第2話
「会えたの?」
帰ってきて居間に戻ってきた俺に
「あ うん」
あの調子だと風紀は俺とシェアする気はないだろう。だが一応、毬にも伝えておこうと説明をする。
「実は使ってない部屋が空いてるからシェアしないかと誘ってみたんだ」
「え…何で?」
何故そんなことする必要があるのか、疑問に思った毬が俺に尋ねた。
「し…親しくしていた後輩だったんだけど ちょっと揉めごとになって遠縁になってしまったからせめてと思ってね」
「ふぅ~ん」
毬が不思議そうに軽い返事をしていた。
「風紀っ!」
「…ごめん行く宛が見つからなくて…やっぱりその…シェアの件なんだけどお願いしたいんだけどいいですか…」
昨日の態度と全く違い、困っているようだった。
「俺の方は全く構わないよ 何かあったのか?」
心配になり聞き返してみる。
「…仕事が…リストラにあって明日から来なくていいって言われてしまって…」
俯きながら俺にぼそりと告げた。十五年前本社に入社した時も飲み込みが遅いので教えるのに苦労したことを思い出す。風紀は今まで職を転々としてきたのだろうか、そういえば百合が前田家の話をしていた時、奥さんが
「
「あ…まぁ とりあえず中へ」
俺は部屋を案内するために中へと誘導した。居間にいた毬がジュースを飲みながらテレビを見て寛いでいる、俺が帰宅したと思い目線を向けずに言葉を発する。
「お父さんおかえり…」
風紀はそんな毬に会釈しながら挨拶を交わす。
「すいません お邪魔します」
「えっ いいえ ゆっくりしていってください」
毬が風紀に気づいて持っていたジュースをテーブルに置き立ち上がって返答を返していた。俺は二階の空いている部屋へと案内した。二階は三部屋あってもちろんトイレもある。一部屋は毬が使っていて、後の二部屋は誰も使っていない。一階に居間と台所と脱衣所、浴室にトイレがあるうえ部屋も二つある。当時、
「いつから移ってもいいですか」
「えっ」『俺的にはいつでもいいけど…』と思いながら「まかせるよ」と返答した。
「ありがとうございます 助かります」
風紀が俺にお礼を言いながら頭を下げる。俺はよっぽど切羽詰まっていたのかと、ひどく心配になった。風紀が帰った後、俺は毬に事情を説明して「風紀親子とシェアすることにしたけどいいか」と尋ねる。一つ上の引きこもり青年がいることもとりあえず話した。返答を濁していたけれど「まぁ困ってるんじゃしょうがないよね」と渋々承諾してくれた。
風紀がその一週間後に俺の家に引っ越してきた。学校は休みだが、毬は演劇部の活動で朝早くから家を出たのでいない。引っ越し業社の車が来て、二階の部屋に荷物が運び込まれていく。運び終わるまで俺と風紀は居間で待機していた。
「僕の物はこれといってないんだけど息子の物が多くて…」
「…趣味多才なのかな?」【オタクとか?】と考えながら苦笑した。
荷物がすべて運び込まれて業者が帰っていくと、風紀の息子が姿を現した。居間に顔を出し一礼する。
「あっ待って」
その姿を確認した風紀が息子を呼び止める。
「息子の
風紀が息子を紹介していたが既に本人の姿はなく、
「む…ずかしい年頃ですよね」と悲しそうに呟いた。俺はそのぼやきに、なんて返していいのか分からず軽く首を傾けた。
風紀は借りていたアパートの方へ最終確認と大家に挨拶するために、とりあえず戻っていった。俺は一人で荷物整理は大変だろうと思い、残っている風紀の息子の部屋へ足を運んだ。彼の部屋で目にした光景に驚き声をあげる。
「すごい機材だね」
すごいPC機材がそこには存在していた。
「仕事道具ですからネットアルしています」
「すごいね データ処理等も出来るの?」
「はい やれることは何でもやります」
「ギャラ払うから今度仕事頼んでいいかな」
「はい」
これには正直驚いている。『引きこもりなんてものじゃないっしっかり自立しているじゃないかっ!』俺は冬紀くんに感動していた。
戻ってきた風紀ととりあえず居間で一服し二人でお茶をいただいている際、冬紀くんのことを話してみる。
「冬紀くんすごいねPC使いこなしていて俺は感動したよ」
「…僕はそういうのに疎いから分からない スマホも使いこなせていないしね」
風紀が沈みながらぼそりと呟く。
「…そうか」【相変わらずアナログ派か】
冬紀くんは奥さんに似ているのか風紀には似てない気がした。冬紀くんは歳の割にしっかりしていたが、風紀は相変わらず頼りなく危なっかしいからだ。二人の性格は真逆だ。重たい空気が漂っていく。そんな中、冬紀くんが居間に顔を出した。
「掃除機貸してもらえますか」
「はい 今 二階に持っていくよ」
「ありがとうございます…えっと…」
「
そういえば自分の自己紹介がまだだったと気づき告げると冬紀くんも返答する。
「
「了解」
俺は立ち上がり掃除機がある収納室へと向かった。
冬紀に掃除機を持って行った後、居間へと戻ってきて風紀の横の椅子に腰をかけた。
「浪樹はどんな相手にも対応できて羨ましいです」
「どうしたんだ」
また何かあったのだろうかと不安になる。『今後のことでも気になったのか?リストラされて明日から仕事ないからとかか…』
「不景気だから仕事も中々見つからないだろう 見つかるまで家のことやってくれると助かるけど どうかな?」
「…」
「風紀?」
風紀が黙って俯いてしまう、俺は気を悪くしたのだろうかと気になり始め、不安になっていった。
「…前と同じだね 僕は結局浪樹におんぶに抱っこのままだ」
「それは違うよ 自分に出来ることを一生懸命やれればいいと思っているだけだよ」
風紀が俺の言葉に俯きながらコクリと肯いていた。とりあえず風紀は家の家事全般をやってもらうようにお願いした。もちろんギャラは払うつもりだ。だけど風紀が家賃の方を払っていないのに、それはできないですと濁すが、部屋代を引いた賃金の支払いということで手を打った。俺は帰宅後家事をやらなくて良くなりホッとしていた。繁忙期は家の中の散らかりようが半端ない。毬も基本家事はやらない。まぁ部活と勉強でいっぱいいっぱいだからだ。だが、流石に風紀が洗濯をすることになるっと告げた時は「きゃー自分で洗うからっ」と悲鳴をあげていた。食事の方は時間が合わないのでみんなで食べることはなかった。
風紀が家の家事に慣れてきた頃だ。俺の仕事も忙しくなり帰宅する頃には家は静まり返っている、毬は今、試験勉強の最中らしく部屋に電気が付いているのが目に入った。『頑張っているな』と思いながら、玄関前に立ち扉を開けようとした時、扉が開いた。それに驚きわぁーと声が出た。まさかっ!玄関扉の前で立っていると思っていなかったのだろう
「あっ浪樹っごめんなさい」
「どうした?こんな時間にどこかに行くのか?」
「…浪樹は夕ご飯食べたよね」
風紀が俺の問いに考え込こみながら沈んだ声で発した。その雰囲気に少し考え込みながら、
「…疲れているな~ 一緒に甘いものでも食べに行くか?」
夕食は軽く食べたため少し返答を濁し、風紀を誘う。
「…」
「うん?…風紀は夕食まだだったのか?」
風紀の返答がないので聞き返す。その問いに風紀が首を横に何度も振り、
「ならスィーツ食べに行こう」
俺は再度風紀を誘うと、ゆっくりと首を縦に振った。
二人でお店まで夜道を歩きながら会話を交わす。「いつも僕だけが周りに溶け込めないんです」
「どうしてそんなことを思うんだ」
「毬ちゃんといつの間にか冬紀が仲良くなってた」「あぁ 毬は誰とでも仲良くなるタイプだから別に取って食わないと思うが…大丈夫だと思うが…」『親として気になるのかなぁ』
「えっ…あっ違うんだ」
風紀が慌てて誤解を否定する。『まぁ本来なら女の子を持つ親が気にするのか?…』と自分の中で思い返した。
「僕は頼りない親なんです だからバカにしているんです」
「…そんなことはないだろう」
風紀と冬紀の親子関係は良くないのは見ていて分かっていた。風紀が俺の言葉にムキになって叫ぶ。「何でもこなす浪樹には分からないよっ」
そんな風紀の頬に手を差し伸べ名前を囁く。
「…風紀…そんなことないから 気にするな」
俺は風紀を宥めるように声にした。
「…うん…ごめんなさい」
風紀は年の割に子供っぽくすごく素直だ。またそこが俺は昔から気に入っていた。時間はかかるが覚えると丁寧にこなしてくれる。だから根気強く仕事に対してもプレイベートに関しても面倒を見てきた。昔を思い返して自分の中でほっこりとしていく。つい嬉しくなり無意識に風紀の手を握っている。
「…浪樹…」
「えっ…あっごめん」
俺がそれに気づいて手を離そうとした時、
「お店…終わってるけど」
「あれ…」
風紀の言葉でお店に目を向ける、俺は電気が消え暗くなったお店を呆然と見つめていた。
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