第6話 冒険者登録
巣立ちの儀には参加せずに、冒険者ギルドに行こうとして一騒動。
母さんに首根っこを掴まれて教会に出向き、創造神フェリーシェンヌ様の絵姿に巣立ちの日を迎えられた感謝の祈りを捧げる。
確かに風魔法を授かり、スキルも索敵と気配察知を獲得出来た。
鑑定も薬草なら70%程度の確立で判る様になったので、感謝するのは当然かな。
稼げる様になったら喜捨は弾みますと、現世利益を求めて真剣に祈っておいた。
冒険者になるのならマジックポーチは必要だろうと言われたが、テッドを助けた礼にランク2のマジックポーチを持っていると話すと驚かれた。
そしてパーティーが解散してからは、二月近く一人で街の外に出ていると知って雷を落とされた。
その為に一人でも安全だと教える為に防壁と名付けた風の防御陣、自分を中心に円形の暴風の障壁のミニチュア版を作って見せて納得させた。
教会の近くだったために俺が風魔法を授かったときに笑っていた奴等もいて、ミニチュア版の防壁を見て笑っていた。
「あんた、本当にこんな物で自分の身を守れるの?」
「これは見本で威力を落としているからね。実際はこの大きさで嵐の何倍も強い風に包まれるんだよ」
そう言って微風ながらも俺と母さんを包んだ高さ3mの風で包んでみた。
その風を手に受けながら「何時の間にこんな物を作れるようになったの」と聞かれたが薬草採取の合間に練習していたと言葉を濁しておいた。
夕食の前後に窓の外を見ながら練習していたとは言い辛いからなぁ。
「この防壁の風が本気で吹くと、砂埃や石を巻き上げてウルフなんかじゃ抜けられないので安心してよ」
* * * * * * *
母さんを納得させてから冒険者ギルドに出掛けて受付で冒険者登録に来たと告げると、二階の大部屋へ行けと言われた。
二階への階段を上がると扉の開いている部屋が大部屋だと聞いたが、先客が二名いて何やら書き物をしていた。
「お前も冒険者登録か?」
「はい、宜しくお願いします」
一枚の紙を渡されて、住所、生まれた年月、授かった魔法とスキルを書けと言われる。
生まれはライナス、番地は要らないらしいので、統一歴610年6月生まれ。
授かった魔法は風魔法と書き、スキルは何も書かずにおいた。
書き終わって筆を置いたが、誰も何も言わないし講習があると聞いていたので黙って待つ。
「もう居ないようなので、冒険者の規約を説明しておくので良く聞いておけ。知らないとか忘れたなんて巫山戯た言い訳は通用しないぞ」
説明はライナスの爆風のお手伝いをしている時に、皆から色々と聞いているので退屈な話だが、居眠りをする訳にも行かず必死で眠気と闘った。
冒険者ランクはテッドがCランクの一級で、後はDランクの二級だった筈だが、マルコはDの一級だと聞いたような。
〔Sランク〕名誉ランク、プラチナに二重丸の真紅のギルドマーク(紋章)で伯爵待遇。
〔Aランク〕プラチナカード、プラチナに真紅のギルドマーク(紋章)で子爵待遇。
〔Bランク〕ゴールドカード、一級・二級。
〔Cランク〕シルバーカード、一級・二級。指名依頼を受けられる資格と、強制招集の対象となる。
〔Dランク〕ブロンズカード、一級・二級。
〔Eランク〕アイアンカード、二級。
〔Fランク〕アイアンカード、一級。(登録一年は Fランク)
受講者の用紙を眺めていたおっさんが「坊主は、テッド達の手伝いをしていたレオンか?」と聞かれた。
「はい、そうです。パーティーはどうなりました」
「解散したままだ。お前は索敵と気配察知が出来ると聞いているが?」
「授けの儀で、望むスキルは練習次第と言われました。練習をして少しは使えますが、スキルと確認していませんので書きませんでした」
「テッドが、なかなか肝の据わった奴だと褒めていたぞ」
* * * * * * *
下に降りて、受け付けカウンターの水晶球に掌を乗せる。
「レオン、16才、風魔法、魔力93、索敵スキルと気配察知スキル・・・鑑定も少し使えるの?」
「薬草を鑑定して、十本のうち七本程度は薬草と判ります」
「そう、それじゃ鑑定スキルは登録出来ないわね」
渡されたギルドカードはアイアンの物だが錆びそうな黒ずんだ色で、丸い楯に丸が一つに剣と槍が交差するギルドマークの下に、ライナス冒険者ギルドとレオンの名が記されていて下に横線が一本。
裏返せば、点描で俺の顔が浮かび、その下にライナス610年6月生まれ。
風魔法、魔力93、索敵スキル、気配察知スキルと書かれている。
「おーし。今日から冒険者だが、気を抜いて簡単に死ぬなよ」
それだけ言うと、掌をひらひらと振って解散と知らせて背を向ける。
「レオン、何処かのパーティーに所属するつもりか」
「ミンツさん、爆風がなくなったので暫く魔法の練習をするつもりです。ミンツさんは?」
「スコットと二人で薬草採取をしながら、何処かのパーティーに入るか仲間を募るか思案中だ」
ミンツに誘われて食堂に行くと、スコットがにやりと笑う。
「テッドが褒めていたぞ。俺は流石に現場に戻る度胸はなかったし、街道に出るので必死だったからな」
「マルコに放った蹴りを見せたかったぜ。見事に金タマを蹴り上げたので、奴のがに股が酷くなったと笑い者になっていたぞ」
「レオンは索敵とスキルは俺並みだ、俺達と一緒にやらないか」
「俺は風魔法を授かっているので、この二月ほど練習していたので少しは使えるんですよ」
「風魔法か、どの程度の魔法なんだ?」
「自分一人の身は守れる程度です。ですので一緒にやるのなら練習がてらとなります。一、二年冒険者をしたら他の街も見てみたいので、その約束で良いのならお願いします」
「そうだな、自分の身は守れるっていう魔法を見せてもらおうか」
「だな、マルコのせいで死ぬかと思ったし、下手な魔法使いは要らないからな」
二人には、明日の朝西門で待つと伝えて別れた。
* * * * * * *
ランク2-10のマジックポーチなので、二日分の食料を仕入れてきたが当分野営をする気はない。
ミンツは野営の経験が有るはずだが、スコットはないと記憶している。
俺も安全が確保出来ない野営はしたくないし、ベッドの上で眠りたい。
「何処へ行く?」
「冒険者の来ない所で、街から見えない場所ですね」
「それじゃ門を出たら少し南の方に行くか。そっちは薬草も大して採れないし大物の野獣も滅多に見ないと聞くからな」
スコットの言葉に従い、西門を出て暫く歩いてから南側の草原に踏み込んだが、小一時間もすると草や木が疎らな場所に出た。
「ここならどうだ?」
「はい、少し離れて見ていて下さい」
二人が離れると〔つむじ風!〕を作り、段々と風速を上げ大きくしていく。
轟々と音を立てるつむじ風は小さな竜巻と言ってよく、ミンツもスコットもあんぐりと口を開けてみている。
カラータイマーが点灯したのか、いきなり風速が落ちてつむじ風が消滅した。
「いやー大したもんだな」
「ああ、風魔法と馬鹿に出来ないが、攻撃には使えないな」
「そういえば『自分一人の身は守れる程度』と言っていたな。それを見せてくれ」
スコットは俺の側に立ってもらい、ミンツには10m以上離れて危険だと思ったら即座に逃げてくれと頼んでおく。
何せ防壁は中からしか見た事がないので、巻き上げた砂埃や小石がどうなっているのか知らないのだから。
つむじ風は離れていたので何時ものようにつむじ風と呟いただけだが、少し格好を付けることにした。
〔防壁よ立ちあがれ、吹き荒れろ!〕と呟き、魔力を送り出す。
半径1.5mの防壁が足元からゆっくりと回り始め、轟々と唸りを上げて立ち上がっていく。
3mの高さになった時に大きくなるのを止めて風の回転だけを増していく。
隣に立つスコットをみると、今度こそあんぐりと口を開けて見ている。
スコットの肩を叩いて感想を尋ねたが、目の前で轟音を立てる防壁を指差して震えている。
三分しか持たない防壁だがそれを教える気はないし、魔力を追加すれば延長も可能だからな。
三分経ち防壁が消滅すると、青い顔をしたミンツがやってくる。
「お前、身を守れる程度じゃねぇぞ。危なくて近寄れない! てか即座に逃げたぞ。大物は判らねえガ、ドッグ系やウルフ程度じゃこれを破るのは無理だな」
「そんなに凄かったのか? いや、内側から見ても凄いのは判ったけど」
「それじゃ、ミンツさんと代わって外で見ていて下さい」
ワクテカ顔のミンツが俺の横に立つと〔防壁よ立あがれ、吹き荒れろ!〕と、中二病発症間近の掛け声と共に魔力を送り出す。
ちょっと恥ずかしいのでこれからは防壁だけにして、問われたら口内詠唱をしている事にしよう。
今度は3mの高さになった時にミンツの腕を叩き、轟々と音を立てて回る防壁を指さす。
指差した所から上下に分離させて、15㎝程の隙間を作るとお目々をパチクリさせている。
「いやー、風魔法が役立たずなんて誰が言ったんだよ」
「マルコのしょぼいファイヤーボールより強力じゃないか」
「でも今のところ、攻撃手段は石ころを飛ばすくらいですからね」
「いやいや、この防壁ってのが有ればウルフの群れ程度は恐れる事はないぞ」
「あー・・・先に言って置きますが、一定時間経つと消滅しますよ」
「へっ?」
「何が?」
「さっきの防壁ですよ。まぁ新たに作れば良いだけですが、土魔法のように出来上がるとそのままって訳じゃないのをお忘れなく」
「ブラックベアを防ぐのは無理でも、一定の間攻撃を防げればいけるぞ。あの隙間は何時でも作れるんだろう」
「それは問題ないです。防壁が消えそうになったら新たに作りますし、別な使い方も出来ますので」
「判った。稼ぎは均等割でどうだ。スコットも良いだろう」
「ああ、問題ない。宜しくな、レオン」
「昨日言ったように時々魔法の練習をするので、一週間のうち一日か二日は休みます。それと二年程度と思っていますが、何時抜けてても文句を言わないで下さい」
「判った。それまでに俺達も仲間を募る事にする」
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