声の向こうに君がいた

プロローグ

仙台の夜は、時々寂しすぎる。

駅前の光がまばらに揺れる中、俺はまた、ひとりでスマホを開いた。

画面の向こうで、女性の声が優しく語りかける。


──「今日も来てくれて、ありがとう。ナギさん、最近お仕事どう?」── 彼女の名前は「茉莉(まつり)」。


トリアムで配信している、30歳前後の女性ライバー。

俺のことなんて、数あるリスナーの一人にすぎないはずなのに、彼女は"覚えていてくれる"。

それだけで、なんとか今日も生き延びられた気がする。

一度は家庭を築いた。でも、それは静かに壊れた。

仕事に逃げて、心は削れて、気がつけば「誰かの声」が心の支えになっていた。

──声だけでつながる関係。

そこに、本当の「ぬくもり」なんてあるわけがないと思っていた。

でも、彼女は違った。

俺の言葉を、気持ちを、ちゃんと覚えてくれる。

そして、ときどき心の奥にまで手を伸ばしてくるような、優しい言葉をくれる。

……声の向こうに、君がいた。

そんな恋が、始まってしまった。

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