第6話 庭園で育まれるもの
後日、フィオレンティーナ側から婚約解消を申し入れる書状がベルナルディ家に届いた。プライドの高い彼女は、クラウディオの方から婚約破棄を告げられることが耐えられなかったのだろう。
クラウディオは周囲に多くを語らず、自分はフィオレンティーナに見限られた男として振る舞った。
正直、クラウディオは恨まれて当然だとエレオノーラは思う。
(ただお茶を飲んでいただけとは言え、婚約後なのに私とも二人きりの時間を楽しんでいた訳で……)
幼馴染とはいえ。庭師とはいえ。エレオノーラがフィオレンティーナの立場なら傷つく。
だからこそ、フィオレンティーナの面子を守ったクラウディオを、エレオノーラは評価した。
そして、一年間の恋人禁止期間を作った。
クラウディオもエレオノーラも、一年間は恋人のように振る舞わない。婚約も当然その先である。
それまでは———庭師と、雇い主として。
私はゲームの主人公のアリーチェのように『聖樹』に選ばれなかった。なれたのは庭師だった。それでも大事な人の運命を変えることができた。
「エル。今日は何を植えるんだ?」
「スイカよ。夏に向けて、グリーンカーテンを作るの。涼しくて、緑が綺麗で、食べられる。一粒で二度も三度も美味しい」
「エルみたいだな。大好きな幼馴染で、頼れる庭師で、可愛い恋人で、綺麗な奥さん」
そう言いながら顔を寄せてくるクラウディオを遮るように、エレオノーラはシュパッと両手で壁を作る。
「後ろ二つはまだ!」
「ちぇ」
(油断も隙も……)
水の伯爵家、ベルナルディの屋敷の庭園からは、毎日のように仲睦まじいおしゃべりが聞こえてくる。
遊び人クラウディオは、フィオレンティーナとの婚約を解消した後はパタリと女性達との関係を切った。
そしてクラウディオとエレオノーラは夫婦になった後も、二人で土いじりをする習慣が無くなることはなかったという。
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