第20話 朝食
「なんで早瀬さんがいるんですか」
「さっきからいたじゃないですか!?」
「…………わたしの優雅な朝食の席に、なんで早瀬さんがいるんですか」
顔を洗ってリビングに行くと、テーブルをかこう席の一つに早瀬さんが座っていた。
「よかったら朝食をどうぞと誘っていただきまして」
「はぁ……」
母の前で早瀬さんを追い出すわけにもいかない。
普段は口うるさいことはないけれど、マネージャーとして家に招かれた早瀬さんに横柄な態度を取ればたぶん怒られる。
「いただきます……」
用意された朝食を食べる。お腹が満たされれば、少しは気分も改善するはずだ。
無心で食べていると「あのぉ……」と早瀬さんが変な顔でこちらを見ているのに気づいた。食事中はあまり邪魔をされたくない。でも母が向こうでニコニコしている。
「……なんですか?」
「…………星原さん、さっき起きましたよね?」
「そうですけど」
「朝からすごくないですか。よくそんな……寝起きって普通、そんなに食べられないものですよね?」
早瀬さんの目が丸くなっていた。驚いているというか戸惑っているというか。
とにかく鼻につく。真剣にしていれば顔は桜さんと同じはずだけれど、どうしてこうも違うのかと呆れてくる。
もしかするとエネルギーが足りていないのか?
早瀬さんはまだ食パンを数口かじっただけだ。全然食べていない。
「早瀬さん、食事って生きるってことですよ」
「…………それは、そうですけど」
「食べられるときに食べられないって生物として負けてますよ」
「私はなにと戦わされているんですか!?」
はんっ、とつい鼻で笑ってしまう。
早瀬さんはもっとたくさん食べたほうがいい。だってそれが、やがて桜さんの血肉になるんだ。
「…………でも、星原さんより私のが背、高いですよね? 他にも……」
早瀬さんがトーストを持ったまま、なにか言いたげに視線を泳がせた。
「………………早瀬さん、言葉は慎重に選んでくださいね? わたしだって朝から運動はしたくないんで」
「運動ってなにする気ですか!?」
わたしは返事をせずに朝食の残りを口へ運んでいく。早瀬さんもこの分では全部は食べないだろうからと、残っていたものはもらった。
「あっ、そのトースト……」
「なんですか? まだ食べましたか?」
「い、いえ……その、すみません。朝はあんまり食べないので助かりましたけど」
「弱い。情けない」
起きて直ぐは一番エネルギーが必要なんだから、朝を一番しっかり食べるべきだ。
トーストの残りをもらって、ほぼ二人分の朝食をたいらげてしまった。さすがに食べ過ぎた? ……最近成長期だからか、別に苦しい感じはない。
お腹を軽くさすっていると、母と目が合う。
そうだった。早瀬さんの軟弱ぶりのせいで途中から母の前だということを忘れていた。この距離だし、聞こえていた……よね?
「…………あのっ、シャワー……浴びてくるんで……早瀬さんは、外で待っててください。すぐ行くんで」
寝起きだし、出かけるから、頭を冷やしてこよう。
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