第17話予感
お昼になり、食堂へ行くといつもより会話が賑わっていた。みんなプロムについて話しているようだ。心底興味がない私はサンドイッチを持って、人気のない教室へ行った。ここは常に鍵が空いていて、誰も居ない。おひるはここで、一人で作業をしながらご飯を食べるのがルーティーンだ。
(基礎の範囲の予習は終わってるから、やっぱり朝の続きかな)
ワイル先輩から、ある程度の魔法知識と政治の勢力について覚えとくことを勧められた。魔法の方はある程度進んだので、今日は朝から貴族について学んでいる。資料をパラパラ見てると、廊下からコツコツと足音が聞こえてきた。ドアは閉め切っていて、電気もつけていないため、教室には入らずドアの前らへんで足音は止まった。音を立てないように息を潜める。可愛らしい声が聞こえてきた。
「……あのこんな場所まで、ごめんね」
女性の声だろうか。
「うん………で用事ってなにかな?」
私は聞き覚えのある声に背筋が伸びた。
(シ、シオルー?!なんでいんの?)
「え、えとあの………プラムで私のパートナーになってもらえませんか?」
(あー、パートナーのお誘いか………他所でやれよ!)
私はどうでもいいことで、自分の秘密の場所に侵入されたことでかなり、苛立っていた。それはそれとして、シオルの返答も少し気になっていた。彼はイケメンで地位もある。さぞかしモテるのだろうから女性もよりどりみどりだろう。告白している女性が誰か気になった私は透視魔法を使い、相手の顔を覗き見た。その少女は水色の髪に青い瞳をした可愛らしい容姿をしていた。
(あれ、どこかで見たような………あっ、上位貴族のご令嬢!)
私はどこか腑に落ちた感覚に陥る。
「…………誘ってくれてありがとう。でも君のパートナーは遠慮させてもらうよ」
「な、なんで、まだパートナー決まってないでしょう?!それとも誰か他に誘いたい人がいるの?!」
「…………ごめんね」
それだけ言うと、女の子は足早に去っていった。暫くしてからここから離れていく足跡も聞こえて、誰もいなくなった。他人事なのに非常に疲れた。明日からは大丈夫だろうと思っていた。しかし、毎日のように誰かしら告白しにくる。
「シオルくん、私と」
「ごめんね」
「クワイルさんパートナーに」
「すまない」
「ルミナス様!」
「無理」
「プレッテちゃん」
「ごめんなさい」
終いにはプレッテへの告白も聞いてしまった。
女性陣への誘いはその場でのことが多く、リリィやプレッテは誘われ三昧だ。なのだがこんなところに来てまで誘われるなんて……プレッテの人気度が染み染み分かる。そのせいか変に怒りを覚える人もいる。教室で話している時。
「はぁーーー、もう嫌ぁぁ!」
「どうしたんですのセリー急に叫び出して」
「周りからの視線が怖いいいい」
「セリー、悩みがあるならなんでもきくよ!」
「じゃあそのキラキラを隠して!」
言いたいことは分かる。廊下を歩けば誰かが声をかけられるなんて日常茶飯事になってしまった。
「リリィにプレッテ、シオル、クワイル、ゲニウス、クレラゼモテる人多すぎなのよ!」
放課後になり、他愛無い会話が始まる。
「そんなこと言ってぇ、自分が誘われないの悲しいだけなんじゃない〜」
急にクレラゼとダズ、ゲニウスが会話に入ってきた。
「そうなのです?!」
「腹黒セリちゃんだぁ」
「…………………っ」
「そんなことないわよ!!!ゲニウスはそのなんとも言えない顔やめなさい!」
「でもみんな苦労しているっぽいよ……ほら今もシオルくんとクワイルが呼び出されたみたい」
「………あの二人さっさとオーケーすればいいのにね、あっそう言えばみんなはもうパートナー決まったの?」
「はいはーい!プレッテはダズと参加するんだよ!」
「えっそうなの?!なんでなんで」
「はい……えと、その」
ダズがプレッテの方を伺う。
「それはプレッテから誘ったんだよー。知らない人誘うのも嫌だったし、何よりダズはすっごいかわいいんだよ!ほっぺもっちもちで、なにをやるにも辿々しくてもう最強だよ!」
「…………実はダンスが踊れないのがバレたくないらしくて、偶然知ってしまった僕を誘ったのかと………。」
プレッテの方を見ると可愛い表情で誤魔化された。
「こほん……私はまだ決まってないですわ。」
「俺もー、誘われるのは嬉しいんだけど知ってるやつのが楽なんだよな」
「そうなんだよねぇ〜………リトは決まった?」
クレラゼに聞かれて、戸惑う。
(プラムに興味なくて、参加するつもりないなんて言えない。)
「わ、私は……決まってるけど、相手は内緒………」
答えに悩んだ結果、嘘をついた。が、声が張りすぎていて、廊下まで声が漏れてしまった。部屋に引き篭もりたくなる。なんとも言えない空気に耐えられず、足早に寮に戻った。
「へー、そんなことがあったんだ」
今日はワイル先輩との報告会が開かれる日で、軽く雑談をしていたら、放課後の出来事について話していた。
「クラスメイトに会いたくないですよ……」
「でも、いいんじゃないかな。学校でのプラムといえど貴族のパートナーになってしまえば後々行動が制限される。貴族じゃなくてもこの学校は出世する人も多い。そんな中で変な情を持って、自分の感情を優先させた結果身を滅ぼすことも充分にある…………つまり君が落ち込む必要はこれっぽっちだってないわけさ。」
「………先輩ってフォロー下手ですよね」
「リトさんは大分生徒会に慣れてきたようなので整理する書類を増やしても問題なさそうですね。」
私の返答が気に食わなかったのか嫌味そうに言う。しかし、学校でもなにかと気にしないといけないのは大変だろう。
他愛ない世間話をしつつ、私の整理した書類を確認していく。全ての書類を確認してからコクリと頷き、私の方を見る。
「…………リトさん」
急に真剣な声色で名前呼ばれ、背筋を伸ばす。
「……実は最近魔物が活発化が異常なほど進行しているんだ。僕ら生徒会も外への応援へ出る頻度が高くなっている。次の会議は予定通り開けないかもしれない………それを頭に入れておいてほしい。」
そのまま会議は終わり、部屋に戻る。倒れるようにベットに寝そべり考える。先輩の最後の言葉の真意は分からない。でも、あの真っ直ぐと見つめる瞳は私に何かを訴えていた。嫌な予感を抱いたまま試験当日を迎えた
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