第12回 #結婚式って、どう思う?

「りゅうはさ、結婚式ってやりたい?」

「うーん、微妙。」

「そっか。」

「どうしたんだよ。ケンヂは?やりたいの?」

「うーん、微妙……。」





「はい、こんばんは。りゅうです。」

「こんばんは、ケンヂです。」

ふたりが満面の笑みで画面に映し出される。

お互いの距離は、あの件以来、さらに近くに寄り添ったように思える。

「いや、こないだケンヂがさー。」

触れたり顔の距離が近くなることが多くなったりと、物理的な距離感もさることながら、ふたりの醸し出す雰囲気が柔らかいものになり、お互いがお互いを大切にしているんだな、ということを感じられた。

《新婚旅行とか行かないの?》

《お披露目オフ会とか》

「あー。オフ会とかしたいね。」

「ケンヂはそう言うけど、オフ会ってどうやるんだろうね?」

配信者として界隈では分かる人には分かるくらいには知名度が上がってきているものの、事務所などに属するほどではないと思っているため、そういった後ろ盾もない。

《そういえば、結婚式とかしないの?》

「───。」

ケンヂの動きが一瞬止まる。

それに、気付いてか気づいてないか、分からないくらい自然な間でりゅうが先に声を出した。

「いや、別にしなくていいかなって。」

《そんなもんか》

《ふたりがいいならいいけど》

りゅうは、軽い気持ちでそう言ったが、ケンヂは微かに目を伏せた。

その後、直ぐにパッと顔を上げてケンヂは不自然なほど軽い笑みを浮かべる。

「うん。やっぱそーいうの恥ずかしいしね。」



「なんか違和感あるんだよなー……。」

さきは、配信を見ながらうーんと唸っていた。

りゅうは確かに、そういうことに頓着しないタイプではあると思う。

サプライズが斜め上のやり方だったりするし、人によっては嫌がるかもしれない。

でも、ケンヂはサプライズやそういったことをやるのが好きなタイプである。

そのケンヂが、『恥ずかしい』という理由だけで結婚式という、一生に一度になるかもしれないイベントを流してしまうだろうか。

「ちょっと聞いてみるか……。」

さきは、最近りゅう&ケンヂを推している仲間を見つけていた。

その子なら、配信を聴いているだろうし、なにより違和感の正体を勘づいているかもしれない。

そう思うと、さきはその子にDMを送った。

『おつ』

すると、すぐに返事が来た。

『結婚式のことでしょ。』

「さすが燐ちゃん分かってる!」

燐とは、SNSを通じて知り合った。

相手に会ったことも、声を聞いたこともないが、りゅうとケンヂの話になると、どこで区切ればいいか分からないくらいに盛り上がる。

『ケンヂの意見どう思う?』

『いやー、ケンヂくんらしくないなって思う。』

「やっぱり、燐ちゃんもそう思うよね。」

さきはしみじみと言っては、画面に向かって大きく頷く。

『あと、オフ会にもなんか微妙な空気流れたのも気になってる。』

続いた燐の返事に、先はうんうんと頷いた。

「それだよね。」

『オフ会なんて、別に配信してなくてもしてる人いるしね。言い訳が微妙だったよね。』

『さきちゃんもそう思う?』

ふたりが悩みに悩んで、あーでもないこーでもないと言い合った。

最終的には、『無闇な検索はしないこと』といって、メッセージのやり取りを終わらせたのだが……






りゅうは、配信を切ったあと急にケンヂの手を取った。

「え?」

ケンヂは不思議そうに目を丸くして、りゅうのことを見る。

「来て。」

「どういうこと?」

配信をしていた場所から手を引かれて、連れてこられたのは寝室の前。

怪訝そうな顔でケンヂがりゅうを見ると、ニッコリ柔らかくりゅうは笑った。

「何……?」

「開けて。」

不安そうな不思議そうな変に勘ぐるような表情を浮かべるも、ゆっくりケンヂは寝室のドアを開けた。

「え……。」

ケンヂは、一旦ドアを閉める。

驚いたような、唖然としたような表情を浮かべて、りゅうを見た。

「なんで……。」

「本当はさ、やりたいんでしょ?」

りゅうは、ケンヂの手を取ると再度ドアを開ける。

ケンヂは心臓が、バクバクするのを感じた。

「ケンヂ、しよう。結婚式。」

寝室には、結婚式場のパンフレットや、ゼクシィ、タキシードのカタログなど結婚式にまつわるものが置いてあった。

「これは、俺からね?」

そう言うと、りゅうはポケットから箱を取り出す。

「結婚指輪。」

「りゅう、本当に?微妙じゃないの?」

「俺は、ケンヂのしたいことは全部叶えたいよ。」

柔らかく優しく笑ったりゅうは、ケンヂの左手を取ると、薬指に口付ける。

「ちゃんと笑っていて欲しいし、幸せにしたい。」

「りゅう……。」

「愛してるよ。」

ケンヂは、滲む涙を抑えないままにギュッとりゅうに抱きついた。

「男前すぎ……俺も愛してる。」

"愛してる"という言葉をこんなにも幸せな気持ちで言えるなんて幸せ過ぎると、ケンヂは思っていた。

「ゼクシィさ、配信で写そうよ。」

「え、何?匂わせ?」

「誰が一番先にコメントするかな。」

ふたりは、花が芽吹くような優しい笑みで部屋に入る。

ケンヂは、パンフレットやカタログをひとつひとつ手に取っては、中を見ていく。

「ねえ、りゅう。このカタログとか、パンフレット全部もしかして?」

「ん?」

「これ、LGBTQプランのやつ?」

「うん。その方が、気を使わないかなって。」

ケンヂは、りゅうのその気遣いに、フット目を伏せたかと思うと顔を上げ、ぎゅっと抱きついた。

「そこまで考えてくれたの?」

「だって嫌な思いはしたくないじゃん。」

「ありがとう…でも、大変だったでしょ?」

「ケンヂの為なら、なんでもないかな。」

りゅうは、抱きついてきたケンヂの腰を抱いて、自分の方に引き寄せると頭を撫でる。

そして、耳元に顔を近づけた。

「ケンヂは俺の王子様であり、お姫様だから───。」

「うっわぁ……。」

ケンヂの耳が微かに赤くなったのを、りゅうは見逃さなかったが、今はそれはそっと伏せたのだった─────。






翌日PM22:30

「こんばんは、りゅうです。」

「じゃーん!!」

「ちょ!待ってケンヂ。匂わせで映すんじゃなかったの?」

ケンヂは、昨日、『そっと置いておいて、誰が一番先にコメントでゼクシィを見つけるかってのをやろう』と話してたはずだ。

それなのに、ケンヂは名乗ることもすっ飛ばし、ゼクシィを画面いっぱいに映したのだ。

「いや、ごめん!りゅう許して!我慢できなかった!」

《え、それってそういうこと?!》

《結婚式やるってこと?!》

《え、何がどうしてそうなった?》

コメント欄が混乱をきたす中、ケンヂはニヤニヤしているし、りゅうは優しく目を細める。

ケンヂは、勿体ぶるように、流れてくるコメントをしばらく眺めた後にゼクシィを置くと、改めるように座り直した。

「俺たち、結婚式します。」

「まだ、ちょっと先だけど……式はふたりきりで。そのあと、ちょっと配信できないか相談中です。」

「りゅうとケンヂをまだまだよろしくお願いします。」

そうりゅうが言うと、2人揃って、頭をぺこりと下げた。

《えー、おめでとう!!!!!》

《配信楽しみにしてる!》

《推しの結婚式とかマジやばくない?》

《この先も幸せでありますように》


「そうだね、ケンヂのことはこれから先も幸せにします。」

「あ、それずる。」

「ん?」

「りゅうのことも幸せにするし。」

りゅうは、ケンヂの言葉に少し驚いたように目を開くも、直ぐにくしゃりと笑えばコツンと肩をぶつけた。

「二人で幸せになります!」

「これからも、#同棲ラジオをよろしくね!!」



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