第38話 地底の国の未来

「それで、やっぱり──これからの課題は、“音”だと思うんだ」


「……音?」

ダランが眉を寄せる。その隣で、デステルが興味深そうに頷いた。


「うん。手話はとても便利だし、この国の文化として根付いてるのもわかってる。でも──前みたいに、ラハル山が噴火しそうになったとき。あのときみたいな緊急事態を、扉を叩いて伝えるのには限界があると思うんだ」


「──はい、それはこの間のことでさらに必要性を感じておりました!」

デステルが身を乗り出し、手話と声を交えて熱を込める。


「だから、音を吸収するこの岩の仕組みそのものを──少し、変えていけないかと思ってて。見てくれる?」


ソレルは頷き、2人の前に紙を広げた。

 

「そもそもこの岩が作られたのって、掘削の音がひどかったから……って話だったよね?」


「ああ。地鳴りのような轟音が、住民の生活を脅かしていたと聞いている」


「なら、“全部の音を吸収する”んじゃなくて……たとえば、“人の声の音域だけ通す”とか、“振動だけ残す”とか。そういう制御って、できないかなって思ったんだ」


「……声だけ聞こえるようにする!? それができれば、非常時の警報も、皆に届くようになる……!」


「そう。ちゃんと──誰かの“声”が届くように」


「……もしそれが実現できれば……地上にある“音楽”や“踊り”も、この国で発展していくかもしれないな。ようやく、芸術が花開こうとしているように感じる」


ダランが静かにそう呟いた言葉に、ソレルは胸の奥がじんとするのを感じた。


やっぱり、ダランはこの国の未来をずっと見つめているんだ。


そして──

何より、自分がそんなダランの隣に、引け目を感じず立っていられることが、こんなにも嬉しいだなんて。


ふと目が合い、そっと微笑むと、ダランもわずかに目元を緩めてくれる。


そのやさしいやりとりの空気の中で──


「……私はこの辺で失礼した方がよろしいですかな?」


と、デステルが空気を読みつつ、からかうように小声で囁いた。


「変な気は使わないで…」


思わずそう返したソレルに、ダランが穏やかに、けれど遮るように続けた。


「──悪いが、慣れてくれ」


その声は低く、しかしどこか照れたような響きを帯びている。


そう言いながら、ダランは静かに、刺青の入った足をソレルの方へと絡めてくる。


足首のブレスレットが、かすかに擦れ合って、

チリ──と、淡い音を立てた。


それはまるで、確かに“結ばれている”ことを告げる音のようで──

ソレルは、胸の奥でそっと息を呑んだ。


その静かな空気を壊さぬように、けれどしっかりと空気を読むように──

デステルが、わざとらしく肩をすくめて小さく呟いた。


「……何だか胸焼けがしてまいりました。昼食後にまた来ますので……」


さっと身を翻し、気配を残さず去っていく彼の背に、思わず笑いそうになるのをこらえながら──

ソレルはそっと、まだ重なる足のぬくもりを感じていた。

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