岸先生の地雷
ギャルに上履きで殴られた手が目の前の下着のように赤くなっていた。
僕は手をさすりつつ森山先輩の棚に視線を移す。そこには幽霊や心霊に関する本が山ほど置いてあった。別のスペースにはお札や日本人形、壺など心霊に関するグッズがたくさん置かれている。先輩は心霊に関するものが好きみたいだ。
「森山先輩はホラーが好きなんですか?」
「ほう、君も興味あるのかい?よし今度この学校の近くに心霊スポットの洞窟があるのだが、一緒に行こうじゃないか。・・・ほらここだよ」
僕の言葉を聞くと森山先輩はすぐに椅子から立ち上がり駆け足で僕に寄る。そのまま心霊の本を掲げて顔に押し付けてきた。本が顔に当たっていてまったく読めない。
第一印象はダウナーな感じがして落ち着きのある人だったが、心霊の事になると違うらしい。いつもより声に覇気がある。
「そうですね・・機会があれば」
「あまり行きたくないようだね。君に借りを作った後にまたお願いするとしようか」
先輩は察してくれたらしい。見た目はずっと年下に見えるのに言動はとても大人びて見える。大き目のカーディガンがそう思わせるのだろうか。
「そういえば、そのクリーム色のカーディガンあったかそうですね」
「ああ。私は寒がりでね。冬はいつもこのカーディガンを着ているんだ。君も着るかい?」
「いえ。僕暑がりなので大丈夫です。」
「そうか。今度同じものを持ってこようと思ったのに」
先輩は椅子に戻り心霊の本を再び読み始めた。先輩は一つ大きめの制服を着ているようで袖を折り曲げている。そこもかわいらしい。
先輩と出かけるのはやぶさかではないが正直ホラーは苦手だ。先輩に借りが出来た日には頑張ってついて行こう。
よし。次は反対側の棚を確認するか。僕は反対側の壁に移動して棚を確認すると棚には西宮と名前が書いてあった。気が進まないがギャルの棚も一応確認しておかなければ。
ギャルの棚には口紅や香水、メイクに使うブラシなどが大量に置いてあった。さらには神崎部長を思わせるような黒髪の長いウィッグなどもあった。それにしてもいつ使うんだこれ?
「西宮さん。この黒髪のウィッグはいつ使うんですか?」
「あーそれ。入学式は一応それつけてたのよ。でもこの学校髪色にそこまでうるさく言われないから三日目にはそれをつけずに学校にいったわ。で、今もたまに変装用で使っているの」
「変装用とは?」
「放課後先生に呼び出されたときはそれ被って帰ってんの」
ギャルは手元で呼んでいた本を置いて、不満そうに答えた。さすがのギャルも入学式は黒髪で行ったというか変装して黒髪にしたらしい。実際この学校の生徒の髪色については言及されてはいない。髪を染めている生徒もちらほらいる。
改めてウィッグを観察するしてみる。あれ?ウィッグの先端にところどころ血がついている。血のりを床にばら撒いたりしたときについてしまったのだろうか。一応気にしておこう。
ウィッグの隣にはあまり有名でないミステリー小説が数冊置かれていた。彼女が今読んでいる本もミステリー小説で難解な事で有名な作品である。意外な事にミステリーは好きなようだ。他に気になることは・・
「西宮さんは左利きなんですか?」
「そうよ。何か文句あんの?」
「いえ。気になっただけです」
ページをめくるのに左手を使っていたのでそうなのかなと思ったが、当たっていた。なんか探偵らしいことをしている気がする。
ギャルの意外な一面も知れたところで次は岸先生の棚を確認しよう。
岸先生の棚には5kgのダンベルが三つとライトノベルとアニメのキャラであろう白髪のイケメンのグッズが大量に置いてあった。いくらなんでも私物がすぎるのではないか?
「先生。このダンベルは?」
「それは。物理の授業で使うためのもの」
「そうなんですね。・・・ライトノベル好きなんですか?」
「うん。休みの日とかずっと読んでる・・」
「隣のアニメのキャラは誰なんですか?すみません。アニメはあまり見ないもので・・・って先生?」
返事が無かったので先生のほうを見ると、勢いよく立ち上がりゆっくりと僕に近づいてきた。
あれ?なんか怒ってる?
先生は僕のそばまで来ると僕の顔を両手で掴んで無理やり顔を近づけた。間近で見ると迫力がすごい。
「この方はVtuberの「千堂 昴」といってね。私の推しで私のすべてなの。給料の半分は昴様に捧げているわ。・・・ねえ。覚えた?昴様よ・・言ってみて」
「はい・・昴様最高」
「よし。忘れないで・・」
先生はそのまま自分の席に戻っていった。意図しない内にとんでもない地雷を踏んでしまったらしい。死ぬかと思った。なぜ一日に二回も死を覚悟しないといけないのか。
すると、森山先輩が近づいてきてそっと耳打ちをしてきた。
「先生の前で昴様の話題はなるべくしないほうがいい。千歳が初めて昴様のグッズを見たときに「何このキャラだっさ」と言ってね。その後に泣くまで昴様の良さについて語られたらしい」
「ありがとうございます。気を付けます」
それにしてもギャルが泣くまで説教されるとは。とても見てみたかった。視線をギャルに移すと、ものすごい形相で僕を睨んでいた。僕は慌てて目を反らす。まさか今の話聞こえてないよな?
よし。あらかた棚は調べ終えたな。
「ふー。後は・・」
周りを見渡すと、制服を着た男女のマネキンとガラクタがたくさん入った段ボールくらいか。マネキンについて部長に聞いてみよう。マネキンが着ている女子制服は少し小さめのサイズのようだ。
「この制服を着たマネキンはどうしたんですか?」
「ああ。新入生用のパンフレットの撮影で使用したものだよ。カメラマンがやけにいろいろなポーズをさせてきてね。これはその時の写真だが見るか?」
部長は段ボールの中から封筒を取り出し僕に手渡す。中を開けると制服姿の部長がプールをバックにポーズを取っている写真が見えた。
「まあ。一応。証拠品としてもらって預からせてもらいます」
三人の視線が刺さるが、それに動じる僕ではない。僕は封筒を大事に制服の胸ポケットにしまった。
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