第28話 いわゆる、学校裏サイトってやつだな
バイトとオタ活に明け暮れた夏休みも終わり、今日からはいつもの学校生活が帰ってくる。
だが教室に一歩足を踏み入れると、そこに流れる空気は、俺の知るものとは明らかに異なっていた──。
夏休みという期間は往々にして、人間関係に異質な影響を及ぼすらしい。
たとえば、クラスメイトとの旅行イベント。誰ちゃんは誘われて、誰ちゃんは誘われていない、誰くんが告白をして、誰さんが振った──校内イベントとは違い、第三者の目が届かない所で、新たに友情が深まったり、あるいは壊れたり。夏休みが明ける頃には、その関係性は、もはや原型を留めていないことさえあり得るのだ。
しかし奇妙なことに。
この異質な空気はどうやら、俺を中心に流れているようだった。
──天宮星波。
──くそっ、なんであんな陰キャが。
──俺は絶対認めねーぞ。
──あぁ、何か裏があるに決まってる。
今まで話したこともないクラスメイトたちが、俺を横目に見ては、コソコソと、コソコソと。
別に陰口自体は珍しくもない。俺が嫌われ者なのは元々だし、残念クソオタクという蔑称もある。でも……今はその悪意に、羨望が含まれている気がする。いったいなぜ?
「おい天宮!!!」
「うわっ。……なんだよ、大きな声で」
「お前夏休みにいったい何があったんだよ!?」
俺が席に着いた途端、挨拶もなしに捲し立てる中村。唾がかかるほど顔が近いので、俺は椅子ごと後ずさりする
「何って、こっちが聞きたいよ」
俺は声を潜めて返答する。中村とのやり取りなんて、いつもは冷ややかに見られる程度だが、今朝は皆が聞き耳を立てている。軽率な発言はできない。
だがもちろん、中村にそんな気遣いができるはずもなく。むしろさらに語気を強めた。
「とぼけるなよ! ここ数日、学校ゴシップ界隈はお前の話で持ち切りだぞ???」
「胡散臭い響きの界隈だな……」
「ほら、見ろ!」
「えっ? ……!?」
それは掲示板のようなサイトだった。
そこには、俺が真夏と観覧車に乗り込む写真と、ズラッと並ぶコメントが。
【誰これ? 真夏ちゃんの彼氏?】
【天宮星波じゃね。入学式で教師に呼び出し食らってたキモオタ】
【うわぁ、サイアク】
【さすがに付き合ってることはなくね? そもそも涼川真夏って、男の誘いは全部断るって話だろ】
【もしかして弱み握られてるとか?】
【ありえる。あのキモオタ、性根腐った顔してるし】
ネットの海に流される無責任な侮辱に、さすがの俺も怒りが湧いてくる。
性根が腐っているのは、盗撮写真をSNS上でやいのやいの言ってるお前らだろ……!
「これ、何?」
「いわゆる、学校裏サイトってやつだな。大きな声では言えないが」
「ならでかい声を出すな。……そんな趣味悪いサイトあるのかよ、うちの高校」
「どこでもあるだろ。あっ、言っておくが俺は書き込んでないぞ」
「だろうな」
こいつは文句があれば直接言ってくるだろうし。
さらに画面をスクロールすると、今度は別の写真が貼られていた。
【悲報。天宮星波、別の女とラブラブ相合傘】
【まじじゃん。隣にいるの誰?】
【一年の白水いのり】
【可愛い……羨まけしからん】
【そういえばこの前、天宮星波と海原副会長が仲良さげに生徒会室から出てきてたぞ】
【三股ってこと???】
【あるいは3人の弱みを握ってるとか】
【間違いない】
「……酷い言われようだな」
「悪意を吐き出して気持ちよくなる場所だからな。痰壺みたいなもんだ」
「なるほど」
痰壺の中身を不特定多数の人間にぶちまけるのがSNS社会か……嫌な世界だ。
「それにしても、最近AI生成って優秀なんだな」
「はい?」
「この写真とか、本当に天宮と真夏さんがデートしてるみたいじぇねえか」
「いやAIの写真では──」
「いいや俺は認めない! 認めたくない!!!」
突然立ち上がる中村に、クラスメイトがドン引きをしている。俺だって、こいつが友だちとは認めたくない。
「高嶺の花の双子姉妹は言わずもがな、いのりちゃんだって新入生の中では5本の指に入る美少女だぞ!?」
「は、はぁ」
「海原さんも、校内メガネフェチ界隈とドM界隈からの需要は天井知らずだし──お前ばかりモテ気なんてずるい!!!」
中村の鼻息が直撃したので、俺はさらに椅子を下げる。
いのりってそんな有名人だったのか。たしかに可愛い顔はしてるけど。……そして妙な界隈に好かれている海原さんが可哀そう。やめてあげて欲しい。
「別にモテてないし、お前は早く宿題をしろ。どうせ終わってないんだろ?」
「まだ時間はある。各教科、最初の授業が締め切りだ。」
「そうですかそうですか」
普通に今日、午後から授業あるけどな。
「おいお前らー。早く席に着けー」
うちの担任がカツカツとハイヒールを鳴らし、パンパンと手を叩くと。立っていたクラスメイトも、慌てて自席に戻る。
数秒後の教室は、さっきまでの喧騒が嘘のように、静まり返っていた。
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