ずりをした。襲い掛かっていたわけではなく、じゃれていただけなのだろう。でも、鳥からすれば怖いはず。鳥はアカリの肩にとまり、猫の動向を注視し始めた。


「やっぱりアカリちゃん、レースに出るのね」


「えへへ、思いっきり飛べるのが楽しくて……」


 それからベンチで少し話し込んで……。


「じゃあ、頑張ってね」


「ステラ・ウィッチになってみせます!」


 そう言って別れた。


 すると、アカリの肩にとまっていた鳥が言った。


「あの猫、行ったか?」


「うん、行ったよ……ん?」


 鳥が喋った?


「ふう、助かった……ありがとう」


 アカリが隣を見ると、麗人がベンチに座っていた。

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