第35話 正しい未来

「すごい、あちこちが明るくなってる」


 ソレルレンズの普及により、地底の国は明るくなっていた。

 まるで街灯のように、所々が明るく町中を照らしていた。


「そうだ。見違えただろう?」

 ふふんと嬉しそうに言うダランの笑顔が自信に満ちている気がした。


 そしてダランの父であり、地底の王に「実は、カミュラではなく、弟のソレルが来ていたこと、そして、ダランの正式な妻になります」と報告したときの、あの緊張感は──

 たぶん、一生忘れられない。


 王の沈黙。

 王妃の「え?」という顔。

 宰相のちょっと見開かれた目。

 部屋の空気が凍りついた数秒間を、僕は永遠のように感じた。


 ……けれど、結論から言えば杞憂だった。


 地の国では、養子を迎えることも、血の繋がりにとらわれない縁を結ぶことも、珍しいことではないらしい。

 咳払いをした後、「ようやく正式に家族が増えるのだな」と王が微笑んだ瞬間、その場の空気がふっと和らいだ。


「最初からそう言えばよかったのに…!」

 デステルのぼやきには、さすがに苦笑いしか出なかった。


◇◇


 《ソレルレンズ》の光が、この国に芸術をもたらした。

 暗闇では見えなかった壁に、今では子どもたちの落書きが踊っている。

 それを眺めながら、ダランが言った。


「光があると良いことも悪いことも、全部見えてしまうんだな」


 苦笑まじりのその声が、どこか誇らしげで、

 僕はただ頷いた。


 ──光があれば、影も生まれる。

 それでも、人は前を向いて生きていける。


◇◇


 そして、その日。


「初夜の儀を“改めて”行う」──

 そんな連絡が神殿から届いたとき、

 僕とダランは顔を見合わせ、同時にため息をついた。


 神官たちには、こっぴどく怒られた。

 「形だけとはいえ、儀を偽るとは何事か!」と。


 ……だけど、ダランは僕の手を取って、小さく笑った。


「なら、今度こそ本当の“初夜”にしようか」


 光の下で、彼の瞳がやわらかに揺れる。

 僕は頷き、そっと耳元に唇を寄せ、そっと囁いた。


「愛してる」


 それに応えるように、ダランが唇を寄せた。

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