第41話 時を刻む
「……お前は、ほんとにすごいな」
その声は、先ほどよりも少し低くて、あたたかい。
ソレルは困ったように笑った。
「うん、でもデステルと……勝手に盛り上がってただけかもって思ってたから」
「盛り上がっていい。俺はその設計図を、すぐにでも父に見せに行きたい」
「──え?」
「お前が作る“新しい時間”で、この国の人々の生活が良くなるのなら──、俺の意見など待たないでくれ。」
大げさでもなんでもない、まっすぐな言葉に、ソレルは思わずまばたきをした。
「でも……試作してからじゃないと、まだ動くかもわからないし──」
「動かなくてもいい。何度もやり直せばいいだけだ。俺たちの国は、今も岩の中を掘り進めているんだ。“常に前に進め“それが俺たちの中に根付いている感情だ。だから──お前も自由に進んでいいんだ。」
また、顔が熱くなる。
そんなソレルの頬に、ダランが手を添える。
「作れ。好きにやっていい。」
「……そんな風に言われたら、頑張るしかないじゃないか」
口を尖らせながら言うと、ダランはまた、あの“男臭い笑み”を浮かべた。
「じゃあ、がんばる“ご褒美”も、ちゃんと用意しておかないとな?」
「──い、いいよ!いらない!」
慌ててソレルが否定すると「またまたぁ。しっかり頂くんでしょ?」とデステルがにやにやと笑っているのが見えた。
「う、うるさいな……!」
ソレルは資料を抱えてそっぽを向いたが、その耳までしっかり赤くなっていた。
そんな彼の背中を、ダランがひょいと軽く叩く。
「お前が進めば、きっと皆も前に進める」
その一言に、ソレルは足を止めて──小さく、うなずいた。
「……うん。やってみるよ」
この手で、確かな“今”を刻むために。
◇◇
その日は、特別に灯数を増やしていた。
小さな岩室に集められたのは、ダラン、デステル、そして数名の職人たち。
部屋の中央には、精巧に組まれた六つの砂時計が整然と並んでいる。
すべて同じ大きさ。
けれど、それぞれの砂は違う粒径で作られており、一つが落ち切るまでにちょうど二時間かかるよう調整されていた。
「……準備、できた?」
ソレルが最後の確認をしながら、小さく息をのむ。
「はい。各部、固定良好。落砂の感知石も動作確認済みです」
デステルがすっと姿勢を正して答えた。
「じゃあ──いきます」
ソレルがそっと、1つ目の砂時計の上部に手をかける。
カチリ、と静かな音を立てて、
最初の砂が、音もなく──すう、と流れ始めた。
……時間が、動いた。
重苦しい静けさが満ちていた部屋に、
さざめくような「砂の流れる音」が広がっていく。
「……」
「……きれいだな」
ぽつりと、ダランがつぶやいた。
まるで、光のないこの国に“時間”という名の光が差し込んだように──
その瞬間、誰もが目を奪われていた。
──2時間後。
最初の砂が落ちきると、感知石が反応し、隣の砂時計が自動で傾いた。
連動式の仕組みによって、次の砂が流れ始める。
カコン。
カリ……。
続いて三番目、四番目……
時を刻むように、静かな機械音と砂のさざめきが連鎖していく。
──やがて六番目の砂時計に砂が落ちきると、
「……反転、します」
デステルが合図を送る。
装置の中心部に仕込まれた重錘が、ゆっくりと下がり──
全体の構造が、滑らかに反転した。
六連の砂時計が、まるで花が開くように裏返り、再び1つ目の砂が流れ始める。
「成功……、した?」
ソレルが信じられないように呟いた。
それに応えるように、ダランが、そっと彼の肩に手を置いた。
「──ああ。
お前が作った“時間”は、確かに動いてる」
その声に、ソレルはゆっくりと目を伏せ、
こみあげるものを押し殺しながら、そっと微笑んだ。
「これが……、僕たちの“今”だよ」
砂は、今日も静かに流れていく。
──太陽のない国に、“時間の光”が灯った日だった。
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