第32話 特殊詐欺
星原さんが納得していないみたいだから、もう少し丁寧に説明を試みる。
中学生になってからは、女子校に入って、今まで見たいな男子の趣味が一掃されてしまった。友達も話し合いでも完全に女子だけ。
そんなときに、私が一番興味を持ったのがアイドルだった。
小学生のころハマっていた特撮の戦隊ヒーローっぽかったからだろうか。
グループでかっこよく歌って踊るのが、とってもキラキラと輝いて見えた。
男性アイドルも女性アイドルも好きで、これは女の子の間でも変なことじゃなかった。だから私は安心してアイドルをどんどん好きになった。
「アイドルが好きで、私もなれたらなぁ~って軽い気持ちで……ほ、ほら、私ってビジュアルは――いや、星原さんと比べると……その大きい声では言えないですが、悪くはないほうかなぁって……それで、アイドルなっちゃおうかなぁって……」
地元か、なくても探せばもう少し近場にだってローカルアイドルのメンバー募集もあったと思う。
でも私は、どうせなら東京でって決めていた(これに関しては根拠も計算もないギャンブル思考未満だったと思う)。
それで休みに東京まで来てオーディションを受けた。
交通費だけで、貯めていたお小遣いをほとんど使った。
だからこれ一回で絶対に受かる、って意気込んでいた。事前の書類選考は通っていて、あとはこの面接で歌と踊りを見てもらって――……。
「そのときやっと気づいたんですよ。私、間違えて男性アイドルのオーディションを受けていたって。星原さんも知っての通り、メン地下アイドル……」
「………………そんなことあります?」
「いやいやいや! 私が悪いのはそうですよ。でも地下アイドルのオーディションってちょっとこう、しっかりした大手のものと比べるとけっこう雑というか……私だってちゃんと女子って応募書類に書いて……いや、そもそも男性アイドルのオーディションだから性別欄とかはなかったかも? でも顔写真は送って、それで書類は通って……」
中学生だった私は、まだそんなに一目で女の子ってほどではなかったかもしれない。
男子趣味好きの名残で、髪をあまり伸ばさないって抵抗をしていたのもあると思う。でも当時から計算高い私は、アイドルを目指す女の子は可愛い系が多いはずだから私はあえてちょっとボーイッシュなくらいのほうが受かるのでは? という無意味な計算までしていたのだ。
それが徒になったのか……間違われて……ボーイッシュじゃなくて、ボーイだと思われているって面接で気づいたけれど……。
「男装して、アイドルやるのはどうかって……それなら合格にするって言われて……」
「騙されてません?」
「…………騙されていたほうがよかったんですが、本当の本気だったみたいで」
そのとき面接をしてくれたのが、私のマネージャーになる人だった。
二十代前半くらいのお姉さん。元々男装とかそういうのが好きらしくて、私なら絶対上手くいくからやろうって――まさか、ほとんど独断でそんなことを決めてしまうなんて。ふわふわした感じの人だったのに、やることがおかしかった。
でも私は、また別のオーディションを受けに東京まで来るのは、金銭的に厳しかったし、男装はともかく……男子とのアイドルグループってのは、あのころ男子たちと遊んでいたみたいで、楽しそうだなって思ってしまったのだ。
実際、男装して――男子の仲間として彼らとのアイドル活動は楽しかった。女子の友人たちとはノリも会話の中身も全然違う。
私もその雰囲気に当てられたんだと思う。
昔みたいにカードゲームにのめり込んで、麻雀を始めた。グループメンバーと罰ゲームやお菓子を賭けて遊んだり。メダルゲームで競馬をして、実際の競馬や競艇もチェックするようになった。
ちなみに、親とは揉めた。
私が、急に高校は東京の学校に進学するって言い出したんだ。
勉強はできるほうだったから受験は大丈夫だったけど、一人暮らしは反対されたし、アイドルのことだって――それでも私は折れなくて、応援してくれたのは妹だけ。
家出して、一人で生きていく。
それくらいの勢いだった。最終的には、親は呆れながら了承してくれた。でも実際問題、未成年の私が保護者の――親の了承なしじゃなんにもできなかった。
家を借りることも、高校に入ることも、アイドルとして活動することも。
家出も一人で生きていくことも、できるわけがなかった。
「…………それで親にはいろいろ保護者として書類にサインしてもらったのでアイドルをやっていたってことは知ってはいると思いますけど、実際のどんな活動していたとかは一切知らせてないんですよね」
まあ男装してアイドルって……ちょっと親にどう思われるかわからなくて……反対されていなくても、ちゃんと話せていたかはわからない。「お前をこんな娘に育てた覚えはない」とか言われるやつだったと思う。ごめんなさい……。
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