第14話 三人目
ま、まさか大陸から完全隔離されていたとは。
衝撃の情報を知る。
「千年の間に大地震でも起きたのか、地形変動とは」
「ち……ちなみにここ、船はありません、よね」
「あるわけないだろう、そんなもの……元は陸の真ん中にあった場所だぞ」
「……」
勇者の発言をはっきりと否定するシェラ。
現状、脱出不可能ということを理解した様子。
「さて、驚きの連続だろうが、勇者さん」
「え、は、はい」
「大体の現状は理解して貰えたようだし、話の続きをしてもいいか?」
ちょっと話が中断したが。
俺は勇者に考えていたことを告げる。
彼女助けたことにもつながる話だ。
「勇者イールス、この島で生きるために、その力を俺たちに貸してもらいたい」
「……え?」
この島でも俺たちの現状についてしっかり話す。
外でとんでもない魔物に襲われたこと。
最低限の食事のみで、寝床も満足に確保できていないこと。
とにかく余裕がないことをお伝えする。
「話はわかりました……で、ですが」
「ですが……なんだ? まさか蘇った我をまた封印するつもりか? この我を? ああ、今も冷たい刃が身を切り裂く感触が残っておるわ」
「わ、私を殺人狂みたいに言わないでください!」
シェラの言葉に叫ぶ勇者。
「しませんよ、今の貴方からはあの頃の力を感じない、微塵も脅威はありませんしね」
「まぁ、事実だろうな、腹立たしいが」
不愉快気に呟くシェラ。
「そもそも、私が貴方を殺すわけがないとの算段があったから、助けたのでしょう?」
「ああ、汝は我のことが嫌いではないらしいしな」
「は、何を言って、あっ、あああああああああああああっ!」
「くくくく」
急に赤面するイールス。
からかい面白そうに勇者を見るシェラ。
一体なんの話をしているのだろうか?
「な、なんという不覚……ですが、シェラルクール、貴方はそれで本当にいいのですか? 私たちの関係は……」
「関係とは一体なんだ?」
「え?」
質問に質問で返すシェラルクール。
二人の背負っていたものは守るべきものは消えてしまった。
千年経過した今、人間たちがどうなっているのかも不明。
千年の時が勇者と魔王、二人の戦う理由を流してしまった。
「過去と現在はすべてが同じではない」
「それは……で、ですが」
「話はあくまでユーリの提案だ。事実、確かに我らには足りないものが多すぎる。この島で生きるには協力する必要がある。勘違いするなよ、すべてを水に流していきなり仲良くなろうとなどと馬鹿なことは言わん。だが今は人と魔の戦争から……千年後の世界だ、憎しみを持ち込みたくはない」
「……シェラルクール」
口元に手を当てるイールス。
色々と考えているのか何十秒と沈黙の時間続く。
「外に出て情勢把握したいところではありますが……今の状況ではそれも叶いません」
「そうだな」
「ですがユーリさんには助けて貰った恩もあります。シェラルクールが納得するのであれば」
「そうか、我も汝が頷くのであれば我慢しようと思う」
「…………は?」
「あぁ?」
睨み合う両者。
め、めんどくせえなぁ、この二人。
でもなんだかんだで話は一応、纏まった……らしい。
「ですがシェラルクール……何故そのような、思わず抱きしめたくなるようなお可愛い姿になったのですか?」
「お可愛い言うな、封印したお主の方が詳しいのではないのか?」
「いえ、さっぱり検討がつかないのですが」
頭を撫でようとする勇者の手を振り払う魔王。
「ま、話も終わったし、二人とも飯にしようぜ、飯……」
「ユーリ……そうだな、せっかくだし夜空を見上げながら外で食べるか?」
「だ、大丈夫か?」
「勇者がいれば問題あるまい」
そのままダンジョンの外へと出る俺たち。
星がよく見えて田舎の星空みたいだ。
「ちなみに、ご飯ってどれですか?」
「ああ、これだ」
「うん」
「え? ええっ……なんですかこれ」
茶色いブロック栄養食をイールスに手渡す。
「どうやって食べるんですか?」
「そのまま食べてみるがいい、がぶっと、おもいっきりな!」
「は、はい……えいっ…………し、しょっぱあああっ!」
ごほごほと咳をするイールス、
「ふははははは! 馬鹿めがっ!」
「こ、子供みたいな悪戯をしてぇ……いえ、子供でしたね。今の貴方は……」
イールスが楽しそうに笑っているシェラを睨む。
一人増えて一気に騒がしくなったなぁ。
食事は美味しくなかったけど、ほんの少しだけ楽しい時間に感じられた。
食後。
「ユーリさん……あの」
「なんだ?」
「助けていただいてありがとうございました。まだしっかりとお礼を言っていませんでしたので」
「ま、色々思うことはあると思うが……これからよろしくな」
「ええ、こちらこそ……」
白髪を夜風にたなびかせながらイールスが呟く。
「シェラルクールも、ありがとうございます……一応、礼を言っておきますよ」
「いらん、そんなもの……感謝するならユーリだけでいい」
「でも貴方は彼が私を助けるのを止めなかったのでしょう」
「ただの気まぐれだ。ユーリが言わなければ助けなかった」
よく言うよ……助けたいって言ってたじゃん。
まじまじとシェラの顔を見つめるイールス。
恥ずかしくなったのかシェラが顔を背ける。
「にしてもまさか、貴方と一緒に生活することになるとは思いもしませんでした」
「主に、貴様が罠にかかる間抜けだったせいだがな」
「今の貴方にだけは言われたくありませんよ!」
「ふん、精々頑張るのだな、我らのために……馬車馬のように働け!」
ワイワイガヤガヤと元気な声。
そんな会話をしていると、地響きがした。
「ギュオオオオオッ!」
咆哮を上げてご登場したのは見覚えのある姿。
エルダーサイクロプスである。
前も食事中に来たし、もしかすると匂いにひかれてやってきたのか?
「勇者来たぞっ! 来たぞっ! おい魔物が来たぞ勇者! 早速汝の出番だぞっ!」
「もう、何度も言わなくても聞こえていますよ」
俺たちを守るように前に立つ勇者。
「早くしろっ! ぶった斬れ! ぐずぐずするなっ! 我らの心の安寧を守るのだ!」
「む、昔はもっと凛々しかったのに、わ、私の宿敵ながら、あまりにも情けないですっ!」
哀しそうに背後のシェラを一瞥するイールス。
『グルアアアアッ!』
エルダーサイクロプスの巨体がこちらに飛びかかってくる。
しかし……あっさりと聖剣で一閃。
分厚い筋肉の鎧は意味をなさず、胴体から完全におさらばだ。
「……ふぅ、こんなもんですかね」
「すげえええええええっ!」
剣戟とかまったく見えんかったわ。
さすが勇者様、マジで心強いっす。
「ま、これぐらいは簡単にできねばな。我と戦った時はこの程度はこんなもんじゃなかったはずだ」
「な、なんで、そんなに偉そうなんですか、貴方は……」
なんにせよ。
こうして頼りになる仲間が増えたのだった。
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