(☆)勇者のモノローグー愛しき人よー

 となりればすこやかにねむるあなたの姿すがた

 私はあなたがずっとしかった。

 あの日、出逢であった日からずっと。


 あなたは私を知らなかったけれど。

 それも悲しいとは思わなかった。

 むしろ好都合こうつごうだった。

 脆弱ぜいじゃくあわれな子供だった私などわすれて当然とうぜん


 もう幼い子供じゃない私を見てほしい。

 忘れられていたからこそ私は勇者ゆうしゃとして出逢えた。

 もう一度あなたと再会であえた。


――あなたにとって強くたよれる男でありたい。


 こんなに強く残酷ざんこくいびつになった私をひたかくして。

 あぁ、きたな大人おとなの私など見ないでください。

 ひた隠していたからあなたの勇者になれた。

 あなたのそばにいてもいい男として見てもらえた。


――あなたにとって優しく完璧かんぺきな夫と思われたい。


 隣を見ればすこやかに眠るあなたの姿。

 私はあなたがずっと欲しかった。

 あの日、出逢った日からずっと。


 あなたをこわがらせたくない。

 本当はめたい。

 あなたをおびえさせたくない。

 本当はいだきたい。

 あなたをかせたくはない。

 本当はかせたい。

 あなたを悲しませたくない。

 本当はあなたの全てを私のものにしたい。

 あなたにきらわれたくない。

 本当は嫌われてもにくまれてもそばにいられればいい。


――あなた以外、こころそこから全部どうだっていい。


 あなたと出逢えた。あなたの勇者になった。あなたをれた。あなたの夫になった。あなたの傍にいられる権利けんりを手に入れた。あなたに私の愛を伝える場所を手に入れた。あなたの傍で眠る立場を手に入れた。あなたは私のもの。


――あなたは私のもの。私の全てはあなたのもの。


 あぁ、いとおしい。今すぐそのあいらしい首筋くびすじみついてしまいたいほどに。今すぐその無防備むぼうびな体をらってしまいたいほどに。そして私の中に宿やどゆがんだ愛をあなたに全てらいくしてほしい。そのあまそうなくちびる口吻くちづけて、そのまとう服をいで、その胸元むなもとかぶりついて、そのやわらかなはだの全てに私の手をわせて、私の中にしたた劣情れつじょう情欲じょうよく情愛じょうあい、感情、欲望よくぼう、愛情の全てを熱とともにあなたの中にそそぎたい。

 あぁ、いけませんね。と思うのに、つい、あなたにびてしまう手が憎らしい。


――まぁ、私も健全けんぜんな大人の男ということですね。


 一人ひとりてるのはさびしすぎるから。今日はこの熱をうまくなだすかして眠ろう。初めての熱はあなたとともに感じたいから。初めての愛はあなたの中で感じたいから。


――私の理性りせい我慢がまん、いつまでつでしょうか……。


 困ったものだ。ゆっくりでいいと私が言ったのだから。それでもあなたがのぞんでくれるなら、私はいつでもいいということだけはあとつたえておこう。そしたらあなたはどんな顔をするかな。戸惑とまどうかもしれませんね。でも困った顔でうなずいてくれるでしょう。


――おやすみなさい、私のいとしき人よ……また明日あした


 隣を見ればすこやかに眠るあなたの姿。

 私はあなたがずっと欲しかった。

 あの日、出逢った日からずっと。


――あの森で出逢ったあの日から。

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