音になる森

@yU-Nn

第1話 冬の番人

 この森には、毎年ひとりかふたり、迷い込んでくる人がいる。

 どこから来るのか、私にはわからない。ただひとつ確かなのは、彼らが皆「もう生きたくない」と思っていたということだ。


 私はその人たちを保護する役目を担っている。

 この小屋は森の入口近くに建てられた観測所のような場所で、外の世界とこの森を隔てる境界にある。窓の外は白い雪が絶え間なく降り続き、冬の間は昼も夜もほとんど変わらない光景が広がる。


 朝になれば扉と窓を点検し、壊れたところがないかを確かめる。湯を沸かし、猫の餌を用意し、薪をくべて火を絶やさぬようにする。あとは、ただ一日が終わるのを待つだけだ。


 この仕事に特別な意味はない。ただ、前任者から引き継いだだけの役目だ。

 かつて私もまた、迷い込んできた者のひとりだった。すべてを終わらせたいと願い、何も望まなくなっていたとき、前任者が私をここへ導き、仕事を託した。そしてその人はある晩、音となって消えた。


 この森では、死ぬことはできない。

 人は“音”となって世界に溶け、記憶や祈り、あるいは涙として残っていく。

 誰かの中に、どこかの空に、確かにその痕跡は響き続けるのだ。

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