隣のお姉さん
ガチャ、扉を開く音が二重に聞こえた。
あれ? と思いつつ、身を乗り出して開いた扉越しに右隣を見てみると、今まさに俺と同じように自分の部屋から出てこようとしている女の人がいた。
髪はダークブラウンのセミロング、肌は抜けるように白い。薄化粧のその人は俺よりいくつか年上に見える。そして、とても美人だ。
「こんにちは、今日引っ越してきたの? わたし、
お姉さんの美貌に見惚れていると、鈴を転がすような声で話しかけられる。
ハッと我に返った俺は慌てて廊下へ出て、扉を閉めた。そして部屋から上半身を乗り出している野田さんへ頭を下げる。
「きょ、今日引っ越してきた
緊張のあまり最後の最後で噛んでしまったが、こんな美人を前にしたら緊張するのは仕方ないだろう。
くすくすと控えめに笑う野田さんに、俺は照れくさくなりながらも母親から託された焼き菓子セットを差し出す。
「よかったら食べて下さい」
すると野田さんは眉を下げ、困った顔をする。
「わたし、アレルギーがあるから決まったものしか食べられないの。せっかく気をつかってもらったのにごめんなさいね」
目に見えてしょんぼりする彼女を見ていると、俺の方が申し訳なくなってしまう。
こういうのって、別の物を用意したほうがいいのだろうか? そんなことを考えていると、野田さんは笑顔に戻って続ける。
「何か困ったことがあったら何でも相談してね。わたしに出来ることなら何でも力になるから」
キラキラと輝く笑顔に胸がきゅんとする。
「あ、ありがとうございます!!」
野田さんは「じゃあね」と短く言うと、体を引っ込めて扉を閉めた。
とりあえず片方のお隣さんが優しいお姉さんでよかったと胸を撫でおろす。この調子で他の住人も感じのいい人だったらいいなと歩き出す。
でも野田さん、直ぐに部屋へと引っ込んだけど……外に出る用事があったから玄関を開けたじゃないのか? そんな些細な疑問は、他の住人へ挨拶をするという緊張に直ぐかき消されてしまった。
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