第21話 犯罪の代償
短槍を構えた俺の前に、リーダーと残りのBランク探索者が、恐怖で後ずさりしていた。
(よし、一気に二人を無力化する。殺さないように)
「く、来るな! これ以上近づいたら、久遠の弟を殺すぞ!」
その言葉は虚勢だった。構わず近寄る俺から逃げようと背を向けた。
「逃さんよ」
俺は探索者の間に踏み込んだ。
短槍は「ジャキン!」という音を立てて伸長し、先端の刃が引っ込む「物干し竿モード(棍)」へと瞬時に切り替わる。
俺は物干し竿モードの短槍を、渾身の力で二人の探索者の背中側に、魚付きを放った。
ゴンッ! ゴンッ!
俺が狙ったのは、人体で最も衝撃に弱い部分の一つ――脇腹と肝臓周辺だった。
二人の探索者は、同時に「うがぁっ……!」という短い悲鳴を上げ、その場で蹲った。二人とも脂汗を流しながら悶絶している。
戦闘は、あっという間に終わった。
「はい、おしまい。コウジ君、助けに来たぞ」
俺は猿轡を噛まされたままのコウジを解放し、短槍の刃でロープを切った。
「ちゃんと撮れたか? ユウタ君」
ユウタは、三脚の裏で顔面蒼白になりながら、コクンと頷いた。
「は、はい……バッチリ……だと思います」
俺は、地面に転がるB級探索者を見下ろした。
「そうか。よし、この犯罪者どもを縛って連れて行くか」
俺は持っていたロープと、彼らが使っていたロープを使い、三人の探索者をきつく縛り上げた。
コウジの瞳は解放された喜びよりも、俺の圧倒的な力に対する驚愕で満ちていた。
「あ、悪食オヤジさん、あんた……何者なんだ」
俺はワイシャツの胸のボタンを留めながら、コウジの言葉にフッと笑った。
「ただのホームレスだよ。さあ早く行こう。こんなところで油を売っている暇はない。借金が四万五千円もあるんだ」
ダンジョン入口――
俺たちが地上に戻る頃には、夕方になっていた。
コウジは出口の鉄柱に探索者たちを縛り付けた。ユウタはスマホを彼らに向けて、配信を再開した。
「はい、皆さんこんばんは! 悪食オヤジの緊急特番です! えー、コウジさん誘拐未遂犯の、B級探索者の皆さん。インタビューのお時間です」
ユウタは、相変わらず容赦がない。縛られた探索者たちは、顔を背けたる。
「ダメダメ、顔を映さないと。視聴者の皆さんが見たがってるっすから」
ユウタは容赦なく回り込み、リーダーの顔をスマホのカメラを向ける。
「えー、コウジさんを誘拐した理由を教えて下さい。久遠イッキへの恨みですか?」
「……」
「だんまりっすか? 残念ですね。でも、大丈夫ですよ。あんたらの悪事は、全世界に配信されちゃってるっす」
コメント欄が、一気に沸騰した。
『配信の力ってすげぇなwww』
『悪食オヤジ、強すぎだろ』
『てか悪食オヤジ、なぜムキムキになってるんだよww』
『うほっ、いい体ww』
『コウジ、解放されてよかった』
そして、すぐにコメント欄の性質が変わった。
『特定班、出動!』
『B級探索者なんて、ギルドの情報抜きゃすぐだろ』
『リーダーの顔、Xで見たぞ。加藤タツヤじゃね?』
ユウタは、コメント欄をスクロールし、ニヤリと笑った。
「へぇ、あんた、加藤タツヤっていうんっすね」
縛られたリーダーが、顔面を上げ、驚愕の声を上げた。
「な、なぜ……! なぜ俺の名前を!」
「だから言ったでしょう。最近の配信は怖いんすよー。すぐ特定されちゃうんすよ。お、他の二人の情報も出てきたぞ。えーっと、佐藤と山本……あ、二人の実家の住所と、高校時代の武勇伝まで出てきたっす」
情報が、まるで洪水のようにコメント欄で暴露されていく。
「な、やめろ! 個人情報を晒すな!」
騒ぐ探索者たち。
「すまなかった。許してくれ! 俺にも家族がいるんだ。この映像が晒されたら……」
リーダーは、血の気が引いた顔で懇願した。
「あ、多分もう遅いっすよ。さっき、ギルドに電話で通報したっすから。コウジの誘拐と、悪食オヤジさんを殺そうとした殺人未遂。両方で通報済みです」
ユウタのサイコパス的な配信者根性は、プロの探索者たちすら容赦しない。
『ユウタ容赦ないwww』
『悪食オヤジよりユウタの方が怖い』
『特定とギルド通報までワンセットかよ!』
数分後、ダンジョンの入口に、探索者ギルドの職員が到着した。彼らは厳めしい表情で状況を確認し、鉄柱に縛り付けられた三人の探索者を連行していった。
コウジは呆然として、その様子を見送った。
「……ユウタ、お前、容赦ねぇな」
「当然っすよ。コウジを縛ったんだから、このくらい当然の報いっす。投げ銭もすごいっす! これで借金は全部チャラっすね!」
ユウタは興奮冷めやらぬ様子だ。
俺も、サナへの借金がこれで一気に返せると安堵した。
しかし、この一件、俺の配信は大反響を呼び、B級探索者を裸のマッチョが圧倒するという映像は、ギルド内部やネット上で大拡散された。
これで一件落着。とは行かなかったんだ。
俺の圧倒的な戦闘力と、その正体の曖昧さは、ギルドと、そして多くの探索者たちに「悪食オヤジとは何者か?」という、新たな疑念を抱かせることになったのだった。
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