狂乱少女達の粛清 〜異世界召喚されたのは女神から派遣された魔王を殺す最恐少女達でした〜

@karabanano

プロローグ:女神の手より遣わされたもの

 異世界召喚。

 それは世界を救うために、神がこの地へと送り出す“希望”である――はずだった。

 だが今や、それは年に一度の“祭儀”に過ぎない。

 この国では、救済の祈りよりも先に「どの国が勇者を引き当てるか」という賭けが行われる。

 魔王が国を焼き、民が泣き叫び、王が嘆こうとも――神々は沈黙している。

 人間たちはただ、次の“英雄”にすべてを押しつけるだけだった。

 その夜、王城の最深部。

 薄暗い石の間で、十数名のローブを纏った者たちが、巨大な魔法陣を囲んでいた。

 魔法陣は金糸のような光を放ち、空気がひび割れる。

 やがて、その中心に立つ司祭が震える声で呪文を紡いだ。


「我らが祈りを受けし神よ……どうか救世の勇者を、いま一度この地に――」


 金と煙が爆ぜた。

 光は目を焼き、音は耳を裂く。

 歓喜と欲望と恐怖が混ざりあい、地下は熱を帯びた混沌に包まれる。


「これで我が国が魔王を倒す!」


「英雄だ、ついに本物の英雄が――!」


 光が収まる。

 そして、そこに“二つの影”があった。

 白髪。

 少女。

 同じ顔のように似た二人。だが、雰囲気はあまりにも異質だった。

 一人は軍帽をかぶり、青い瞳の奥に蛍光ピンクの星が瞬いている。

 もう一人は糸のような目を細めて、ただ静かに笑っていた。


「……ここは、あぁ、またか。」


 低く、冷たい声。

 その言葉は、まるで“人間界”という概念に飽きているようだった。


「師匠、またお仕事ですか?」


「んー……多分ね。魔王、いるみたいだし。ちゃちゃっと終わらせようか。」


 その軽さに、召喚者たちは呆然とした。

 少女たちは、誰も説明していないのにスキルウィンドウを開き、淡々と確認を始める。


「スキル:『武器創造』、『英雄の加護』。……また当たりだ。」


「私のは『狂気』と『聖女の加護』ですね~。わぁ、久しぶりに良い引きです。」


 言葉の意味が、誰にも理解できなかった。

 だが、本能だけが理解していた。

 ――この二人は、“人間ではない”。

 王が震えながら問う。


「お、お二人は……異世界の勇者様、ですよね? 魔王を倒すために――」


「勇者? いや、違うよ。」


 少女――セインはスナイパーを肩に担ぎ、片手で軽く弄ぶ。

 銃口が床をかすめるだけで、空気が悲鳴を上げた。


「私たちは“粛清者”。神に派遣された、修正プログラム。」


「……この世界、欠陥だらけですからねぇ。」


 セイラが微笑んだ。彼女の目を見た瞬間、側にいた兵士のひとりが膝をつき、泡を吹いて倒れた。


「師匠、もう壊れちゃいましたね。」


「うん。やっぱり、脆い。」


 セインは銃口を天井に向け、引き金を軽く引いた。

 轟音。

 天井が崩れ、光が差し込む。

 城の上層で眠っていた人々が、何が起きたか理解する前に、すでに“無音”の世界へ落ちていった。

「じゃ、出発しようか。魔王は後でいい。まずは――」

「“この国”からですね。」

 二人の少女は、崩れゆく城を背に歩き出した。

 神の派遣は完了した。

 彼女たちが救うのは世界ではない。神の均衡であり、人類の終焉だった。

 それは、神々の笑う“粛清劇”。

 そして、ここに幕が上がる――狂乱少女達の物語が。

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