第22話 スキルとは
二階建ての居城、一階のキッチン。
スケイルリザードの鱗でできた門が閉ざされた秘密基地の中で、俺はユウタ、コウジ、そしてサナの三人の猛烈な視線に晒されていた。
「それで、オヤジさん」
サナが、俺のバキバキに割れた腹筋を指差しながら、興奮気味に尋ねた。
「その猛毒のリザード肉を食べて、死にかけたらムキムキになった……ってことなんですね」
「ああ、まあそうなんだけど」
俺はため息をついた。今日の話題は、当然、俺の超人的な肉体変化についてだ。
目の前のテーブルには、俺が第三層から持ち帰った、スケイルリザードのピンク色の肉塊が置かれている。しかし、誰もそれに食欲をそそられない。当然だ、あれは象をも数分で殺す猛毒らしいからな。
「悪いな、今日はモンスター肉がない。いや、猛毒のスケイルリザードの肉ならあるんだけど……食うか?」
「あんた、それで死にかけたんだろーーッッ!」
「う、うん。まあ、そうなんだけど」
俺は濃いドクダミ茶を啜った。
「多分だが、俺が猛毒の肉を食べて死ななかったのは、昔から悪食で多少毒に耐性があったからかもしれない。だから、ギリギリのところで生き残れたんだと思う」
この考察には、コウジも納得したようだ。
「悪食だったお陰で生き残れたってのは、かろうじて信じられます。悪食オヤジさんのその体は、並大抵の毒じゃ効かないでしょうね」
「はは、だろ。俺、腐ったもん食べても腹壊さないからな」
コウジとサナは顔を見合わせ、呆れと感心の混ざった笑みを浮かべた。
「で、問題はそこからですよ」
サナが前のめりになる。
「生還したらムキムキになってたってのは、どういうことですか?」
俺は腕を組み唸った。これに関しては、俺自身もわからない。
「苦しんでた時に全身に力が入っていたことによる筋トレ効果……いや、違う。あのポヨンポヨンの体が、一晩でムキムキになるわけがない……」
「多分これも……これも悪食か?」
「んなことあるかーーッッ! そんなのあれば、とんでもスキルっすよーーッッ!」
俺の適当な発言に、ユウタが全力でツッコんだ。だが、その言葉を聞いたコウジの表情が一変した。
コウジは目を輝かせ、俺を見た。
「スキル……覚醒か! 悪食オヤジさん、それ、多分本当にスキルだと思います」
「スキル?」
俺は首を傾げた。スキルなんて、ゲームの世界だけの話だと思っていた。
「探索者の中には、ごく稀に、特別な能力――スキルを持っている者がいるんです」
コウジが説明する。探索者界隈では、スキルを持っている者を「覚醒者」と呼ぶらしい。
「手から火を出せる者、病気を治す治癒能力を持っている者、肉体を硬化できる者。威力や効果は人それぞれですが、身体に異変が起きた時や、極限状態を乗り越えた時にスキルが発現するんです」
「俺が……覚醒者?」
「はい。で、そのスキルのトリガーとなったのが、猛毒の摂取と、生還。俺の推測ですが、悪食オヤジさんのスキルは『悪食』そのものじゃないですか?」
「それ、スキルなのか? ただの性質じゃないか」
「いや、先例がないだけで、『強いモンスターを食ったら強くなる』的な、規格外の能力かもしれません」
たしかに俺の体は、ただの筋肉増加ではない俺の悪食が、俺の才能として開花したというのか。
そこで、ユウタが興奮を抑えきれない様子で身を乗り出した。
「オヤジさん、それ最強の配信ネタっすよ! 『悪食オヤジ、覚醒!』! 試しに深層に行きません? どんなモンスターを食ったらどうなるか、ライブ配信しましょう!」
「別にいいけど、サナちゃんもいるんだぞ? 危ないんじゃないか」
俺の返答に被せるように、サナが目を爛々と輝かせた。
「行きます!
サナにとって、危険は探求心を掻き立てるスパイスにすぎないようだ。
「まったく、変な三人組だな」
俺は呆れたが、その実、俺自身もスキルの正体が気になっていた。
「ところで、コウジ君も覚醒者なのかな?」
俺が尋ねると、コウジは短槍を手に取り、静かに頷いた。
「ええ、俺がB級になれたのも、このスキルのお陰です」
「どんなスキルなの?」
コウジはニヤリと笑った。
「ダンジョンの深層で見せますよ」
スキル。そんなもの、初めて見る。俺の元テレビマンとしての好奇心が芽生えた。
こうして、俺たち四人は、それぞれの目的――好奇心、稼ぎ、素材、料理、そしてスキルの正体を胸に、ダンジョンの深層へと向かうことになったのだった。
一章完
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