第10話 罠にわなわな
「二階建ての家を建てるぞ!」という宣言に、ユウタとコウジは歓喜した。
二人は、目の前にあるアイアンワームの鉄筋で、ダンジョン内に家を建てるという確実バズりそうな企画に、興奮を隠せない様子だった。
クラフト開始。
(アイアンワームワイヤーの強度は想像を絶する)
アイアンワームを極限まで引き延ばして作った細いワイヤーは、市販の番線(結束線)よりも遥かに強固だった。しかも軽量だ。
まずは、二階建ての構造を支える、伸長させたアイアンワームパイプを組んでいく。
俺が最も得意とするのは、舞台や撮影セットの「骨組み」だ。いかに素早く、そして頑丈に、構造物を固定するか。しかもアイアンワームの強度があれば、柱の要らないツーバイフォー工法的に建てられると踏んだ。
結束線としてワイヤーを交差部分に巻きつけ、ハッカーという工具で一気に締め上げる。重要なのは、締め上げた後にワイヤーが緩まないことだが、アイアンワームワイヤーは硬いため、一度締め付けるとまるで溶接したかのような強度を発揮した。
「すごいっす! 鉄筋が、あっという間に組まれていく!」
ユウタが叫ぶ。
そして二階の床の基礎となる横の鉄筋を固定すると、その上には、ホームセンターで買った合板を敷き詰めた。
トントン、ギュルルルッ!
インパクトドライバーの音がダンジョンに響き渡る。一階は居住空間、二階は寝室。完成に近づくに比例して、ワクワク度が上がるのがDIYの楽しいところだ。
圧倒的な手際とスピードで、二階建ての骨組みが、ものの数時間で完成した。
ユウタは配信画面から目を離さない。
「オヤジさん! すごすぎっす! 『ダンジョンに悪食オヤジ城が建築』のコメント欄が祭りです! 投げ銭が止まらねぇっす!」
俺のDIYが、そのままコンテンツとして最高の結果を生み出している。これが、テレビマンだった俺のセカンドキャリアなのかと思うと、少しだけ感慨深い。
その時、ユウタの顔色が変わった。
「あれ……ちょ、オヤジさん、これ」
ユウタが指差した配信画面には、不穏なコメントが流れていた。
『ホームレス風情が金儲けするな。お前の家、破壊しに行く』
『場所、特定したぞ。覚悟しとけよ』
『ダンジョンはギルドの管轄だ。通報済み』
アンチコメントだ。俺は気にしなかったが、コウジとユウタは違った。
「ヤバいっす。これはガチのやつかもしれない。悪食オヤジさん、アンチの中に探索者がいたら、一人じゃ守りきれません」
コウジは、静かに短槍を握る。
配信終了後。
「罠を作りましょう。アンチの中にいるかもしれない対探索者用に」
罠。
その言葉に、俺のクリエイター魂が、また別の意味で燃え上がった。
「罠か! いいな、それ!」
俺が以前、テレビの企画で罠猟師のドキュメンタリーを制作した際、その面白さにハマり、狩猟免許まで取ったことを思い出した。命を奪うためではなく、獲物を無傷で確実に捕らえるための精巧な機構に、当時の俺は心を奪われたのだ。
俺はすぐにアイアンワームワイヤーと、岩壁の窪みから剥がした硬い木材の枝を取り出した。
「あ、罠作りは配信しないでくれよ。罠の意味なくなっちゃうから」
俺の言葉に、ユウタがハッとして、スマホを仕舞った。
「ターゲットは人間だ。殺傷能力は論外。確実に動けなくする拘束が目的だ」
俺が選んだのは、罠猟の基本であるくくり罠だ。
まず、足首を狙うワイヤーの輪を作る。人間が踏んでも切れない強度が必要だが、同時に、骨を折るほどの締め付けにならないよう、ワイヤーの長さとバネの力を調整する必要がある。
俺は、アイアンワームワイヤーを二重に編み込み、輪を形成した。そして、岩壁から採集した硬い枝を加工し、バネとしてワイヤーを締め上げる力を生み出す機構を作った。
踏み板には薄い合板の切れ端を使い、地面の泥や小石で完全に隠す。
チキチキ……
インパクトドライバーを使い、木材とワイヤーを固定していく。俺が師匠と崇める罠猟師に教わった秘伝のくくり罠。
通路の要所、十箇所に罠を設置し終えた頃には、完全に夜になっていた。
「よし、これで完成だ。コウジ君、この罠にかかってみるか?」
「いや、遠慮します。オヤジさんの作った罠は、絶対に抜けられない気がするんで」
コウジは顔を引き攣らせた。
「ははは、意外と痛いからな。君たちには、罠の解除方法を教えておくよ」
この日は、念のため、ユウタとコウジも新居に泊まることになった。二階の床には防水シートを敷き、寝袋を並べる。
「わー! 寝心地良っ! 最高っす!」
ユウタはベッドの寝心地に感動していた。
「今日は風呂と鍋で、新居の完成祝いをしましょう」
コウジが笑う。
俺たちは交代で、荷台シートの風呂に入った。温かい湯が体の芯まで染み渡る。
そして夕食。今日の鍋の具材は、キングラットとセリに加え、新居の建設中にコウジが買ってきた味噌と、隠し味にニンニクを加えた。
俺は鍋奉行として、味噌が焦げ付かないように丁寧に混ぜながら、グツグツと煮込む。
「悪食オヤジ特製、キングラットとセリの特濃味噌鍋マキシマムだ!」
湯気が立ち上り、味噌とニンニクの香りが、キングラットの臭みを完全に消し去り、濃厚な旨味だけを残している。
コウジが一口。
「美味い! 醤油ベースも驚きましたが、味噌のコクが、この肉の硬い繊維を旨味に昇華させている! これは、もはや極上です!」
ユウタも勢いよく食べる。
「ヤバいっす、オヤジさん! この鍋、商品化できますって! 悪食じゃなくて、ダンジョングルメですよ! 通販しましょうよ」
二人の若者は、夢中で鍋を平らげた。
食後、俺たちは二階の寝室で、アンチの襲撃に備えながら床についた。二階は快適で、ぐっすり眠れそうだ。
寝袋にくるまり、俺は静かに笑った。
(アンチどもよ。せいぜい楽しませてくれよ)
俺の心は、不安よりも高揚感で満たされていた。罠師としての血が、先程の鍋と同じくらい熱くたぎっていた。
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