ステラ・ウィッチ 〜落ちこぼれ魔女たちが、最高の魔女を決めるホウキレースに挑むようです~
すめらぎ ひよこ
第1話 ぶっちぎれ、初レース!①
古の魔女は、
今の魔女は、スマホを頼りに飛んでいる。
「ええと、アッポゥパイは届け終わったから……次は結晶公園にピザか。パーティーでもしてるのかな、あんな公園で」
少女はスマホから顔を上げ、三角屋根の家々をかき分けた遥か先、町はずれにあるものに目を向けた。
そこには、天まで届こうかという高さの、一本の塔のような巨大なクリスタル結晶がそびえ立っている。
この町には大きな結晶がいくつも生えているが、一番大きいものは「大結晶」と呼ばれ、町のシンボルとなっている。天まで届く巨大結晶の辺り一帯が、結晶公園だ。
「よく見れば届け先、うちの学校の先生じゃん。何やって……ああ、ホウキレースの指導かな?」
少女の名はアカリ。十六歳。風に揺れる黒髪は柔らかで、目はぱっちりしている。
実家がパン屋で、配達の手伝いをしている平々凡々よりちょっと下の魔女だ。
魔女学校の制服の上に、パン屋のエプロンを着ている。背中の四角いリュックの中には、ピザが二枚。
「それじゃ、行きますか」
アカリはホウキに跨りながら、周囲を確認する。
巻き込みそうな人はいない。ヨシ!
アカリはホウキに魔力を込める。胸の奥底にある魂から魔力が湧き、胸から肩に、肩から腕に、腕から手に、そして手からホウキへと流れ込んでいく。
そうしてホウキが身体の一部になったかのような感覚を掴んだら、魔法を唱えるのだ。
「《飛べ!》」
ふわりと風が舞い、ホウキが浮上し始めた。
そのまま飛んでいきたい気持ちを抑え、アカリは高度をゆっくり上げ続ける。
ホウキ飛行安全法に則り、周囲の家屋より高い位置、つまり見晴らしのいい高度まで上がらなければならないのだ。
頭上遥か高くに、渡り鳥が飛んでいる。そのまた上には、飛行機が飛んでいた。
「空は鳥と魔女のもの、なーんて昔の話か」
今では飛行機が優先され、邪魔者扱いされることだってある。
「空を自由に飛びたいなぁ」
そんなことをぼやきながらも、安全高度に到達。アカリは発進した。
だが、まだ市街地上空。スピードを出してはいけない。自転車と同じくらいの速さで。
大結晶を目指して真っ直ぐ飛ぶ。町の中心からは離れていき、家々もまばらになってきた。代わりに増えてきた木々が風に揺られ、葉っぱたちがさわさわと音を奏でている。
そしてついに、市街地から離れた。
「よーし、飛ぶぞ!」
アカリは徐々にスピードを上げていき、モーターバイクをも追い抜ける速度に到達した。
風が頬を叩き、首に掛けた羽飾りをバタバタとはためかせる。
景色は猛スピードで後ろに飛んでいき、目の前に邪魔をするものはない。
この瞬間が一番好きだ。アカリは自然と笑みがこぼれた。
安全確認やら速度制限やらはあるが、誰もいない空を飛ぶのは最高に自由だ。
いつまでも飛んでいたい。
……と思っていると、向かいから誰かが飛んできたので、スピードを落とす。
町はずれに住んでいる老魔女だ。
「あらアカリちゃん、今日も配達えらいわねぇ」
老魔女のホウキには、ペット用のキャリーバッグがぶら下げられており、中から「にゃーん」と聞こえてくる。
「こんにちは、おばさま。猫ちゃん、どうしたんですか?」
「ちょっと前から食欲がなくてねぇ。あ、そうだ、動物病院ってどこだったかしら」
「動物病院かー」
アカリはスマホを取り出し、魔女用のナビアプリを起動する。一般向けのナビアプリは道順が示されるが、魔女用のそれは目印となるランドマークが表示される。近くの動物病院は……。
「えーと、教会の手前ですね。そこなら道も広いので、降りられると思います」
「ありがとう。お仕事、頑張ってね」
「はーい」
手を振り、すれ違う。
それから数秒も経たないうちに、梢の鳴らす音が激しくなった。
強い風が来る。
そう思った次の瞬間には、風が来ていた。
アカリは横殴りの風に合わせて体勢を変え、膨らむような軌道で飛んだ。ピザは片寄っていないはず。
上手く風を受けられたと安心していると、背後で小さく悲鳴が聞こえた。
「ああっ!」
悲鳴が耳に届いた次の瞬間には、アカリは軌道を変えていた。
振り向くと、おばあさんは無事だった。しかし、猫の入ったバッグがホウキから外れ、落ちている。
アカリは猛スピードで飛び、バッグを難なくキャッチ、そのまま弧を描きながらスピードを落としていった。
「ありがとう、助かったわ」
「ホウキ飛行だけは得意なんで!」
それしか取り柄がないことに若干の悲しみを抱きつつバッグを覗き込むと、黒猫がのんびりとこちらを見上げていた。可愛い。可愛いが、角と翼と鱗に覆われた尻尾が生えている。
「わーお、魔獣の赤ちゃんだ……」
赤ちゃんでも魔獣は強い。こんな高さから落ちても、どうってことはないだろう。
なんにせよ、無事でよかった。
「この辺りは、大結晶の影響で風が吹きますからねぇ」
大結晶が放つ魔力の影響で、風が渦巻いており、ときおり強風となって付近に吹きすさぶのだ。
「それより、荷物は大丈夫?」
「そうだった!」
猫を返し、自分のリュックを確認する。
急いでピザ用の薄い箱を開けると、そこには丸いままのピザがいた。一安心。
「ふう、あぶないあぶない」
胸を撫で下ろしながらアカリがリュックを背負うと、肩紐がちょうどブチッと切れ、リュックがぶらりと振られ、ピザが見事に片寄った。
「ごめんなさいね、わたしのせいで……」
「そういうピザだってことにします」
「たぶん、無茶よ」
「ですよね」
怒られる。お客さんからも、お母さんからも。
「それにしても、本当に飛ぶのが上手ね。レースに出たらいいんじゃないかしら」
切れた肩紐をなんとか結び、今度こそちゃんと背負う。
「うーん、競い合うのってあんまり興味ないんですよね。自由じゃないっていうか。あと、みーんな怖い顔して飛んでるんだもん」
とてもじゃないが、楽しそうじゃない。
「あら、そう? アカリちゃんなら、ステラ・ウィッチになれちゃうかもしれないのに」
「えへへ、どうも……」
曖昧な笑顔で返し、今度こそお別れする。
ステラ・ウィッチ――ホウキレースの勝者に与えられる、「導きの魔女」を意味する称号。そんなのになれるわけがない。ホウキレースに勝つのは、最優の魔女なのだ。初級魔法すらおぼつかない落ちこぼれがなれるものじゃない。
関係ない世界のことを考えても仕方ない。アカリは配達を急ぐために、スピードを上げた。
結晶公園は広大な草地で、結晶以外には大屋根の建屋があるだけ。届け先は、おそらくそこだ。
大屋根に向かっていると、予想通り人がいた。ホウキを持った五人の魔女学校生と、注文してくれた先生だ。
五人のうち二人は自分と同じ紺色の制服で、残りの三人は高貴な印象を受ける白い制服。そして二者の間には、そこはかとなくピリッとした空気が漂っている。
「やっぱりホウキレースの練習試合か」
公園で行われているのはパーティーではなく、ホウキレースだ。近々、学校対抗のホウキレースが開催されるので、その練習試合をしているのだろう。ちなみに白い制服は、自分たちとは比べ物にならないスーパーエリート校のものだ。貴族の令嬢も多い。
さっさと仕事を終わらせて、さっさと帰ろう。
「こんにちはー、サムライベーカリーでーす。デラックス片寄りピザのパイナップル乗せ、Lサイズ二枚お持ちしましたー」
アカリが声を掛けると、全員が一斉にアカリを見た。
「片寄らせてんじゃねえよ。てか誰だよ、ンなもん頼んだ奴。なんでピザにパイナップル載せてんだ。ペパロニとチーズだけでいいだろ」
「別にいいでしょ、食べられれば。片寄りも、パイナップルも」
「お前か、頼んだのは」
「違うけど」
同校の赤毛の少女が怒りを口にし、眼鏡の少女が受け流す。
その顔を見て、アカリは思わず口に出してしまった。
「うわ、うちの問題児と異端児だ」
言い終わってから急いで口を塞いだが、ギリギリ聞こえなかったらしい。よかった。
赤毛の方は血の気が多く、魔法での威嚇行為で何度も補導されている問題児。
眼鏡の方は魔女学校なのに、ずっと機械イジリをしている異端児。
我がフォルティ魔女学校の二大変な奴だ。
「頼んだのはあたしだよ」
……とここで、先生が名乗り出た。見たところ、二校による練習試合を取りまとめているらしい。
「どうしても届けたいものがあってね。ああ、ピザはそこのテーブルに置いといて。ほい、代金。おつりはいらないよ」
そんなにピザを食べさせたかったのだろうか。
お金を受け取る。お駄賃にしては多いが、ありがたくもらおう。帰りにコンビニでも寄ろうかな。
「あー、そういうことか」
「理解した」
こっちはこっちで、何かに納得している。
「そんなことより、急に欠員が出たってなに? 三人一組の競技なんだけど? これだから歴史の浅ーいフォルティ魔女学校は……。さすが、魔女よりスマホの電波の方が飛び交ってる学校は違うわね!」
相手校の偉そうな奴が、キンキンと吠えている。
「穴埋めは今届いた。スマホの電波を使ってな」
なんの話だろ? とは思うが、巻き込まれたくないので早々に立ち去ろう。
そんなアカリのエプロンを、二人は流れるように脱がしていく。
「……え?」
「はい、ここに名前を記入して」
そしてアカリにペンを握らせ、名簿に記入させる。
「え?」
そしてそして赤毛少女は、眼鏡少女とアカリの肩に手を回した。
「アタシらは、この三人で飛ぶ!」
「………………えええええええええええ――ッ!」
このときアカリは、自分が世界を変える魔女になるとは思いもしなかった。
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この物語は、落ちこぼれ魔女たちがホウキレースで勝つために頑張る物語です。女の子たちの友情・努力・勝利をお楽しみください!
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