第9話 血煙の掟
依頼を受けたら居ない。
失せ物と同じで探しているときは見つからないが、諦めたらひょっこりと見つかる。
まっ、その分ホーンラビットやヘッジホッグに、ホーンボアやエルクなんてのが結構獲れた。
時々襲って来るホーンドッグやファングドッグにカリオンも混ざるが、チキチキバードとランナーバードは数羽のみだ。
ゴブリンの群れにも時々出会すので、内陣改め〔リング!〕に閉じ込めてから上下に分離した後で、隙間から矢を射込むことにした。
「チキチキバードもランナーバードも居ないなぁ」
「一人の時はこの辺りで狩りをする事が多かったのですが・・・」
「それだ! もっと早く言えよ。あんな面白い狩りの方法で獲りまくったら、獲物が少なくてなって当然だぞ」
「ああ、話を聞いても俺達には見えないし、飛んでいる鳥がいきなり落ちてくるんだからな。明日からは狩り場を移動するぞ!」
* * * * * * *
解体場で獲物を並べていると、サブマスが来て依頼の鳥が少ないので渋い顔になっている。
「最近少ないがもう少し何とかならんか」
「サブマス、何時も同じ所で狩っていたので数が減ったようですぜ」
「明日は狩り場を変えるので、増えるんじゃないかな。多分」
「多分か、何せ依頼を受けたと知ったら毎日来て、取り合いになっているんだ」
* * * * * * *
いつもの場所よりも少し西に下がった所に移動すると、結構気配はするしチキチキバードの鳴き声も聞こえる。
「ちょっと遠いな。近場の奴を追いたてるか」
「気配は有りますが、どの鳥かは判りませんよ」
「そんなの俺にも判らんぞ」
「追い出せば判るさ。何時もの手順でやるぞ」
藪の左右でミンツとスコットが弓を構えて頷くので、マジックポーチから石ころを4、5個掴んで縦回転のドーナツ改め〔リング縦回転!〕を作り、内側に石ころを放り込む。
輪の中で回転する石ころが下に来るタイミングを見計らい、保持している空気の膜を解除すると藪に向かって石が飛んで行き〈バシーン〉〈ドスッ〉〈バキッ〉と凄まじい音を立てる。
「出たぞ!」
「ランナーバード貰い」
「俺の方はヘッジホッグだが、もう一匹居たはずだぞ」
藪の中を覗くと、少し小さいランナーバードが倒れていた。
「ランナーバードの雌に石が当たったようです」
「よーし、次はチキチキバードの声がした方へ行こうぜ」
「こんなに居るとはなぁ。この方面は初めてか?」
「はい、行き帰りに時間が掛かるので来ていませんでした」
「ランナーバードやチキチキバードを、ホイホイ狩れる奴はいないぞ。パーティーで狙って獲ろうとすれば、一羽や二羽では割に合わないので狙わないからな」
* * * * * * *
「鳴き声からこの方向に違いないと思うんだが・・・」
「ですね。鳥だけだと気配が薄いので探しづらいですよ」
大きく張り出した木の枝を確認していると、ミンツが誰かやって来ると警告してきた。
チキチキバードを探すのを止めて索敵に切り替えると、真っ直ぐに俺達の方へやってくる集団がいる。
「〔血煙〕の連中だ。レオン後ろに回れ、防御は頼んだぞ」
「血煙って?」
「〔血煙の掟〕ってパーティーで、森の奥へ行っている連中だ。月に2、3度しかギルドに顔を出さない奴等で、腕は良いが気難しいと噂の連中だ。余り関わりたくない奴等でもある」
「サイモンって赤毛の火魔法使いに気を付けろ。気まぐれにファイヤーボールを射ち込んでくるとの噂だ」
「訴えは何度か出たが、証拠を残さないらしい。奴等に出会ったら気を付けろと言われている」
俺達は草原が稼ぎの場なので会わなかったが、何故か真っ直ぐ俺達の方に向かって来る。
「ライナスに戻るには少し方向がズレていますね」
「噂だけなら良いのだが、俺達の方に真っ直ぐ来ている。ここで避けて通れば難癖を付けられそうだ」
「俺達のような弱小に用はないはずだが、甚振る気なのかな」
確かに、真っ直ぐ俺達から目を逸らさずに向かって来ているし、何となく薄ら寒い雰囲気に背筋が冷たくなる。
小僧の俺を含む三人に恐れる風もなく近づいて来て立ち止まる。
包囲体勢を取る訳ではないが間合いはきっちりと開けていて、じろじろと見てくる。
「小僧を含む三人組で、最近稼ぎが良くなったと噂だな。どうやって指名依頼を受けたんだ」
「依頼掲示板を見たのなら知っているだろう。指名を受けたければ、依頼掲示板の獲物を狩れば良いだけだが」
「俺達に、ランナーバードやチキチキバードなんかをチマチマと狩れと言うのかよ」
「こんな小僧がトラヴィス商会の指名依頼を受けるには、それなりの繋がりが有るはずだ」
「マークス商店も同じように小僧を指名しているし、噂では領主もお前のことを気にしているそうだな」
「あのー、ひょっとして、豪商や貴族の後ろ盾が欲しいのですか」
「まぁ豪商の後ろ盾は魅力だな。それよりも、豪商や貴族が気に掛けるのはお前の風魔法の事だと睨んでいる」
「噂では、変わった風魔法を使うらしいじゃねえか」
「手加減なしの手合わせをしてみたくてなぁ」
「草原でちまちま小銭を稼ぐ程度の魔法ですよ。勘弁してくださいよ」
「それにしては、俺達を全然恐れていないようだが」
その瞬間ミンツに斬りかかるが、ミンツが後ろに下がって躱せば返す刀でスコットに突きを入れる。
「冗談は、止めろよな。貴族のお抱えになりたいのなら紹介してやろうか」
「ふん。お前達は伯爵の騎士団に居たが、役立たずで放り出された口だろう」
おいおい、戦闘狂の集団かよ。
剣を収めて下がったが。奴等の後ろにいる赤毛の男が何やらぶつくさ言っている。
本気ではないが斬りかかってきたし、魔法を使うようなら手加減しない方が良さそうだ。
この間合いで防壁のリングが一瞬でも遅れたら、火達磨になるか爆風で吹き飛ばされるのかな。
怪我をしたくないので保険を掛けておく事にした。
俺達に掌を向けてファイヤーボールが浮かんだ瞬間、奴の足元に置いていた圧縮したボウルの魔力を抜いた。
〈バスン〉と圧縮されていた空気が破裂して男が後方によろめいたが、驚いているだけのようで、威力が今一かな。
巻き添えで他の奴らの体勢が崩れたのでリングを作ったが、無色透明で風の音だけがヒュンヒュンと響いている。
跳ね起きて剣を手に斬り込んで来たが、濃厚な空気の渦に振り下ろした剣が流されて体勢を崩している。
「レオン、今のはどうやったんだ?」
「この防壁を小さく押し縮めていたのを解放したようなものですね」
「ほう、大したものだな」
「もう遠慮しなくて良いので、投げ跳ばしてしまえ」
後腐れなくするのにそれが最良なので、一番後ろに居る火魔法使いから竜巻で投げ上げると、防壁を攻撃していた五人の手が緩んだ。
こいつ等は状況判断が速そうなので、のんびりと竜巻で一人ずつ飛ばしていては逃げられそうだ。
〔つむじ風!〕〔つむじ風!〕と連続してつむじ風で包み逃げられなくして・・・目が回ったのか座り込んでいるところを竜巻に変換して、森の上に高く吹き上げてバイバイだ。
「いやー、何時見ても鮮やかだねぇ。後片付けも必要ないし助かるよ」
「さっきの話、御領主様の騎士団にいたのですか?」
「おお、巣立ちの後仕事が無かったので、警備隊の募集に応じたのさ。俺は剣の腕が良くて騎士団に入れられたが、これがつまらんのだよ」
「決まった時間に起きて点呼、食事、訓練と代わり映えしない日々で、しかも給金が安いときた」
「で、気の合った者達で騎士団を辞めて冒険者になったのさ。女房子供が居るので日帰り仕事となれば、薬草採取に時々小物を討伐の日々だな」
「マルコも御領主様の所に居たの?」
「あいつはドッグ系やウルフに襲われた時ように、群れを散らす為に雇った」
「対人戦の訓練はたっぷりとしたが、野獣の群れに襲われると怪我をしかねないからな。それを、あの糞馬鹿が!」
やはり奴は、音だけの鹿威しの役目だったのか。
邪魔がはいったお陰で、チキチキバードが一羽しか獲れなかった。
俺がチキチキバードの止まっている枝を風で揺らして飛び立たせた後、空気のボールで包んで一気に膨らませると、中の空気が薄くなり飛べなくなるのと酸欠で墜落する。
それを拾って首を捻り、マジックポーチにポイと入れるのを見て、ミンツもスコットも首を振っている。
まぁ空気、動いている風が見えなければ出来ない芸当だし、魔法使いのイメージとは程遠いので笑って誤魔化しておく。
* * * * * * *
一週間程で依頼のランナーバードとチキチキバードをギルドに収めて、依頼料を受け取る。
ミンツとスコットの二人は獲物を等分に分けた分は受け取ったが、依頼を受けたのは俺一人なので依頼料はお前の物だと断られた。
依頼の仕事が終わったので次の日は休みをもらい、訓練のために街の外にでる。
今回は目立つ魔法の練習ではないので、西門を出て少し離れた草原の窪地に座り込む。
空中に直径3mほどの風船を作り圧縮すると、追加の魔力を込めて少し離れた所に放置する。
同じ物をもう一つ作り、少し離れた地面に転がしてから魔力を抜くと〈バスン〉とタイヤのバーストのような音がして周囲の草が激しく揺れた。
大型トラックのタイヤがバーストした映像では〈ドン〉と音がして、人がショック死しかねないと説明していたが、あれは一定方向へ圧縮された空気が吹き出したからだろう。
3mの風船を拳大に圧縮して何気圧になるのか知らないが、もう少し大きな風船を圧縮した方が良さそうだ。
色々と試したが、近距離では直径4m程度の風船を拳大に圧縮する事に決めた。
少し離れた所の相手には、直径7、8mの風船に決めたが状況次第なので臨機応変に使うことにする。
魔力を追加して転がしていた風船は、まだ破裂せずに転がっているので一度時間を計る事にした。
リングでは魔法を発動してから約三分、カップ麺を茹でる時間程度しか持たない。
それに魔力を追加すると暫く持つが、10~20分もすれば魔力を抜いて消滅させていた。
魔力を追加すれば何時間持つのか、知っておく必要がありそうだ。
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