俺の妹、最強すぎる件について

第1話 追放された兄妹


 ――単刀直入に言う。

 

 俺、"エスカ・グラード"は人々からは、地に落ちた哀れな没落貴族として知れ渡っている。


 なぜ、そう呼ばれるようになったかは約7年前のある事件に遡る――。



 俺の実父にあたるバラン・グラード公爵が秘密裏にグラード公爵含め数多くの貴族が住む王都の敵国と繋がっていたことが王都で明らかになったのだ。


 当然俺の父は捕まって極刑となり、身内であった俺、妹、そして俺の母は追放されることになった。


 その母も俺達を見捨てて一人で逃げる始末。


 俺の家は無駄に地位の高い家系であり、他の貴族間でも有名だったので、この事件は幅広く世界の貴族に広まり全員の頭に名を刻んでしまった。


『グラード公爵家という没落した哀れな貴族の名を』



 ――っとまぁこれが俺が没落貴族と言われるようになった経緯である。いきなり聞きたくもないのに自分の過去とか勝手に語りだして申し訳ない。しかも、だいぶ大雑把に。

 

 現在――、俺は、妹と王都から離れた小さな村で静かに暮らしている。


「はぁ、なんで俺が山菜採りなんか……。リリーのやつ、自分は剣術の鍛錬があるからって面倒事押し付けやがって」


 俺は今、妹に夕食分の食材を取ってこいと言われ、村近くの森に入って食料調達している所だ。

 


 ――この村はセラル村と言うらしい。古くからある村の一つのようだがあまり聞いたことがなかったし、この村がこの土地に存在していることさえ認知していなかった。

 ただ、それほどの地位だったグラード家の俺が聞いたことないのだから王都の貴族もこの村の存在をあまり認知してないと思う。そうなれば、もし俺達の行方を捜す輩がいても大丈夫だろう。

 

 何よりも、ここは、自然が豊かで、静かで、空気がおいしいのだ。故に、俺はこの村を、この暮らしを大変気に入っている。

 貴族だった頃はいつも堅苦しい部屋に居させられて外に遊びに行こうにも専属メイドに止められていた。

 しかもそのあとは父から『もう少しグラード家の人間としてせめての自覚をもて』というくそダルい説教のお墨付き。

 思い出すだけで頭が痛くなる。


 「さて、このくらいでいいだろ。さっさと帰ろ帰ろ」


 背負っているカゴの中には食材であるキノコやタケノコの他に、薬草なども入っている。旗から見たら今の俺の姿は、元貴族なのにただの田舎に住むおっさんの姿にしか見えないかもな。

 まぁこれが没落貴族の末路といったところか……。


「ん?」


 ふと、俺はある木の根元に目を配るとそこには倒れてかなり弱っているクマの子供を見つけた。見ると子グマの右足から出血している。


「あらら、これは痛そうだな……」


 俺は自分の着ている服を少しちぎって子グマの足に包帯を巻くようにちぎった服を巻いてあげる。


「ほら、これでどうだ?」


 そう言ってみたが子グマの体調は一向によくならない。俺は不思議に思い、子グマの全身を改めて見てみるとさっきまで見えなかった所に僅かに何かに引っ掻かれたキズの跡があった。しかもそのキズからは微かに毒の香りがした。


「なるほど、魔物か……」


 "魔物"

 古くから存在する非常に凶暴な生き物。生命力が高く、攻撃力も高い。中にはドラゴンや大蛇といったバケモノの他に、まれに知性を持つ厄介な個体もいるとかなんとか。

 どうやらこの子グマは魔物に襲われたらしい。


「しょうがない、これ使うか。まぁこんだけあるし一つくらい大丈夫だろ」


 そう言って俺はカゴから薬草を一つ取り出した。          薬草を口でちぎり、中の汁をちぎった俺の服に染み込ませ、子グマのキズ口に覆い被さるように巻いてあげる。


「ほら、今度こそこれでどうだ?」


 そう言って手を離し、子グマを見る。

 最初は弱っていた子グマだったがやがて顔色がよくなり、立ち上がった。

 俺はそれを見て安堵する。


「よかったぁ。それじゃあな。もう魔物に襲われないよう気をつけろよ〜」


 そう言って立ち去ろうとした瞬間、何やら草陰から気配がした。

 俺が、少し警戒していると草むらからそれは勢いよく出てきた。


「うわぉぉ?」


 勢いよく出てきたのは子グマと違って図体がバカでかいクマだった。俺は驚いてお尻をついてしまう。


「グルルルル……!」


 この目、明らかに俺を敵視している目。

 クマは子グマをまもるように俺に威嚇している。


(あ〜、なるほど)


 今のでわかった。どうやらこのクマと子グマは親子のようだ。それで、子グマの怪我を見て俺がやったと思っているのだろう。

 

「やれやれ……」


 俺がどうしようか頭をポリポリ掻きながら悩んでいると、ふと、別の気配を感じた。それも、かなりの魔の力を感じる……。


 クマも気づいたらしく、俺に僅かに警戒しながらも周りを警戒し始める。


(流石は野生のクマ……。そういうのにも敏感らしい)


 そして、僅かに沈黙が訪れた瞬間、クマの背後にいる子グマのさらに背後から勢いよく"魔物"が現れた。


 クマは即座に反応して子グマをまもるように立ちはだかる。だが、流石に不意打ちだったからか、魔物の不意打ち攻撃がクマに入ってしまった。

 クマは僅かに飛ばされて木に激突する。子グマはすぐにクマに駆け寄る。俺もとりあえず駆け寄って安否を確認する。

 さっきの攻撃でキズはあるが大丈夫なようだ。

 そこで、俺はある事に気づく。クマのキズ口から毒の香りがしたのだ。


「なるほど。子グマを襲ったのもこいつだったってわけか」


 クマは立ち上がろうとしたが、毒が身体に周り始めたようでうまく立てないようだ。

 魔物は近くまで迫っていた。それを見て怯え始める子グマ。

 クマは子グマをまもるために無理やり立ち上がり子グマの前に立ち、魔物と相対する。

 俺は親が子を全力でまもるクマの姿見て――、


「あぁ、やっぱそうなんだな。親というのは……」


 ――っと呟いた。


 しかし、それでも魔物の方が強いのは変わらず、クマはそのまま攻撃を入れられてしまう。


 何発も、何発も……。


 ついにはダメージを受けすぎて立ち上がれないクマは首を絞め上げられてしまう。子グマはそれを見てすぐに駆け寄ろうとしているが流石に危険なので、俺が止めている。


 (どうする。間違いなく今の状況はピンチ。

 あのクマも瀕死だ。どうする。……ちっ)


 ほんの僅かに、周りの木々が揺れ始める――。




 その時、どこからか炎の塊? のような物がものすごいスピードでとんで来て魔物の首を胴体だけ残して吹っ飛ばした。

 そのおかげで、クマの首は手から離れするりと地面に落ちる。


「ワ、ワンパンとは……」


 俺は今一度その炎の塊を見る。よく見たらその炎の中には人のような姿があった。やがて、その炎が消え、そいつが姿を現して言った。


「……遅いと思って探しに来てみれば……、一体どういうこと? 兄さん」


 そう、俺のたった一人の妹、リリア・グラード。

 リリーの姿だった。

 









 

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