Day7 真鶴 歩く②
訪問日:11月2日
お林遊歩道から道を下り、また上がっていくと【ケープ真鶴】というお土産屋が出てきた。真鶴の広報も行っているらしい。入ってすぐ、右側には真鶴半島のジオラマと、真鶴の自然物の紹介コーナーがあった。さっき通ってきた「御林」の紹介もあった。
「大正時代の御林の様子 現在の御林の様子と全く異なることがよくわかる……えっ? わかんない……」
わかるのは当時はまだ整備されていなかったことくらいだ。こういうとき、誰かがいてくれたら、違う観点からお話しできるのだろうなあ。
貝殻が売っていた。お土産に……と思ったけれど渡す相手もいないし、おとなしくしらすせんべいだけ買って退散する。
土産屋を出て、あまびえのような石像を横目に、階段を下っていく。途中、外国の人が道いっぱいにカメラを構えていたのには思わず眉をひそめてしまう。オーバーツーリズムとまではいかないけれど、なんだかなと思う。
ともかく、階段を下っていくと、海岸についた。砂浜海岸ではなくて、岩石海岸だ。おびただしい数の丸石が散らばっている。そしてその視線の先に、それはある。
【三ツ石】
海の向こう、岩から岩へ、しめ縄のようなものが伸びている。片方の岩には鳥居らしきものも確認できる。よくわからないけれど、うかつに近づいてはいけないような雰囲気を醸し出している。もちろん、海があるので渡れないが、干潮時には渡れるらしい。
「初日の出とか、ここで見たら縁起よさそう」
三ツ石というくらいだから、もう一つ岩があるんだろう。……あっ、違うのか。右の岩、あれ二つ重なってるのか。
「へえ……」
ぶらぶら岩石海岸を歩く。一歩進めるたびに、ジャリリと礫岩が笑う。足元注意だ。
どうしようかな。まだ時間はあるけれど。
考えながら歩きつつ、あたりを見回すと。
「……あれ、なんだろう」
奥に道が見えた。向こうの海岸の方へ行けそうだ。
「あぶなっ」
岩石に気を付けながら、進む。どういう順番で、次どの岩に乗るか考えないと。
慎重に岩を進み、山に沿った舗装された道へ入る。海岸沿いを歩ける道。ここは道が整備されているので、岩を気にしなくてもいい。
途中、子ども達がかけっこをしていた。姉妹だろうか。会釈をしてきたので、私も会釈を返す。つい微笑む。
道の終わりのところの看板に、さっき山中でみた名前があった。
【番場浦海岸】
相変わらずの岩石海岸だ。
「あれは……?」
私は目を細めて、見つめる。
奥の崖、長方形に切り取られたような地形がある。不自然だ。
足元にほんとうに気をつけながら歩いていく。三ツ石がもう遠く見えた。
しばらくいくと、海がぐっと迫ってきた。岩石以外に潮にも気を付けなければ。どのタイミングで進むか、そしてより安全なルートはどちらか。この岩から次に行くべきはどれか……。
「……なにしてんだろ私」
もはやサバイバルだ。けれど、無理に飛び移って、足を踏み外しでもしたら死んでしまってもおかしくない。もちろんそれくらいの覚悟がなければこんなところには来れないけれど。
ふと、向こうから釣り人が来た。ということは、いけるのだ。それは安心材料になる。
少し行くと、さっきの「切り抜かれた地形」にたどり着いた。
「なんだろうこれ」
どうしよう、もと火葬場とかだったら……。
埼玉県に吉見百穴という場所がある。古墳時代の終わりころのお墓の在り方だが、それにも見える。
よく見ると近くにも、明らかに人の手によって加工されたような地形があった。なにか、要塞でもあったのだろうか。けれどそれにしては何も残っていない。海軍の施設とか? それも違いそうだ。
「怖いなぁ……」
自分の意志で来ておいてずいぶん勝手だ。
そこからまた少しすすむ。岩が青白い色から茶色っぽくなっていく。海鳥がたむろしていた。ついさっきまで海鳥がいたところに上る。
「あぁ、ここが最終地点か」
私たちには翼はない。無理をして海に落ちでもしたら帰れなくなる。引き際も大事だ。
伊豆半島がくっきり見える。最も伊豆に近づいた瞬間だった。
海岸を引き返し、子ども達がかけっこをしていた道へ。
ケープ真鶴からはけっこう階段を下ったので、またあれを上らなければならないのかと思うと億劫になる。
「あ」
しかし、幸いにしてもう一つ上り道を見つけた。
そして、階段を上った先のパーキングエリアで、さっきの地形の謎は解決した。
「はあー、採石場跡だったんだ」
看板によれば、真鶴半島では、良質な安山岩がとれるらしい。
さっきの番場浦海岸の不自然な地形もそういうことだったんだ。今は海岸での採石は行われていないようだ。
「おもしろいなあ」
神秘的な三ツ石と、人間の営み。自然は優しくないけれど、拒絶もしない。それが人間と違うところだと思う。
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