番外編 追放とギャンブル(月)
マネージャーである私、
私、大学生のアルバイトだし……。
でもマネージャーとしての評価に古典ができるかどうかは関係ないですよね!?
奏歌さんに勉強を教えてほしいと頼まれたけれど、古典は苦手科目と答えたらがっかりされてしまった。
落ち込むよ。私が悪いわけじゃなくても、目の前でがっかりされるのは胸に響くって……。
「あ、あの、元素記号の覚え方でしたら、私におすすめのものがあるんですけど!」
「いりません」
「……そ、そうですか」
「早瀬さんが平安時代で無価値なのはもうしょうがないんであきらめました」
「……くっ」
おかしくない?
なんで私だけ文明崩壊後とか平安時代での価値が問われているの? 現代で勝負させてくださいよ。
いやまあ、現代で戦ったら人気アイドルの奏歌さんに勝てないですけど……。
「わ、私は、高校時代はちゃんと真面目に授業受けてましたからね!!」
「……それで、なんですか?」
学生としては私のほうが上だった、とそんな気持ちである。
あのころは地下アイドルをやっていたので忙しかった。でも授業中は起きていたし、早弁もしていない。成績だっていいほうだったし!
「桜さんの高校時代のことは……いいんです」
「高校時代は私のものなんですが……」
「桜さんは制服に合いそうですね」
「スカートはいてましたけど……」
「…………」
奏歌さんが「余計なことを言うな、うるさい」とでも言わんばかりにじろりと見てくる。いや、女子だからね? 私だって女子高生だったんだからスカートくらいはいてましたよ?
まあスカートはかなくてもいい学校も最近はあるみたいだけど。
そういえば仕事中は私もスカートを一切はいていない。
「早瀬さんの話はしてませんけど」
「すみません」
「……スカートはくんですか」
「え、あの……天雨桜はスカートはきませんが」
「当たり前のこと言わないでください。早瀬さんの話です」
「……あ、私は、今でも大学では、たまに」
どっちの話かわからないって!!
いや、そういえば古典って主語が変わっているのわからなくて文章が理解できないことよくあったな。
昔の人はあれでもちゃんと伝わってたって本当? ややこしいから、どっちの話かちゃんと言ってくださいよ。
「ふぅん」
奏歌さんは私が内心で文句を言っているのを余所に、なんとも言えない表情で私を見ている。
……あれ、私ごときがスカートをはくことなってこと?
「早瀬さんがスカート。まさか仕事でもはくつもりじゃないですよね?」
「えっと、仕事では今後もはかないんで……」
「…………そうですか」
私の弁明が利いたのか、奏歌さんは向こうを向いてしまった。
怒られなかったのはいいけれど、私への興味そのものまで失わないでほしい。
「あーその……私は大学で国際系のことをやっているんですけど……奏歌さんは興味のある学部とか進学先って……あるんですか?」
って、人気アイドルの奏歌さんが進学先を考える必要あるのか?
文系とは言っていたけど……さすがに大学へ行くこともないだろうし……。
「国際系?」
私が質問に失敗したなと脳内で反省会をしていると、奏歌さんが意外にも私に興味を示した。いや、私と言うより国際系に興味があるのかな?
たしかに、国際系と聞いても、よく知らないとどんなことを勉強しているのかは謎である。まあ経済学部とか文学部って聞いても、私はなにを勉強するのかよくわからないけど。
「えっとですね、国際系は割と新しくできたことも多くて、大学によっても学部名がちょっとずつ違ったりするんですが……勉強することは――」
あれ、私ってなにを勉強しているんだ?
グローバルとか、文化比較とか、多様性とか、地域共生とかそんな聞き馴染みのない単語が講義では盛んに行き交っている。
でも具体的になにを勉強しているのか……私、自分が今勉強しているはずのことも説明できない!?
「えっと、文字通りですね……国際的な……そう、これからの時代、世界で活躍するために必要な人材を育てるといいますか……そういった学問でして……」
違うんですよ? 大学の講義って学部内でももっと細かく細分化されていて、講義事に全然学ぶ内容も違って……特に一年生の間なんていろんな基礎を薄く広く学ぶみたいな期間だから、はっきりとこれって言えないものだから。
私が真面目に大学行っていないわけじゃないですからね!? 社長、もっと仕事時間どうにかなりませんか!? 奏歌さんが人気アイドルで毎日仕事あるせいで、マネージャーの私は大学生活が危ういんですけど!!
「世界で活躍? ……早瀬さん、日本から消されるんですか?」
「え、いや、別に国外追放される予定はないですけど……」
「…………」
海外で働きたい願望もない。
どうしよう、正直言うと、地下アイドルの引退が決まってから慌てて進学先を決めたから、とりあえず大学の名前と就職実績とかで適当に選んでいた。
大学は将来のこと見据えて専門的なことを学ぶ場所、ってのが理想なんだろうけど……いや、世の大学生の大半はとりあえずで進学しているって……っ!!
私が特別に不真面目なわけじゃないから、そんな呆れた目で私を見ないでくださいよっ!!
「とにかく、今は奏歌さんのマネージャーとして精一杯がんばっていきたいと思っていますからねっ!!」
奏歌さんにマネージャーを追放されたくないので、私は無理矢理やる気だけでごまかすことにした。
マネージャーで大学生活が圧迫されている分、マネージャーを言い訳にしても許されるはずである。
「…………そうですか。日本、いられるといいですね」
「あははは、私は悪いこととかしないんで大丈夫ですよ~」
「ギャンブルとかって、海外だともっと自由にできるって聞いたことあります」
「え? ……そういえば」
もちろん、ギャンブルからは足を洗っている。特に、金銭を賭ける類いのギャンブルをする予定はなく――。
「……借金、まだあるんですよね? するんですか?」
「いやいやいや、しませんって! ギャンブルはしません!」
「ならいいですけど」
「ただ誤解を解きたいんですけど、ギャンブルは借金があるからするものですよ? マイナスを消すために、大きなプラスを目指す……それがギャンブルのだいご味でして……」
「……本当に日本から追い出されてないようにしてくださいね」
あ、あれ?
でも心配されていると言うことは、私はまだ必要とされているってことでいいのかな?
――だけど、そんな目で見ないでください!! ギャンブルは本当にしませんって!!
―――――――――――――――
最後まで読んでいただきありがとうございます。
本日、書籍発売しました!! ご機会ありましたら、なにとぞよろしくお願いいたします。
番外編はもうしばらく更新予定です。
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