第5話

 先に話し出したのは、私の方だった。

「これ……、ゲームに勝たないとここから出られないってことですかね?」

「まあ、勝ち負けと言う表現が適切かは分かりませんが……」

何だよコイツ!理屈っぽいなと思うが、いつもの癖で私は我慢してしまう。

「良い所、認め合うんですよね?それなら自己紹介っぽいことした方が良いですか?」

そう声を絞り出した次の瞬間、谷川がびっくりするようなことを言ってきた。

「あの……、羽島さんでしたっけ?少しよろしいですか?」

「はい……?」

「あなた、自分の気持ちに嘘ついてません?」

その瞬間、私は―、キレた。

「はあ!?何言ってんの?こっちが丁寧に、いや下手に出てりゃあ偉そうに!見た所アンタ絶対にコミュ力ないわよね?アンタみたいな陰キャがごちゃごちゃ言ってんじゃねえよ!」

これは普段の私なら絶対にあり得ない態度だ。一応私は昔から、中学、高校時代から、いわゆる陰キャと接する時も感情をコントロールしていた。もちろん、その裏ではネガティブな感情を山ほど持っていたけど。この閉鎖的な状況がそうさせるのかもしれないが、こんな風に人前で叫んだのは―、生まれて初めてかもしれない。

「失礼しました。私は人の感情には疎いのですが、数学科だけあって論理的な思考には自信があります」

 何この物言い?本当に謝ってる?私は二の句を継ぐ。

「それ本当に失礼だよ!謝るんならちゃんとしろよなこのオタクが!」

「失礼しました」

 谷川の発言には言いたいことが山ほどあるが、ここで私はふっと気づく。―私が「感情をコントロールしている」こと、どうしてこんなヤツに分かったのだろう?

「……で、何で分かったの?」

「気持ちに嘘をついている、と言う件ですか?」

「そうでしょそれ以外何があるの?」

「……それは私の論理的思考回路から来るものです。この状況、明らかに羽島さんにとって不利なものです。特に羽島さんは女性なので余計にでしょう。その割には声のトーンが一定です。よく『声の方が表情より感情が出る』とも言いますが今回はそれが如実に表れたケースだと推察しました。つまり自らの不安な感情をある意味殺して声を一定に保っている、すなわち自分の感情に嘘をついていると推察しました」

「……何か理屈っぽいね!でもアンタには関係ないでしょ!」

「確かに関係ありません。ただ私は不覚にもいわゆる『空気を読む』ことは苦手なのでいらないことでもよく話してしまいます」

 何だよコイツ!こんなヤツとはやっていけない。自分は頭が良いとでも思っているのだろうか?いやもしかして、内心で私みたいな人間を見下しているのかもしれない。

「ただ……、申しあげにくいですがここは私たち、協力しないと外には出られません」

―それもそうだった。どうすれば良いのだろう?協力するのも確かに嫌だが、それ以上にこの変な「ゲーム」を攻略する方法が思いつかない。これがテーマパークでよくある謎解きゲームなら楽しくプレイできるのだが、もちろん現実は甘くはない。

「その件に関して、提案があります」

「……何?話してみてよ」

コイツ、谷川はへんてこりんだが頭は良いのかもしれない。ここは谷川に従うべきだろうか?私が逡巡していると、谷川がこう言った。

「『良い所』を認めるために、お互いの成育歴を話しませんか?」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る