第41話 嫌い
憧れていたからこそ、アイドルに戻ってもたらうためって覚悟していたけど。
早瀬さんは言いたいことがあっても、ヘラヘラするか、もじもじするだけ。
だから本心から、わたしのマネージャーなんて続けたいはずない。
わたしのことなんて!
「言えばいいじゃないですか」
言われたくなんてない。
憧れの人にお前なんて嫌いだって。
でもわたしは違う。本気で心の底から桜さんに憧れていた。桜さんをまたアイドルに戻そうって……だって、わたしはただのファンじゃなくて、非公式プロデューサーだから。
プロデューサーなら、アイドルに嫌われたって仕方ない。
アイドルのためなら、嫌われ役になるくらい、ノーダメだから。
「わたしに気でも遣っているつもりですか? もう十分です。うざいです。そうですね、早瀬さんはマネージャーを辞めたいわけじゃない。わたしのことが嫌いなわけじゃない。わかりましたから、それでもいいから。わたしがクビって言ったからそれでいいじゃないですか……もう……」
早瀬さんがあんまりにも分からず屋で。
「嫌いなら嫌いって言ってよっ! それとも嫌がらせ? 仕返しのつもり!? わたしがマネージャーやめろって言ったら、今度は続けてやろうって魂胆かっ!!」
わたしは思わず早瀬さんにつかみかかっていた。
初めて早瀬さんに会って、桜さんだって気づいたとき。
わたしは覚悟を決めた。
早瀬さんに、またアイドルに戻ってもらう。そのために、わたしはワガママの限りを尽くす嫌なアイドルになって、それで早瀬さんに自分はマネージャーじゃなくてアイドルに戻るべきだって気づかせるつもりだった。
だから一思いにクビにもしないで、ワガママ言いまくって、桜さんにも定期的になってもらって……またアイドルになりたいって思わせるよう、必死だったのに。
嫌われるのわかって、ずっとがんばってきたのに。
なんで、こいつは……。
「最後くらい……正直に気持ち言ってくださいよ、嘘つきっ」
「嘘つきって……それを言うなら、星原さんだって」
早瀬さんは、なにがおかしいのか笑った。
こいつ、本当に人のことバカにしている?
「星原さんこそ、最初から嘘ついてますよね」
「は? わたしがなんです! 性悪なの隠してアイドルやっているって言いたいんですか!?」
「星原さんは、私に、天雨桜に、またアイドルやってほしかったんですよね?」
「…………だったらっ!!」
「だから私に嫌がらせしてた……違いますか?」
なにを言って。
まさか、バレていた? そんなわけない!
「…………なっ、なんで……違いますよ」
「やっぱり、星原さん演技はもうちょっとなんとかしないとですよね……今度ドラマの撮影も決まったのに……」
怒りなのかなんなのかわからない感情で、沸騰しそうになる。
「嘘でしょ……それこそ……また嘘ついて……」
「星原さん、顔に出やすいんですよ。今もすごい真っ赤で……」
「適当言うなっ! 嘘つきは早瀬さんだっ!」
「まあ、私も嘘はつきますけど……」
白々しいまでに早瀬さんは優しげな表情だった。
「でも、嘘じゃないですよ。本心から、星原さんのマネージャーを続けたいと思っています。それに……星原さんのこと、嫌いじゃないですよ」
そう言いながら早瀬さんが、わたしを抱きしめてきた。
「信じてもらえませんか?」
「わっ! わたしは! 早瀬さんのことなんて嫌いです!」
反射的に押しのけようとするけど、腕に力が入らない。
「……まあ嫌われてもいいですよ? マネージャーの仕事は担当アイドルに好かれることじゃないですからね」
「これはなんだっ!! セクハラで訴えますよっ!!」
「それは困りますけど……」
言葉とは裏腹に、早瀬さんはわたしを離そうとしない。
「あ~……いや、これはその……私から星原さんに言うのどうなんだろうって思っていたんですけど。どうして記者の人にあんな写真撮られたかってわかります?」
「……どうしてって、ああいうのよくあるんじゃないですか。……ソロデビュー決まって今スキャンダル撮れたら話題になるから、とか」
話題にぶつける形で特ダネをつかんで記事にする。
自分で言うのもだけど、わたしも人気アイドルだし。
「それもありますけど……星原さん、最近仕事増やして、それもいろんなことに挑戦していたじゃないですか」
早瀬さんとの交換条件もあって、わたしは本当はもっと自分に自信を持てるような人間にってがんばっていた。
「評判、よかったんですよ。でもそれで、こんな急に星原さんが変わるから、変な噂が広がっていたみたいで……社長の知り合いの記者さんも『間違いなく男ができたと思って嗅ぎ回ってた』って話みたいで……」
「………………なんですか、それ」
知らなかった。
エゴサはするなって言われていたし、わたしもあんまり興味がなかったから世間からどう思われているのか直接調べたりはしていなかった。
でも、最近のわたしは、ファンや他の人たちからしても、ちゃんと変われていたらしい。成長しているって思われていたんだ。
「でも男ができたって……」
「あははは、安直ですよね。なんでも恋愛絡みされて……」
恋愛絡み。
記事に書かれていた『熱愛発覚』の文字を思い出す。
「実際は、そんなの全然検討外れで……単に私との交換条件で星原さんには無理矢理いろいろ仕事してもらっていたわけですが……」
早瀬さんはどこか気まずそうに、だけど照れているみたいにも見えた。
「だから嫌われても、交換条件でも。星原さんの力になれていたなら、もう少しだけマネージャーを続けたいって。星原さんのそばにいたいって思ったんです」
嫌われても、わたしのために。
「これが一番、私の正直な気持ちなんです」
バカだ。
早瀬さんなんていなくても、わたしは。
わたしは、早瀬さんがいなかったら、ずっとつまらない気持ちのまま言われる以上のことはがんばらないでアイドルを続けていたと思う。
もしかしたら、数年もしないうちにやめていたかもしれない。
「バカじゃん……わたしのことなんかより……」
それじゃあ、わたしがずっと早瀬さんにやっていた嫌がらせはなんだったんだ。そんなの、わたしの嫌われ損で……。
自分のやって来たことが無だったんだって思ったからだと思う。
泣けてきた。そうだ、それしかない。わたしが泣きそうなのは、あんなに一生懸命マネージャーを辞めさせようってしてきたのに、無意味だったからだ。
「なにも泣かなくても……嬉しかったですか?」
「うっ、嬉しくない! 早瀬さん大嫌いっ、辞めてほしかったんです……早瀬さんだって、そんなこといってわたしのこと嫌いでしょ!!」
「だから嫌いじゃないって……えっと、私は星原さんのこと好きですって」
「は?」
身の危険を感じたのか、背中にぞくりと初めての感覚が走った。
「好きって!! マネージャー続けるより意味わかんないんですけどっ!! 趣味悪っ!!」
「…………いや、星原さんの趣味もたいがい…………」
「桜さんは最高でしょ!! いつも自信に満ちあふれていて、誰よりも自分に正直な本物のアイドルですよ!! ギャンブルのことはよくわからないですけど、いつかデカいことやるって男のロマンがあって!!」
「えへへ、ありがとうございます」
「早瀬さんじゃないっ!!」
おどおどしているだけだった早瀬さんが、こんな調子に乗っている。ムカつく。だってそんな堂々とされたら……。
「わたしが憧れているのは桜さんですからねっ!!」
結局、わたしはこの日、早瀬さんをクビにできなかった。だって、ただクビにしたいわけじゃない。わたしは早瀬さんに、マネージャーになったこと……アイドルを引退したことを後悔してもらうまでは……マネージャーをさせるつもりだったから……。
それなのに……どうして……。
最悪だ。
最悪なのに、わたしはどこか安心していた。それがまた、最悪なんだ。早瀬さんも理解できないけど、自分のこの気持ちがなんなのかわからないでイライラしてくる。
なんなんだ、本当に!!
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