第22話 情報屋との命懸けの交渉と、独占権の取引
ロゼリアがシリルに賭ける決意をした夜。異界は、静寂の中にも、男たちの激しい嫉妬と警戒心が渦巻いていた。誰もが、ロゼリアがユリウスに次いで誰に依存するかを監視していた。
ロゼリアはユリウスに対し、シリルとの接触の可能性を告げた。ユリウスは、ロゼリアの生存本能が、自身の知識を最優先したことに満足し、即座に通信手段の構築に取り掛かった。
「元の世界との接続は、貴女の魔力を一瞬で膨大な情報として凝縮し、異界の壁を貫通させるしかない。一瞬で、座標と必要物資を伝えるだけだ。そして、一度きりの機会だ」
ユリウスが解析した数式を応用し、ロゼリアの魔力を極小の信号へと変換する魔導陣を、焚き火の灰の上に描き始めた。その間、ノアはロゼリアの体調管理に全力を注ぎ、ライナスは剣を構えて警戒し、エドガーは離れた場所で、ロゼリアの「秘密の会話」を憎々しげに見ていた。
(この男は、私の独占を邪魔することしか頭にない。だが、今は…帰還という最後の希望のため、利用するしかない)
ロゼリアの絆されたふりは、ユリウスだけでなく、他の三人の独占欲をも利用する、冷徹な生存戦略へと進化していた。
準備が整った。ロゼリアは、自身の魔力を通信に集中させた。ユリウスは、魔力信号が元の世界で**「特定の情報屋」**にしか解読できないよう、高度な暗号を施した。
「ロゼリア嬢。貴女の魔力を一気に解放しろ。全てを、「シリル・ジェットブラック」という名に向けて」
ロゼリアは、己の平穏を求める最後の力を振り絞った。アメジスト色の魔力が、周囲の異界の空気を震わせる。
「……シリル様。助けて……」
彼女の無意識の願いと、ユリウスの数式が重なり、ロゼリアの魔力は異界の壁を貫通し、一瞬の光となって元の世界へと消えた。
元の世界、王都の裏路地。シリル・ジェットブラックは、怪しげな酒場で高価な酒を傾けていた。彼の掌で光る、極小の魔力片。それは、ロゼリアからの暗号化されたSOS信号だった。
「ふふ……ロゼリア嬢。そして、王太子、騎士、侯爵の使用人、天才魔術師。まさか、世界を動かす五つの駒が、私の手のひらに落ちてくるとはね」
シリルは、ロゼリアの窮地を、「貴族社会を操る最高の機会」だと確信し、満面の笑みを浮かべた。彼は即座に、ユリウスが求めた「希少な魔導具」と「過去の実験データ」を、自身の情報ネットワークで探し始めた。
数時間後、ロゼリアたちの異界のキャンプに、ユリウスの魔導陣を通じて、シリルの声が音声信号として返ってきた。
「……ロゼリア嬢。連絡ありがとう。元気そうで何よりだ」
その声は、ロゼリアの耳には救いの音として、他の男たちの耳には最も危険な侵入者の声として響いた。
「シリル様…貴方は…」ロゼリアは震える声で言った。
「帰還に必要な情報と魔導具を、提供していただけますか」
「もちろん。私は、友人である貴女の危機を見過ごせない」
シリルの声は優しかったが、その内容は冷徹だった。
「しかし、対価は必要だ。私が求めるのは、金でも地位でもない。貴女の運命だ」
ロゼリアは息を呑んだ。
「この事件を解決した後、貴女は私の情報ネットワークの最高機密となり、私の指示に従って生きる。貴女の今後の人生における全ての選択、誰を愛し、誰を切り捨てるかの決定権を、私に委ねてもらう。それが、貴女が望む平穏の、唯一の交換条件だ」
シリルが求めたのは、ロゼリアの魂の独占だった。
ロゼリアは、四人の男たちの激しい視線を感じながらも、「殺されない」という究極の目標のために、決断を下した。
「……シリル様。私は、貴方の対価を受け入れます。私を、元の世界へ帰してください」
ロゼリアは、四人の男たちの独占から逃れるために、五人目の男の、最も狡猾な支配を受け入れた。その瞬間、異界のキャンプには、「ロゼリアの運命を奪われた」ことに対する、四人の男たちの激しい怒りが渦巻いた。
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