第17話 お互いの利益
グレイウルフ11頭の群れには野営用の小屋を分解したまま楯にし、楯の間に突っ込んで来るグレイウルフを突き刺し、盾にした壁を飛び越えれば剣で叩き斬る。
怯んだウルフにボルドが矢を打ち込むと、不利と悟ったグレイウルフが背を向けて逃げ出した。
あっという間に五頭を倒し、死にきれずに藻掻く二頭の止めを刺している。
「どうだレオン、少しは早くなっただろう」
「魔力の使用はどうですか?」
「うむ、少し少なくなっている気がするが、教わってから四日目だぞ」
「レオン、お前のシールドはどんな物だ」
「俺のはドームの天井が無い物で、高さが3m程度です。それよりもボルドさんのシールドを少し変えれば、一発で作れますよ」
「あれをか?」
「どうするんだ?」
「円筒状にすれば一つの魔法として作れます。ゆっくりと作って見本をお見せしますね」
グレイウルフのお片付けが終わったシールドの前を開けてもらい〔リング!〕と呟く。
地面から直径3m程のリングが土埃を巻き上げながらゆっくりと立ち上がり、3m程の高さで一度止めてみせる。
その状態で出入り口を作り外に出ると、ボルドが防壁の外を指で突いている。
「これはボルドさん用に作ってみた物ですが、高さは必要に応じて変えられますし大きさも同じです」
「こんなに大きな物を一発で作れるのか?」
「作れますよ、ドームもこれも同じ魔力量ですから。一度作ってしまえば出入り口や攻撃用の穴も魔力を使わずに作れます」
「攻撃用の穴?」
見本に作ったシールドの中に入ってもらい、指で突いて穴を開ける所をボルドに見てもらう。
「これを魔力を使わずに作っているのか?」
「ボルドさんの作ったシールドで、試してみれば判りますよ」
「ボルド、やってみろよ。出来るのなら今よりも安全に討伐が出来るぞ」
ボルドが皆にやってみろとおされて、表の氷のシールドの前に立つ。
「シールドに指を当て、此処に穴を開けろと考えれば良いのです。その時に穴の大きさも同時に考えてないと駄目ですよ」
「穴か・・・」シールドに慎重に指を当てると〔拳大の穴を開けろ〕と命じる。
シールドの立ち上がりと同じ程度の速さで穴が開いた。
「オー、凄え」
「それで魔力を使ってないのか?」
「ああ、魔力は流していない」
「お前は良くこんな事まで知っているな」
「母さんの・・・お婆さんが魔法使いで、母さんに色々と話てくれていたそうです。残念ながら魔法を授からなかったのですが、俺が九才で生活魔法が発現し魔力が28と判ったときに、聞いていた話を俺に教えてくれたのです。一度作った物は、作った本人なら作り替えるのに魔力は要らないってね。必要なくなれば魔力を抜けば消滅するとも」
「ん、氷が溶けるのを待たなくても良いのか」
「そのシールドに向かって、魔力の解放と言って見て下さい。なれれば解放と思うだけで消滅させられますし、穴だって開けたり閉じたり出来ますよ。俺のドームはそうやって出入りしていますので」
短縮詠唱すら必要ないことと、言葉に出して命令する必要がない事を言っているのに気づくかな。
氷結魔法の強化と使い易さ、後はアイスランスの魔力の使用量を減らす事を、今回誘ってくれたお礼としておこう。
森での行動の基本と野営の心得、一人の時では出来ない大型野獣討伐の方法。
気配を消す木化けの要領や、短槍と弓の基本的な事と得ることが大きかったからな。
それにギルドで小僧の俺に対しても侮ることをせず、俺から吸収出来ることに貪欲だ。
一緒に行動していても、仲間の能力や他のパーティーの事も口にしないのも気に入った。
* * * * * * *
結局十日近く森にいて、獲物もたっぷり獲れたのでロクサーヌに戻ることになった。
街の入場門でチラリと見れば、オルガはゴールドカードで、他は全員シルバーカードじゃないの。
どおりで皆腕が良い訳で、素人同然の俺のお守りは大変だっただろうと感謝。
混み合うギルドの解体場に並んでいると「ガキは後ろに並べ!」と怒鳴られた。
振り向けば傷だらけのご面相と目付きの悪い男が、俺の襟を掴もうと腕を伸ばしているところだった。
伸ばされた腕を避けると、空いた場所に男達が踏み込み俺の場所がなくなる。
「あのー、俺が並んでいた場所を取らないでください」
「あんー、お前はしょぼい風魔法使いだろうが」
「たしかそよ風とか言われていたな」
「小物や鳥で稼いで大きな顔をしてるが、ここでは大物狩りが出来なきゃ・・・」
「俺達の連れになんの用だ」
オルガの冷たい声とぞわりとした感触に、俺を馬鹿にしていた男達の声が止まった。
「剛力の・・・あんた達の連れって?」
「十日ほど一緒に森に入っていたが、中々の大物を一人で討伐する腕だぞ」
「若くて優男だと舐めてかかると大怪我をするぞ」
「煩いから解体場が空くまでエールでも飲んでいろ」
「それとも俺達と遣り合うか」
森では感じなかった感触に、これが殺気といわれるものかと冷や汗が流れる。
俺に難癖を付けてきた男達も同じなのか、額から汗を流して後退るとそそくさと解体場から逃げ出した。
同時にぞわりとした感触が消えた。
「恐いですねぇ。どうやったんですか?」
「何をだ?」
「今の感覚ですよ」
「あれは所謂殺気を叩き付けただけだ。面倒事を避けるためにこちらの力量を示すのさ」
「今まで一番強敵だった野獣と対峙して、討伐した時の覚悟と気迫を相手に向けるのさ」
「そんな簡単な事であれですか」
「まっ、レオンじゃ未だ未だ無理だな」
「相手が似たような腕だと、中々通用しないぞ」
「お前なら、そよ風で鼻でも擽りクシャミを止まらなくしてやれば、喧嘩を売る暇がなくなるさ」
「俺はそっちの方が良さそうですね。万が一模擬戦を挑まれたら、御免なさいをして街から逃げ出します」
「いやいや、お前なら街の外で待ち伏せをして、くるくる回して鼻血だらけにしてポイだろう」
「だな、レオンならやりかねんからなぁ」
なにか酷い言われような気もするが、考えたら負け! と忘れることにした。
俺達の番になり、俺とオルガさん達は別だと言って隣りどうしに並べたが、最後にブラックベアとホーンボアの特大の奴をボルドの礼だと言って並べられた。
まぁオルガさん達の並べた方も、ブラウンベアやブラックベア、ウルフ各種にハイオーク等を並べると、俺達の後に並んでいた者達からも感嘆の声が漏れている。
ギルドカードを預けて食堂に行き、久し振りのエールに皆顔が綻んでいる。
「レオンはどうするんだ?」
「小屋が欲しいので、鳥さん相手に稼ごうと思います。後30枚も有れば、オルガさん達の持っている物なら買えそうですし」
「お前なら直ぐに手に入るさ」
「俺もお前に負けないように練習に励むか」
「ボルドのシールドは随分早く立ち上がるし、アイスランスの威力も相当なもので戦力アップになったな」
「小屋を作ったら見せてくれよ」
解体係が査定用紙を持ってきてくれたが、今回はオルガ達と一緒で十日近く森にいたので金額が凄いことになっている。
チキチキバード、13羽×66,000=858,000ダーラ。
ランナーバード、17羽×42,000=714,000ダーラ。
グリンバード、11羽×29,000=319,000ダーラ。
レッドチキン、22羽×26,000=572,000ダーラ。
ブラックベア、1頭 270,000ダーラ。 1,814,000
ビッグホーンボア、1頭 95,000ダーラ。 1,684,000
ホーンボア、中1頭 55,000ダーラ
ハイオーク、5頭×110,000=550,000ダーラ。
オーク、7頭×60,000=420,000ダーラ。
ビッグエルク、1頭 130,000ダーラ
グレイウルフ、7頭×42,000=294,000ダーラ。
合計4,277,000ダーラ、鳥さんだけで2,463,000ダーラもある。
訓練がてらとはいえ、森の奥には鳥さんも多くて稼げると判ったが、俺は森との境界辺りを彷徨く方が気楽で良いかな。
解体係に礼を言うと「レオンに頼みが有る。依頼掲示板にも貼りだして有るが、チキチキバードを後20羽ばかり獲ってきてくれないか」
「20羽もですか?」
「ああ、侯爵様からの依頼で三月中には50羽欲しいと言われているんだ。お前が今まで持ち込んだ物と、他の奴からの買い取りだけでは足りないんだ。晩餐会用に必要だとよ」
晩餐会って、侯爵様の晩餐会なら大量に必要って事か。
直接依頼でないのなら、依頼を受けずに適当に狩ってくれば良いか。
「数は約束出来ませんが、なるべく探してみます」
「おお、高く買い上げるので頼んだぞ」
「お前は鳥だけで十分食っていけるな」
「楽して稼ぐとは、冒険者の理想だぞ」
「そろそろ俺達にも、侯爵様から護衛依頼が来るんじゃないのか?」
「好き勝手に動けないし、断りにくい相手だからなぁ。まっ、街に居れば受けるが、春は奴らの稼ぎ時だし、受けていれば何かと都合が良いからな」
「侯爵様の依頼なの?」
「おお、薬草採取の護衛だ」
「侯爵家の依頼で、薬草採取の得意な奴らが森の奥へ採取に行く護衛だ」
「行けば一月以上は掛かるし、春は子連れの野獣の気が荒くてよ」
野営用の小屋が出来たら見せろと言うオルガ達に手を振り、精算カウンターで端数の77,000ダーラだけを受け取り4,200,000ダーラはギルドに預けておく。
これで預け入れ分と合わせて8,000,000ダーラ少々の蓄えが出来た。
ランク5-10のマジックバッグが7,000,000ダーラなので、もう少し貯めてから買いに行くことにした。
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