時駆リベンジ(ときかけリベンジ)
ぽんコツ16番
第1話
俺の妻が入院した。突然だった。そして妻が「病院に来てくれる?」と連絡をもらい俺は仕事帰りに病院に寄った。結婚して十五年目になる、俺たちには、中学三年生の一人娘がいる。病院の受付で妻と面会する為に病室に案内してもらった。妻の部屋A棟ー二〇五号室 個室だった。ドアを開けて入ってすぐに妻が明るく俺に挨拶を交わす。
「
「
娘の毬は呼ばずに俺だけを呼んだことを疑問に思いながら、ベッドの横にある椅子に腰をかけた。
「毬はまた別の時に一緒に来てもらうことになるからいいの」
妻がにっこり笑って言った。
「…ところで体調はどうなんだ?」
妻の病状はあまり詳しいことは聞かされてない。
「実はね~癌でした しかも余命半年です」
妻が俺の質問に人ごとのように軽い感じで答えた。
「…」
俺は言葉を失う。
妻
十五年前いきなり俺の前に現れて「あなたの子供がいて できれば一緒に育ってほしんだよね」と言った。百合とは大学時代居酒屋で酔っ払っている時に知り合い意気投合して一度だけ関係を持った相手だった。俺はその後、就職して職場で後輩と親しくなり同棲していたし、ある意味ショックだった。でも子供が出来たなら責任をとらなければと、かなり悩んだ。でも最終的に一緒になった…いや…なるしかなかったが正しい。罪悪感からだと思う。生まれた子供には罪はないのだからと。
「…ごめんね 結局全部 浪樹に押しつけて去るんだなぁって」
百合がまた軽い感じで言った。
「…」
俺的になんて返せばいいのか分からず無言だった。
「私 浪樹には悪いことしたってずっと思ってた 浪樹は好きな人いたのに私のせいで別れてしまった訳だし…」
百合がまるで最後に懺悔をするみたいに俺に語る。
「…もう終わったことだからいいんだ」
俺は目を逸らして返した。
「本当は毬は一人で育てようと思っていたんだ…だけど…お父さんは?って毬に聞かれた時どう答えればいいのか分からなかったし それに私…悪い癖があるから自信がなかった」
俺は百合の話を不思議に思いながら黙って聞いていた。
「ごめん私さ またやっちゃったんだよね」
俺は百合の言葉にきょとんとした。
「所帯持の可愛い子にちょっかい出すの好きでさ 最初友人としてと思ってたんだけどつい手出しちゃった」
俺は百合の告白に固まる。
「それは…浮気したけどごめんってことなのか?」
俺が百合に聞き返した。
「そうです毬ができてからは卒業した…つもりだったんだけど…見つけてしまったの私の血をまさぐるほどの好みの子が」
俺は百合が語る口調に何故だろう「しょうがないな」という気持ちになる。
百合の口調と言い回しに和み、悪いことをしたのに許してしまう方へと、誘導されてしまう不思議な感覚があったが…
「お互い所帯があって子どももいるから この辺にしておこうって別れ話したら相手が旦那と別れるって言い出してさ いや~まいったよ」
けど…徐々に百合が他人事のように軽い感じで自分のやらかしたことを語る楽観的さに怖さを感じていく。
それに…『あれ?不倫していた相手女性?』と頭の中で何度も思い返し混乱した。
「でさ かなり揉めたけどようやく諦めてくれて別れたんだけど その子死んじゃった」「っ!」
俺がその告白に驚いて椅子から立ち上がり、話が一瞬途切れるが、百合がまた話を始めた。
「お願いがあるんだ その子に旦那と息子がいるんだけどさ 友人になってくれないかな」
「なっ何言ってんだよっ」
俺は百合がめちゃくちゃなことを言っているので叫んだ。
「そうだよね分かってる 彼女自殺したんだ 私のせいだった 彼女の家族は崩壊家族でね息子は中学入ってからいじめで引きこもりになって旦那の方は職場を転々としていて人付き合いをうまくやれない不器用な人って彼女がよく言ってたよ」
百合が悲しげに微笑みながら更に語る。
「…」
楽観的な言い方とは裏腹に本当は彼女をふったことを後悔しているのかと思わせる。百合が俺の手を取りメモを手渡す。手渡されたメモを開いてみると住所と名前が記されている。
【◯︎県 ♡町●丁目1 206号
「っ! 前田風紀!?」
俺はその名を見てかなり驚き動揺した。
「知っているよね彼のこと」
「百合おまえ…」
「私もびっくりしたよ 運命のいたずらなのかね…だって今でも好きでしょ」
俺は百合の言葉に震えた。
「私と浪樹は同胞でしょ」
百合がにっこり笑って微笑んだ。百合はいつから知っていたのか俺が同性愛者だってことを。俺は百合が同性愛者だったことを知らなかった。十五年間も一緒にいたのに、いかに
「俺…」
「何?情けない声出して 申し訳ないのは私の方だよ解決できなかったことを浪樹に押し付けだね ごめん後のことをお願いします」
そして百合は半年後還らぬ人となった。
「お父さん早く行くよ」
毬から催促されて家を出る。毬は百合に似て明るい性格で、誰とでも仲良くなるために友達が多かった。中学からの友人で高校が一緒の子たちも多いため学校に着くまでには、同じ高校に通う友人らが集まっていく。
「お父さん後でね」
俺は正門の所で毬に手を振った。入学式の会場へと向かい設置された椅子に腰を降ろした。ずっと迷って考えていたことを思い起こす、百合から頼まれたことだ。今だ実行に移せないでいる、今更どんな顔をして会えばいいというのだ。それにいきなり行って「友人になりましょう」もおかしすぎる。どっちにしろきっかけがなさすぎるだろうと、悩んでいた。
その時、俺の肩に何かが、ぶつかって目線を向けた。相手が申し訳なさそうに頭を下げる。「す…すいません」
そして頭を上げた。
「っ!」
十五年も経っていたけど面影はあった
「…?」
「あっ失礼」
俺は、はっとして目を逸らすと
「えっ!」
「もう席に着いた方がいいですよ」
その言葉に
「…
「!…なぜ どこかでお会いしましたか?」
「あっ…妻が…奥さんの友人でした…」【そうだよな…俺のことは…覚えてないよな】
「…」
俺は咄嗟に思いついたことを口にして濁すが、奥さんのことはタブーだったのかと、前田風紀が無言になった、だが重たい口を開き言葉にした。
「…妻は一年前に亡くなりまして…」
「すいません…ご愁傷様です」
本当はすべて知っていたが、俺は話に合わせて返答していた。でも息子さんは引きこもりだって聞いたが高校に入ったのかという疑問が頭に浮かぶ。
「うちの娘は一組です前田さんのお子さんは何組ですか」
昇降口玄関で組分け票が張られていたので、自分の娘の話題を盾に話を続けた。
「…うちはもう一年繰越しです いろいろありまして…でも今年からオンライン通信学科が設けられたと聞いて再度受験して合格しました本人にも入学式ぐらいは一緒に行こうと言ったんですけど説得できませんでした とりあえず僕だけ入学式に参加したんです」
「そうなんですか」
俺の中で同い年かなぁと踏んでいたが、毬の一歳上なのかと今の話で分かった。
「どちらにお住まいなんですか」
更に親しくなろうと俺は質問した。
「…引っ越そうと思っていまして今探している所なんですけど中々条件に合う所がなくて…」
その話に俺の中である思いを抱くと無意識に尋ねていた。
「一緒にシェアしませんか?」
「えっ?」
風紀がきょとんとしている。無理もない。今日あった相手に一緒に住まないかと言われたのだから、実際広い家だった。中古で購入した家だったようだ。百合がすでに所有していた家だ。実際二階の部屋は二つ空いている。
「いきなりすいません部屋が空いているものでアパート借りるよりも安いと思うしこちら側としても家賃が入るのでお互いにとってメリットかなぁと思いまして」
「あ…家の場所はどの辺なんですか?」
風紀が俺の提案に少し喰い付いた家の場所を聞いてきた。俺が家から学校が近いことを説明した。そして興味を抱いたようで式が終わったその後、家の方を見学しにくる約束をした。
式が終わり毬と合流したが友人等と帰るからと昇降口で別れた。そして約束した風紀と一緒に自宅へと歩く、一緒に歩きながら名前を名乗らないとと思いつつも戸惑っていた。そして自宅に到着する。玄関門で立ち止まっている俺に風紀が名前を尋ねる。
「ところであなたの名前は…」
俺に問いかけながら表札を目にして風紀が固まる。
「うっ…まさかとは思っていたけど…あなたは…知ってて声をかけたんですかっ」
風紀が俺に問いはなった。【風紀も
「いや…面影があったからもしかしたらと思って声をかけてみた」
「奥さんが妻の友人だってことは嘘ですか」
「いや本当だよ 妻も亡くなっている半年前にね」
「じゃ何故僕に近づいたんだっ」
風紀が怒りを露わにしながら叫んだ。
「妻が君の奥さんと仲が良かったから心配していてね」
風紀は異性愛者だったんだと思い自分の気持ちを殺して説明した。
「なんですかっ同じ思いをした同士 傷の舐め合いですか」
風紀が俺を睨みつけながら発し、この場を去ろうとした時だ。
「まって!そうではない」
風紀の手を取った。本当のことなど言えるはずもない、忘れるわけがないずっと好きだったことをそして、未練たっぷりに今でも好きだということを。
「何ですかっ僕の気持ちは無視ですか」
俺は風紀の掴んだ手を離すことができない。
「離してくださいっ」
風紀が俺に叫ぶ。この手を離してしまったら十五年前のあの日と同じように終わってしまうと思うと、手を離すことができない。俺と風紀は玄関先で立ち往生していた。
そして…
「お父さん 何してるの?」
帰ってきた毬が立ち往生していた。俺と風紀を不思議に思い声をかけた。風紀が流石に場が悪いと感じたのか立ち去ろうと、
「僕はこれで失礼します… えっ ちょっと…」
俺は風紀の手をしっかり掴んで離さなかった。それを見て毬が呆れながら風紀に告げる。
「せっかくだから入って行ってください…お父さんよっぽど会えたの嬉しかったんだと思う すいませんけど良かったらお茶でも」
毬が風紀に和むように声をかけた。風紀もそれには流石に「では少しだけお邪魔します」と改めてくれた。
「いい加減手を離しくれないかな」
風紀が家に入る前に冷めた口調で俺に放った。
「あっごめん」
あまりに力が入り過ぎていたために硬直している。俺はゆっくりと手を離した。その姿を見て毬が風紀の横に着く。
「すいません お父さん仕事の鬼だからきっと友達いないんです だから仲良くしてください」毬が風紀にそっと告げ口していた。
居間へ案内して毬が「コーヒー入れますけど大丈夫ですか」と問いかける。風紀がコクリと肯いたためコーヒーを入れて出してくれた。毬が興味津々であれこれと質問していて俺はゆっくり風紀と話すことができずにいた。
そして俺が少し席を外して戻ってきた時だ。
「あれ?風紀は…」
風紀がいないので毬に問いかけた。
「お邪魔しました さようならって言って帰ったけど」
毬が自分のコーヒーを口に含んで飲み込んだ後、俺に告げた。俺はそれを聞いて急いで玄関を飛び出し風紀を追いかけた。
「風紀っ」
恥じらいもなく大声で叫んだ。
「部屋の方見学しないのか」
「遠慮しておくよ」
俺の問いに即答で風紀が答えると家路へと歩き出した。俺はそんな風紀を後ろから強引に抱きしめていた。
「っ!」
風紀はびっくりしていたが、俺はそんなことはおかまいなしに、更に強く抱きしめた。
「なっにするんだっ」
強く抱きしめられて抵抗しながら風紀が叫んだ。
「ごめん…会えたことが嬉しかった…いなくなった時…ずっとずっと探したんだ…」
感情が抑えきれなかった。大の男の大人が情けないが涙が溢れた。十五年前のことを思い出す、風紀が俺に子供がいることを知っていきなり姿を消したことを。
「結局は別れることになるんだから同じだよ」
風紀の冷たく感情のこもってない声のトーンに俺は虚しくなる。だけどここで諦めたくない、あの時と同じ思いはしたくない。
「本気なんだ一緒にシェアすること もう少し考え直してもらえないか」
俺はもう一回、風紀に問いかけてみるが、風紀からは何の返答もなく黙ったまま俺から遠ざかっていった。俺はそんな風紀の後ろ姿を見えなくなるまで見つめていた。
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