第15話 安全結界
異世界生活、三日目。
「おはようございます、ユーリさん」
「おはようイールス、シェラ」
「うむ」
シェラと昨日仲間になった勇者イールスと朝の挨拶。
これから共同生活をする仲間だ。
お互いに名前で呼ぶことにしている。
「て……なんだこれ」
それはさておき、朝からいきなり目を疑うような光景が広がっていた。
目の前には区分けされた巨大な肉の塊。
昨日までなかった物体に驚く。
「ああ、これですか? 昨日倒したエルダーサイクロプスです。先ほど解体しておきました。あまり放置しておくと血の匂いで別の魔物を呼び寄せますし」
驚く俺にイールスが答える。
す、すげえ……迫力だな。
「食べられるのか? これ」
「はい……少し癖はありますけど、ただしく下処理すれば美味しいですよ」
「おお……」
魔物肉、抵抗あるけど、毎回あの栄養食じゃ飽きるしな。
まぁ見た目はアレで、忌避したい気持ちはあるけど。
やっぱり、できることならお肉を食べたいです。
「まじで助かるよ、さすが勇者様だ」
「自給自足は旅や探索の基本ですからね、これぐらいは」
腕を前に出してグッと力を入れる勇者。
正直助かる。
イールスも褒められて少し嬉しそうだ。
ちょっと鎧が血で赤く染まっているのが怖いけど。
「それと、聖剣で魔物避けの結界を張っておきました……この近くに魔物が寄ってこないように」
「じゃあ、ダンジョン入口近くなら地上でも安全に食事したりできるってこと」
「ええ、さすがにここを離れると、効果は薄れますが……」
な、なんて有能な子なんだ。
ストレス感じながら食事なんてしたくないからな。
「朝はこれを焼いて食べようか?」
「私も、そう思ったのですが……」
「火種ならシェラの魔法で作れるんじゃないのか?」
「燃えそうな小枝とかが、全然見つからなかったんです」
火を維持する、薪の代わりになる植物が見つからなかったそうだ。
じっくり火を通して調理するとなると、長期間火を維持する必要があり、シェラの少ない魔力では足りなくなる。
「どうなっているんですかね、ここの植物は……全然燃えないんですけど、それに、異常なほど頑丈というか……」
試しに一本枝を拾う、ずっしりと重かった。
森が火事になる心配はないだろうが、これはこれで困る。
「じゃあ、今は焚火一つ起こせないってこと?」
「そう……なりますね」
「ま、真面目な話、今が冬でなくてよかったよな」
「ええ」
ここにはエアコンやストーブといった文明の利器もない。
ティーシャツとジーパンで冬を超えるとか、マジで無理だぞ。
マジでそれまでに解決策を見つけないとな。
生で肉を食べる勇気もない。
朝も固形栄養食をスープにして飲むことに。
さすがに飽きてきたが、文句を言っても始まらない。
お腹も膨れたところで、環境の改善のために三人で相談を始める。
ぱっと思いつくだけでもやるべきことは多い。
地形変動して孤島と化したダンジョン周辺の把握。
昨日と同様のダンジョン内部の探索。
ただ昨日までと違い、俺たちには勇者イールスという強力な戦力がある。
一緒にいれば、揉め事が起きても大体なんとかなりそう。
「各自、とりあえず今、欲しいものを言ってくれ」
「我はやはりベッドが欲しい! 地面が硬い、体痛いぞ、睡眠の質が最悪だ。全然寝れん」
なるほど、ベッド……と。
「じゃあ、えぇと私は……その」
「なんでも言ってくれ、できるかどうかは別の話だ」
「贅沢かもしれないですが、で、できたらお風呂が欲しいです」
「お風呂か……いいな」
俺も入りたい。
日本人……お風呂大好き。
それ抜きにしたって衛生管理は大事だ。
病気の発生に繋がるし……。
スキル構成的に病気にはかからないかもしれんが。
「まぁ勇者の言う風呂はともかく、水源の確保は必須だろうな」
「シェラ?」
「飲み扶持が一人増えたし、我の魔力では飲料水に絞ってもギリギリだ、他に回す余裕がない」
やはり、まずは水の確保か。
イールスがちゃんと魔法を使えればよかったんだけどな。
それを言ったら気にするので言わないでおく。
「勇者が魔法を使えればなぁ、こんなことを考えずに済んだのになぁ」
「う、ぐ」
顔を顰めるイールス。
シェラの奴、遠慮せずに言いやがった。
「で……水源のあてはあるのか? 近くに河川とか」
「地形変動したせいで、今はどうなっているのかわからん」
そうだった。
「だが待てよ、そういえばあっちの方に……ついてきてくれ、昔使用していた井戸があったはずだ」
千年前、ダンジョン地上入口に存在した庭園。
そこの水撒きに使用していたらしい。
シェラについていくと、昔の井戸らしきものを発見。
穴はボウボウに伸びた草や苔で隠れ、石が茶色く変色し、井戸と言われなければ気づかないほどボロボロだったが……。
長い間メンテナンスもしておらず、井戸の中も積もった瓦礫や土砂で埋め尽くされている。
「中の瓦礫を撤去して、深く掘ればまた水が出るかな?」
「かもしれんな」
「では、やりますか?」
スチャッと金属音がした。
力仕事は私の出番とイールスが前に出る。
「ま、まてっ、馬鹿者が……」
「ば、馬鹿ですとっ!」
イールスを急いで制止するシェラ。
「聖剣の破壊力なら深く掘れるが、悪戯に土砂だけ増やしても、簡単には上に運べんだろう。下手に掘れば、崩れて作業量が更に増えるぞ」
「……う」
そうなったら、作業終了まで何日もかかるだろう。
体力のある勇者でも道具がなければ、土砂を上に運ぶのは大変だ。
こんなのいちいち、手作業でやるわけにもいかないしな。
「面倒だのう、我に魔力があれば、魔法でこんなのちょちょいといけたのだが……」
「まぁ、ないものねだりをしても仕方ないさ」
「そうなんだがな」
(道具か……)
掘削機、シャベルカーなんかが欲しい。
でもここは工事現場ではないし、そんなものはない。
ただ、この世界では魔法やスキルがある。
既存の方法に縛られちゃ駄目なんだ。
土砂を運ぶ……簡単に運ぶ、そんな何か。
「ふぅむ……あ!」
「どうしたユーリ?」
ちょっと閃いたぞ。
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