第16話 目撃情報

【音声記録ファイル:Witness_Phone_Call_003.wav】

収録日時: 2025年6月23日 16:30

対象者: 匿名希望(フードデリバリー配達員・20代男性)

(※対象者は身元を明かすことを拒否したため、電話でのインタビュー音声のみとなっている。)


水野: 「お忙しい中、ありがとうございます。2月22日の夜、目黒の百段階段あたりで、奇妙な女性を見たと、SNSに書き込みをされていましたね」


配達員(の声): 「ああ、まあ……。警察にも一応話したんだけど、全然相手にされなくてさ。こっちも仕事中だったし、あんま詳しくは覚えてはいないんだけど」


「あの日は雨が降ってたんだよ。夜7時前くらいかな。配達先に向かうんで、バイクで百段階段の下を通りかかったら、階段の途中に、傘もささずに女が一人、立ってたんだ。街灯の光が、ちょうどその女に当たっててさ」


「それが、気味悪くてさあ。とにかく、細いんだ。棒みたいに。風もないのに、髪とか、着てた白いワンピースみたいなのが、ゆらーって、ゆっくり揺れてるの。水の中にいるみたいに。一瞬、『マネキンか?』って思ったくらい、人間っぽくなかったな」



【資料抜粋:音声・映像データ解析報告書(抜粋)】

映像解析所見:

対象の女性が映り込んでいるのは、約1.5秒間。雨天の夜間撮影であり、ハレーションも激しく、人物の特定は不可能。ただし、通過直後の0.2秒間、女性の姿が垂直方向に不自然に引き伸ばされ、フレーム全体が激しく乱れるという、通常では考えられないデータ破損が確認された。

音声解析所見:

映像の破損と同時刻、音声データに、22.5kHz(キロヘルツ)前後の極めて高い周波数のスパイクノイズを記録。これは、人間の可聴領域をわずかに超えている。

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