野崎渚


 心というのは、簡単に動く。言葉ごときで、簡単に動いてしまう。人間というのは、単純な生き物である。しかし、時に、ただの容姿に惹かれ、一方的に恋をすることもあるかもしれない。

 人間とは、脆い。心も、体も、脆く、貧弱である。たった一人の人間に振り回され、人生を滅茶苦茶にしてしまう愚か者もいる。

 そして、私も愚か者である。たった一枚の写真に写っている故人に独りで振り回され、独りで傷つき、事実を知って更に傷つき、挙句の果てには泣いてしまう。死に方が気に食わないのか、その時代に生まれなかったことが悔しいのか、何が悲しいのか、それすら私には分からず、意味も分からず、ただ、泣いている。そんな私は誰よりも愚か者であり、堕落している。故人に恋をして、生者を誰一人として愛することが出来ず、ただただ愚かな人間である。

 心とは、文章とは、言葉とは、恐ろしいものである。暴力や、抱擁よりも、恐ろしい力である。一生心に残ってしまう。忘れられないこともある。直に感じる刺激よりも、私は精神の刺激が、矢張り、恐ろしい。

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野崎渚 @nozaki_nagisa

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