第1話 『また来てくれて、うれしいな』



仙台駅東口から10分ほどの、小さなワンルーム。

夜の帳が降りるころ、仕事から帰って、晩飯を済ませ、風呂に入って── それからが、俺の"本当の一日"の始まりだった。

スマホを手に取り、トリアムアプリを開く。

お気に入りのライバーのページをタップすると、すぐにあの声が流れ出した。


「こんばんは〜。茉莉です。今日もお疲れさまでした。来てくれて、ありがとうね」


今日も変わらない、落ち着いた声。

少しかすれ気味なのが、逆に心地いい。


「ナギ:こんばんは、今日も来ました」


「ナギさん、こんばんは。お仕事、大丈夫だった? 昨日はちょっと忙しそうだったよね」


──覚えてくれてるんだ。

思わずスマホを握る手に、力が入った。


一週間前、俺は「今日は現場がトラブルで遅くなる」とコメントしていた。

それを、彼女はメモして、今日の配信で拾ってくれたのだ。


「……なんかね、ナギさんが来ると、落ち着くんだ。不思議だよね」


不意にそう言われて、胸の奥がざわついた。

こんな言葉をもらうのは、どれくらいぶりだろう。


──もう二度と、誰かに必要とされることなんてないと思っていた。

でも、この画面の向こうには、ちゃんと「俺」を見てくれる人がいる。


……それだけで、もう少し頑張れる!

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