第32話 母と娘の新しい家族の再建
志保の告白は、夜の潮風に乗って、俺の心に深く染み渡った。美保が俺の娘であるという真実。それは、愛と責任、そして献身という、俺の人生のすべてを肯定する、究極の報いだった。俺が長年抱えてきた「代用品の呪い」は、血縁という宿命の前に、完全に消滅した。
「墓まで持っていきます」
俺は、志保の罪と、美保の真実を、固く誓った。俺の愛は、戸籍や世間体など、表面的なものに左右されることはない。俺は、血の繋がりを超えて、美保を愛し、守り抜くことを、改めて覚悟したのだ。志保の顔に、安堵の涙が再び一筋流れ落ちる。長年の秘密を共有したことで、俺たちの魂の距離は、一気にゼロになった。
「本当は、昨日までは、今までのことを全部清算して、この場であなたにプロポーズするつもりだったの」
志保は、そう言って、俺の腕の中で小さく震えた。その言葉は、俺の胸に再び歓喜の衝撃を与える。彼女も、俺を、単なる支援者としてではなく、人生の伴侶として選ぼうとしていたのだ。
「私もあなたの子を妊娠しているからね」
その告白は、俺の思考を再び停止させた。美保の妊娠という事実だけで、すでに新しい家族の責任を背負ったと思っていた。だが、志保の身体にも、俺の愛の証となる命が宿っている。それは、長年の献身が、二重の命という形で報われたという、奇跡にも似た現実だった。
「でも、幸せそうな美保のことを見たら、どうしていいのかわからなくなってしまったの。これでも母親だからね」
志保は、そう言って、母性という究極の愛を選択した。美保と俺の結婚を崩壊させることは、美保と、その腹に宿る孫の命を脅かすことになる。志保は、女としての独占欲を抑圧し、母親としての愛を優先したのだ。その決断は、美保への罪滅ぼしであり、俺への献身に対する、究極の信頼の表明でもあった。
「俺にできることは、何でもやらせてもらいます。俺の子供たちであることには変わりませんから」
俺は、志保の手を優しく握りしめた。俺の献身は、愛と責任という、新しい形へと昇華したのだ。俺は、愛する二人の女性と、その腹に宿る二人の子供への責任と愛を、すべて受け入れることを決意した。
「私と美保に挟まれて大変でしょうけれど、頑張ってね。家賃がもったいないから、二人で時間を作って私の家に引っ越してきなさい」
志保の同居の提案は、母としての愛と、俺への依存が混ざり合った、強引な優しさだった。俺は、その愛の重みを、甘美なものとして受け入れた。俺たちは、秘密と愛と責任という、新たな鎖で結ばれた、歪んだ家族を再構築することになったのだ。
志保が、俺の頬に母親としての温かい手を触れ、「頑張ってね」と囁いた後、俺たちは、車を志保の家へと走らせた。夜の高速道路の灯りが、車窓に流れる。その光は、俺たちの新しい家族の未来を、静かに照らしていた。
志保の家に引っ越してから、数日後のことだった。美保が、俺を「お兄ちゃん」ではなく、「お父さん」と呼び始めた。
「なぜ、お父さんなんだ」
「私の実のお父さんで、私の子のお父さんで、私の弟か妹のお父さん」
美保の言葉は、俺の戸惑いを一瞬にして打ち消した。彼女は、俺の心臓を鷲掴みにするような勝利に満ちた笑顔を浮かべていた。
「知っていたのか?」
「お父さんは、いつ知ったの?」
「ここに引っ越す直前」
「やっぱりね。ねえ、お父さん、亡くなったお父さんは私にとっては酷い人だよ。私が大学に入学した時に、お前は実の娘ではないと言って私を強姦しようとしたんだよ。そこを間一髪でお母さんに見つかってね。逃げるように家から出ていったら、そのまま交通事故で死んじゃった。私はお兄さんが好きだった。私はあなたの一番でいたかった。私はあなたと結婚したかった。だから全部なかったことにした。戸籍上問題ないのだから黙っていれば問題ないでしょう。あの男を夫に選んだお母さんには女として負けたくないの。悩むなら、私たち家族を幸せにするために悩んでね。私のお婿さん」
美保の告白は、俺の心を二重の衝撃で貫いた。彼女は、啓介の支配の真実と、血縁上の真実を、すべて知っていた。俺は、最後まで真実を知らなかった男として、愛と責任を背負うことになったのだ。美保の強引な愛と、志保の母性。俺は、愛と秘密が混ざり合った、この新しい家族を、すべて受け入れた。
その後、美保と志保は、それぞれ女の子を無事出産した。美保の娘は愛と策略の結晶、志保の娘は献身と償いの証だった。俺は、愛と秘密、そして責任という、重い現実を背負いながら、二人の娘の父となり、新しい家族を支え続けた。俺の長すぎる未練は、愛と継続と責任という、真の愛の形として成就したのだ。
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秘密:長すぎる未練と一夜の契約 舞夢宜人 @MyTime1969
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