第25話「約束」

「うん? カードゲームをいっしょにしてる際に、どの辺に住んでるのかって話になったんだよー」


 赤松はなんでもない風に話す。

 たしかに嘘は言ってない、気がする。


「そっかー!」


「ま、そりゃお互いがどこ住みかは気になるもんね!」


「どこでなら遊びやすいかって話だし!」


 聞かされた三人はすんなり信じていた。

 なるほど、陽キャたちってそんな考えで生きているのか。


 ぼっちの俺には出せない発想と話題だなぁ。

 陽キャってそうやってさりげなく情報交換していくのか。


 すごい生き物だ。


「へー、白山台って徒歩で学校に通ってるんだ~」 


 情報が共有されていく。

 べつにいいけど。


「家から近いのはいいね!」


「ウチは自転車通学だからちょっとうらやましいー」


 陽キャ女子ってほんと、どんな話題でも盛り上がるスキルを持っているんだね。

 それともこの子たちの特殊能力なのかな?


「おっと、そろそろ電車の時間だ~!」


「それじゃあまたねー!」


 女子たちはいっせいにあいさつして、俺に手を振って改札へと消えていく。

 俺は礼儀的に手をふり返して駐輪場の方角へ歩き出す。


 楽しい時間だったなぁ。

 あんなに可愛い女子たちに囲まれて、いっしょにスイーツを食べるなんて。


 カードゲームばかりの日々を送っていた俺からすれば夢みたいだ。 

 またねって流れで言われたけど、たぶん赤松以外との接点はないんだろうなぁ。


 それが陽キャと陰キャという立ち位置の違いが産む現実というもの。

 それが日常ってやつだな、うん。


 家に帰ったらポンとスマホの通知が鳴った。


【今日はありがとう。会えてよかった。楽しかった~】


 という主旨のメッセージが赤松から届いている。

 女子らしい可愛らしいデコレーションつきで。


「マメなんだな」


 思わずつぶやく。

 ここでも陽キャのすごさを感じた。


 メッセージをわざわざもらったのに返事をしないのはだめだよね。

 返事をぽちぽちと打つ。


 簡素な内容になってしまったが、スルーよりはずっとマシだ。

 そう信じたい。


 手洗いとうがいをすませて自室に行く。


「コミュ力の違いは圧倒的だったな」


 とつぶやき、ため息をこぼしながら自省する。

 さすが陽キャたちだった。


 俺にもあんなコミュ力があれば……友達のひとりくらいできるんだろうか。



 木曜日はいつも通りにバイトして、特筆すべきことはないかなと思っていたら。

 赤松が先に帰ったあと、光先輩がこっちを見て、


「蓮くんさえよかったら、あいている日に僕の弟と対戦してくれないかな」


 と言い出した。


「それはかまいませんが」


 俺は目を丸くしながら答える。


 バイトしてない日は誰かと対戦するか、アニメを見るか、それともデッキを練っているかだ。


「よかった! 弟はきっと喜ぶよ!」


 光先輩はうれしそうに笑う。

 こういうときはとても女らしくて、ドキドキさせられる。

 

 美少女の笑顔って、近い距離で見ると破壊力がすごいよね。


「だといいのですが」


 俺って子どもを喜ばせるようなことってできるかな?

 楽しく対戦して満足してもらえるように努力する、とあたりが限界な予感。


 まあ、さすがにそれ以上は光先輩だって期待してはいないだろう、たぶん。


「ちなみになんだけど」


 と言ってから光先輩はこっちを見て溜める。

 なんだか言いづらそうだ。


「いつなら都合がつくか、参考までに聞かせてもらってもかまわないかな?」


 と彼女は言ってくる。

 なんだか急だな?


 彼女の弟はそんなに対戦相手に飢えているんだろうか?

 小学生くらいならカードゲームをやってる奴くらいいそうだけど……。


 この店に来る客の二割くらいは小学生だし。


「今度の土曜日はどうですか?」


 とりあえずあいてる予定を伝えてみる。


 先週は土日とも入ったという理由で、今週の土曜日は休みにされてしまったのだ。


 「高校生が毎週土日バイトしてるのはよくない」とか店長は言っていたけど、バイト代もらえるほうがうれしいのに……。


「よかった! 大丈夫だと思うよ」


 光先輩はとてもうれしそうに笑う。

 優しいお姉さんという表情だ。


 王子と呼ばれている姿から、ひと味違っている。


「ではよろしくお願いします」


 と俺が言うと、彼女はあわててスマホをカバンから取り出す。


「待って! 連絡先を教えて!」


 言われてみれば、この人の連絡先を知らないな。

 ぼっちの陰キャには知り合った人と連絡先を交換する、という文化がないのだ。


「おっと。そうでしたね」


 と言って俺もスマホを取り出し、メッセージアプリの登録をする。


「これでよし」


 光先輩は満足そうな笑みを浮かべて、


「じゃあ土曜日はよろしく。時間はまたアプリで相談しようよ」


 と言う。


「わかりました」


 承知すると彼女は右手を挙げて、今度こそ去っていく。

 そっと息を吐き出して店内に戻ると、


「長い見送りだったね」


 店長に苦笑されてしまった。

 反省。


 お客さんゼロだけど、だからと言ってもまずいことに違いはない。


「おじさん、堅苦しいこと言わないの」


 と横から口を挟んできたのは、遅番の美咲先輩だった。


「あれくらいはお客さんへのサービスの範疇でしょう」


 どうやら俺のことをかばってくれるらしい。


「だから注意はしなかったじゃないか」


 店長は笑っている。

 注意にならない程度の指摘だったということか?


「店長のほうが一枚上手なのでは」


 正直に言うと、美咲先輩にじろっと見られる。

 美人だけど、本気感はないから迫力はない。


「味方をしたのに裏切るなんてひどい」


 美咲先輩はぷくーっと頬をふくらませる。

 こういうところ、まるで小学生みたいだ。


 言ったら今度こそ怒られることは予想できる。


「すみません」

 

 美咲先輩があまりにも可愛すぎたこともあって、ついつい謝ってしまった。

 

「今度遊びに行くのにつき合ってもらうわね」


 と美咲先輩に言われる。


「いいですけど、どこに行くんですか?」


 この人ならおかしなことにつき合わせないだろうという安心感はあるものの、どこに行くかで準備が変わるからね。


「うーん。ちょっと梅田まで行ってみたくて。わたしひとりだとナンパがうっとうしいから」


 美咲先輩の説明に納得する。


 俺だってこの人がナンパされているところを見たことがあるし、何ならスカウトに話しかけられてもいた。


「なるほど。男よけですか」


 それなら俺でも役には立つかな?

 美咲先輩はカードゲーマー仲間として話が合うし、仕事でもよくしてくれる。


 役に立ちたい気持ちはあった。


「俺でよければつき合いますよ」


 と答える。


 行き先は聞いてないけど、俺を誘うくらいなら『マギコロ』関連だろうな、と予想はできていた。


「よかった。できれば土曜日に行きたいんだけど」


 美咲先輩のこの言葉はさすがに予想外である。


「えっと、いまさっき光先輩と約束したんですが」


 まさかかぶせてくるようなことをするなんて。

 困惑して確認すると、


「わたしとの用事は午後二時くらいには終わると思うし、出発時間をあとにしてもいいの。相談すれば調整できるはずよ」


 美咲先輩はなんでもないという顔で答える。


「それはそうですね」


 普通に考えて小学生男子と長時間、『マギコロ』の対戦を続けられるはずがない。

 二、三回戦って感想戦して終わりになるだろう。


 美咲先輩の見解はもっともだ。


「納得しました」


「でしょう? 相手の都合を聞いてからわたしに連絡してくれたら、なんの問題もないと思うわ」


 俺の反応に満足した顔で、美咲先輩は言う。 


「そうします」


 俺はうなずく。


 時間指定みたいなのがあればややこしくなる気がするが、それなら別れ際に光先輩は言っただろう。


 それにしてもまさか一日に二件も約束が決まるなんて。

 昨日の俺に言っても信じないだろうな。


 なんか高校生になってから、すこしずつ変わってきた気がする。

 ……なんてな。


 たぶん、いまだけの話だろう。

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