第43話 響岩
六連の砂時計の天地が返り、午後を少し過ぎた頃。
岩の研究を続けていたソレルとデステルのもとへ、ダランが現れる。
その顔に、いつになく複雑な表情を浮かべていたため、ソレルは少し身構えた。
「……何か、あった?」
ダランはしばらく言葉を探すようにして、それから小さく首を振った。
「父上に、話してきたんだ。声だけを拾う方法を模索したい、って」
「……!」
ソレルの喉が鳴る。
だが、ダランは少し口元をゆるめて続けた。
「“お前の好きにしろ”って。そう言われた」
「ほんとうに?」
「“音が広がって騒がしくなるのでは”と、最初は渋っていた。けれど──これからの国に必要なことだと思うなら、やってみなさい、と。“進め”と言われたよ」
ゆっくりとソレルの肩に手を置き、ダランはまっすぐに言う。
「だから、やろう。お前の思う未来を」
ソレルの目が、ふっと揺れる。
「……ありがとう」
◇◇
研究室の中、ソレルとデステルは何度目かの試作に取り組んでいた。
「岩を加工し直すのは……難しいですね」
音を吸収する加工を改良しようと、試行錯誤を繰り返してきた。
だが──よくよく考えれば、一部の音域だけを反響させるというのは矛盾に近かった。
「じゃあ、別の鉱石とか……まったく違うものを使って、別のシステムを作るっていうのはどうかな」
「なるほど。新たに“設置する”というわけですか」
「そう。音を拾って、反響させる……そんな仕組みを」
「分かりました。この国にある鉱石のサンプル、かき集めてみます」
そうして、デステルと二人、鉱石のひとつひとつを削り、響き方を確かめていった。
今回の石は、人の声を拾うには繊細すぎた。
高音に共鳴しすぎて、まるで鳥のさえずりのような音を発してしまう。
「……“声だけ”を拾うって、こんなに難しいんだな」
ソレルは、鉱石の断面にそっと手を当てながら呟いた。
「でも……どこかにあるはずだ。人の声の帯域だけ、きれいに響く石が」
手元の図面には、まるでバイオリンのようにくり抜かれた共鳴孔の設計が描かれていた。
その中に、“響き核”と呼ばれる部品を埋め込む──素材によって、音の広がり方が変わるのだ。
「これ、どうですか」
デステルが取り出したのは、灰青色の鉱石だった。
地の国でも稀少なもので、かつて“歌石”と呼ばれ、王宮の一角にわずかに残されていたという。
試しにソレルがその前で、小さく「おはよう」と言うと──
微かに、けれど確かに、音がやわらかく広がった。
「……今、響いた……!」
「でも、うるさくはない。柔らかくて、ちゃんと耳に届く」
互いに顔を見合わせた。
「やっと……見つけたかもしれませんね」
「うん。これを組み合わせて、大きくできたらどうだろう」
「なるほど。いいですね」
「どうせなら、花の形にしようよ。咲いて、声を届けるような」
「“響き岩”、ですね」
そう名づけたのは、デステルだった。
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